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第二話『ゲイル』(七)

 マイン候私兵団は十人しか居ない。それでも、そこらの騎士団数千人程度ならば、相手にならない強さを持っていた。


 俺達は、マイン候からの指令で身元を明かさず戦争への介入や魔物の討伐を行ったが、戦力として群を抜いていた。

 もちろん、皆がみな戦闘能力に優れる訳ではない。ヨルンやホルン、モリオなどは戦術担当だ。

 しかし、魔法は使い方次第。ある時などはヨルンとホルンの二人だけ、敵対する両軍に潜入しての情報操作だけで双方を壊滅させたこともある。




 一番の危機はやっぱりドラゴン討伐の時か。オルグが命懸けで放ったあの一撃が無ければ、あのドラゴンは倒せなかったかもしれない。


 なぜ、あの時オルグが命を賭してまでドラゴンからあの村を守ったのかは分からねぇ。

 ただ村の生き残りにいた餓鬼がドラゴンの火炎嚢に適正があり、俺達の中でも最強の魔法使いになれたのは、柄にもなく何か運命みてえなものを感じた。




 そんな火炎竜が逝っちまった。そんな時がいつか来るかもとは思っていたし、今回の王国騎士団の進軍では、生きては戻れねぇと感じていた。

 それでも余りに呆気ねぇもんだ。


「なあ、ミグロウ。こりゃ、あん時のドラゴン討伐よりもやべぇかもな」

「そうかもね。今迄、あれが一番だと思ってたんだけどなぁ」

「俺もだ。こりゃ、あの世でオルグに自慢出来るな」

「へへっ、そうだねぇ。笑われないように頑張ろうか」


 二人とも敢えて火炎竜の死には触れない。言葉にすりゃ、怒りに我を忘れちまうかもしれないからだ。

 初期からオルグと共にし、その忘形見と思っていた火炎竜には、二人とも強い思い入れがある。

 先ほどの力なく崩れる様、火炎竜は確実に死んでいる。それを直視出来る程、俺達は強くなかった。


 ここには私兵団残り九人が揃っている。大軍なら兎も角、相手は一人。オルグの、火炎竜の穴は俺が全力で埋めてやろうじゃねえか。


「お前ら、気を引き締めろ! 見た目は女だが、あれは神だぞ!」

「その神って呼び方、どうにかならないかしら。この世界の唯一神は主様なのよ」


 ミリャトは不満気に言った。


「主様? 誰だ? お前の主は陛下じゃないのか」


 殿下の持っていた宝玉は、王家の宝具と呼ばれていた。本当の神ではないにしても、この女は王家に組する存在じゃないのか。


「へーか? ああ、この国の王のこと。あんな塵と主様を同列にするなんて、貴方、何を考えているの」

「ご、塵だってよ、ゲイル」


 どういう事だ。

 俺達は何と戦おうとしているんだ。


「まあ良いわ。さあ、行くわよ?」


 ミリャトが艶めかしく右手を掲げると、手から光を放ち始める。先程の光線か。


「ヨルン、ホルン後ろに下がっとけ! モリオも一緒に背後を警戒しろ!」


 突然の半減に王国軍は機能停止しているが、また進軍して来るかも知れねぇ。

 三人は直接戦闘に向いてない。だが、これで俺達はこの女、ミリャトに集中出来る。


「他はこいつの相手だ! 全員でかからなきゃどうにか出来そうにねぇぞ!」


 右手が振り下ろされると同時に閃光が放たれる。さっきは不意打ちだったが、身構えてりゃ避けられなくもねぇ。


「避けろ!」


 掛け声と共に跳躍した。俺が前に出て閃光を引きつける。

 紙一重で光線を避けたが、接近しつつ避けられるのは俺かミグロウくらいだろう。


「あら、避けられるの」


 火炎竜を貫いたあの威力、鎧や盾で受けられるとは思えねぇ。

 とにかく避ける。


「俺とミグロウで攻撃する! 他は補助に回れ!」


 左右から冷気の風と氷柱が放たれる。

 続けて無数の空気の刃がミリャトを襲う。

 それに合わせて、俺は右腕に力を込めた。肩から先が赤黒く変色し膨れ上がる。

 倍にもなったが、まだ力を込めるのを辞めない。出し惜しみしてる場合じゃねぇ。奥の手だ。


「ふん、涼しいわね」


 ミリャトが両手で針の如き光を幾本も放つ。冷気と氷柱、竜巻を貫き、打ち消している。


「効かなくても良い! 続けろ!」


 牽制だけでもミリャトの手は塞がる。その間にも力を込め続ける。

 右腕の周りに瘴気が漂い始め、漆黒の鎧を形造る。まるで元の姿のようにしっくりとくる。これで全力だ。


「よし! ミグロウ、行くぞ!」

「うん! 切り刻んであげるよ!」


 ミグロウはその長い両腕に短剣を持ち、鞭のようにしならせながら切りつける。その剣速は蝙蝠の羽搏きの如く、俺でも見切れねぇ。


「女に手を上げるなんて、酷い男ね」


 だがミリャトは余裕を見せつつ避ける。

 ミグロウの剣速でも捉えられないか。神と呼ばれるのも伊達じゃないな。


「おらあっ!」


 ミグロウを飛び越えるように前に出て、右腕の全力で長剣を叩きつける。避けても衝撃波で吹っ飛ばしてやるつもりだった。

 ミリャトは避けずに両手に光を集め、俺の一撃を受け止めた。白刃取りの要領で長剣を掴む。

 俺は舌打ちした。

 受けられた事に少なからず動揺しちまった。一瞬、俺の動きが止まる。


 ミリャトはそのまま脚を振り上げると、強烈な蹴りを入れてきた。

 どんな力をしてんだ。俺は後ろに居たミグロウごと吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられた。


「がはっ」「うげっ」


 二人して痛みに声を上げた。だが寝ている暇はねえ。追撃に備え、すぐに起き上がる。


「いたた……」

 

 然し、その間も支援組が、絶えずミリャトを攻めてくれていた。負傷を与えられている様子はないが、不快な表情をして、俺達の魔法を潰している。


「後ろがうざいわね。ちょっと静かにしてなさい」


 ミリャトが後方を攻撃しようと注意を向ける。その隙を逃さねぇ。俺とミグロウはすぐにミリャトに接近し、再度斬り付けた。


「おりゃりゃりゃりゃ!」


 ミグロウが腕をしならせながら、上下左右、立体的な攻撃を仕掛ける。

 常人ではミグロウの剣の軌跡も追えないだろう。だが、俺はもう三年もこいつと一緒に戦っている。ミグロウの剣戟の隙間をついて、最大剣速で長剣を振り抜いた。


「おらっ!」


 ミグロウの短剣を捌いている所に俺の長剣が迫る。

 避ける為、ミリャトは上半身を大きく仰け反らせた。だが、長剣の先が僅かにミリャトの頬を掠める。


 その端整な顔に細い筋が入った。


「ああっ!」


 俺達は一人では戦わねぇ。見た目が女だから卑怯な気分にもなるが、これが俺達の戦い方だ。


 ミリャトは頬を押さえ、顔を真っ赤にして震えている。


「わ、私の顔に傷を付けるなんて……。貴方達……、いえ、お前ら覚悟しなさいっ!」


 更に瘴気の濃度が増した。

 ミリャトの身体が光に包まれる。いや、身体の内側から光を発しているのか。


「大人しく待っていなさい。お前達二人は嬲り殺すわ」


 光球になったミリャトが一瞬で視界から消える。


「……これで煩い塵は居なくなったわね」


 突然、背後からミリャトの声が聞こえた。

 振り向くと、補助に回っていた四人の胸に、火炎竜と同じ風穴が開いたところが目に飛び込んできた。


「お前ら!」


 四人が崩れ落ちる。


「ゲイル! 集中して!」


 ミグロウが短剣を構え直す。その握りはぎりぎりと音を立て、血を流さんばかりに強い。

 俺も気を取り直し、長剣の柄を強く握り直す事で怒りを抑える。


「お前達は苦しんで死になさい」


 ミリャトが両手をこちらに向け、光線を撃つ。何本もの光の筋が俺達を襲う。


「これで避けられないでしょ」


 ミリャトは妖しく嗤い、更に光線を増やしてきやがった。

 必死に避けるが駄目だ。避け切れない光線に、俺は咄嗟に左手を前に出し、身体を庇う。光線に当たった左腕は、消し飛ばされた。


「ぐあぁ! ……ミグロウ! 大丈夫か!」

「……うぅん、駄目かも」


 目を遣るとミグロウは両手足を吹き飛ばされ、横たわっている。こんな時も声は明るい。


「ミグロウ!」


 ミリャトが再び光球になり接近してくる。

 俺はミグロウを守るように立ちはだかるが、ミリャトは嘲笑うかのように、気がつくと背後に回りミグロウの真上にいた。


「まずは貴方から」


 ミリャトは無数の細い針のような光線を、ミグロウに突き刺した。

 全ての針を敢えて急所を外しているようで、ミグロウは痛みに叫び出す。


「うあぁっ! あ、あ、ああっ!」

「止めろ!」


 俺は残っている右腕で、ミリャトを斬りつけた。


「ちょっと、邪魔しないでよ」


 ミリャトはひらりと躱す。


「心配しないでも、後で遊んであげるわ」


 なおも俺は攻撃を仕掛けるが、悉く躱される。その合間にも、ミリャトはミグロウを痛めつけた。

 もうミグロウは身体中、穴だらけだ。


「もう良いわ。死になさい」


 ミリャトは気負いなく言い放ち、ミグロウを撃ち抜いた。


「ぐえっ!」

「ミグロウ!」

「……さ、先逝ってるね。……あと、よ、ろし、く……」


 ミグロウの眼が光を失う。


「これで貴方一人ね。ちょっと気が済んだから、貴方は楽に殺してあげようかしら」

「……もうちょっと遊んでくれや」


 勝てる気はしねえ。

 だが、右腕は残っている。まだ戦うのには困らねぇ。


「があっ!」


 長剣を振りかぶり、全身で突っ込む。

 ミリャトはまた剣を掴もうとして、何かを感じたのか、大きく避けた。

 剣は地面に当たり、爆音を上げた。


「……貴方、自慢して良いわよ。ちょっと怖かったわ」


 剣の撃ち抜いた地面が、あまりの剣戟に溶けている。


 ミリャトの手がまた輝き始める。


「人の枠であれば中々の戦力だわね。ちょっと惜しいけど、じゃあ、またね」


 ミリャトから光が放たれ、目の前を閃光が瞬く。こりゃ勝てねぇな。マイン候、あんまりアバレラレナカッタガ、ユルシテクレヤ、ブジニゲテ……。











 何かが消滅するのを感じ、私の身体が地に突っ伏した。周囲の瘴気を纏い、失った左腕を再生させつつ、身体を元の姿に戻していく。


「やっぱり貴方だったの、デミナス」


 立ち上がるとミリャトが声を掛けてきた。


『ミリャト・リカミルスか。何故ここに』

「こっちの台詞だけどね。主様のご命令よ。貴方が居るなんて知らなかったけど」

『そうか。私の処分ではないということか』

「……何か心当たりでもある訳?」


 ミリャトの瞳に剣呑な光が宿る。


『いや。ただ少々時間が掛かったのでな』


 ノビ平野に向かうゲイルを襲い、頭部を奪ってから三年以上が過ぎている。


「そう言えば、最近見なかったわね。こんな所で人間の真似事?」

『主の御命令だ』

「ふぅん、そう」


 ミリャトもそれ程関心は無かったのだろう。そもそも主の命令であれば、どの様なものであろうと絶対である。

 ミリャトがここに居るのも主の御命令であれば、私もそれ以上は詮索しない。


「ところで一緒に居たのはなんだったの? 大した事はなかったけど、普通の人間じゃなかったわよ」

『……これから主に報告に向かう。主の判断されることだ。必要があれば知らされるだろう』

「そう。じゃあ良いわ。貴方はもう戻るのね」

『ああ。貴様はどうする』

「私はもう少し遊んでから帰るわ。呼び出したあの餓鬼さえ生きていれば、何しても良いと言われているし」


 それじゃまたねデミナス、と言ってミリャトは丘を越えて向こう側に行った。まだ残っている王国軍にちょっかいでも出すのだろう。


 私は大鴉を呼び出し、宣言通り主の待つ城に向かう。




 大鴉で移動しながら考える。

 ゲイルになり三年を掛けて得た情報は、主の役に立つのだろうか。魔法使いがいる事は王家にも知るところとなっていた。主の耳にも入っているだろう。

 ならば、その作成方法を知るマインを捕らえた方が良いのではないか。ゲイル達は隠していたが、マインは蛞蝓の男と逃亡を図っている。今頃は港から出港しようとしているだろう。

 しかし、主には作戦が終わり次第、一度城に戻るよう言われている。

 

 矢張り報告が最優先である。











「以上が、顛末でございます」


 城に戻ると、直ぐに主への謁見許可が出た。私は主の待つ王の間に向かった。

 話を聞き終わると、主は私に面を上げさせた。伺うと主は玉座に深く座ったまま、考えを纏める時の癖である自らの白髭を撫でている。

 お預けしていた本来の頭部、白銀の兜はお戻し頂いている。


「報告は入っている。人間の身で魔法を使う者が現れた訳は、マインという人間の研究によるものという事だな」

「はい。マイン私兵団は全滅しましたが、マインと共に蛞蝓の男は逃亡しております。いずれ再起を図るかと」


 矢張り、主は魔法を使う人間に興味を持たれていらっしゃるようである。マインを逃したのは失策であったか。

 しかし、恥じるようにそう尋ねると。


「いや、それについては問題ない。いずれ魔法使いは現れるべきじゃと思っておった」


 主の答えは違った。


「現れるべき、とは」

「人間の進化は、限界が来ておるということじゃよ」


 人間とは進化するものなのか。


「主は、人間を進化させたいのですか」

「限度はあるがな。支配する種が優秀なのは喜ばしい事ではないか」


 カトレア王家とは真逆の反応を示されている。主の器の大きさが分かる反応だ。


「そういう訳じゃから、マインについては良い。王家の反応が分かっただけでも手柄じゃ。デミナス、それよりも、ゲイルとして過ごした三年間はどうであった」


 私の感想ということだろうか。私などの考えが、主の深慮の役に立つとは思えなかったが、望まれていらっしゃる事には、迷いなく答えた。


「はい。特徴のない人間でしたが、妙に思い切りが良いと言いますか。私が力を貸していたとは言え、勝てる可能性も考えず行動することが多く御座いました」

「ほう。他には」


 主は促す。


「……マインに対する忠義については、理解し難いところが御座います」

「どういう所だね」

「なんと申し上げれば良いのか……。主従の関係にありながら、距離が近いと申しますか」

「お前達の様な魔族にはそのような感情はないかもしれんな」

「私が主に感じおります忠義とは違うのでしょうか」


 しかしながら覚えている感情では、ゲイルのそれは心地の悪いものではなかった。だからこそ不思議なのだ。


「本質的な所では変わらんよ。ただ人間は強さ、弱さではない所も重視するということじゃろうか。聞く限り、ゲイルも始めからマインに忠誠を誓っていたのではあるまい」

「はい、おっしゃる通りです。私兵団に所属した際は、忠義というものはほとんど御座いませんでした」

「共に過ごした時間、仕える者の過去、そう言ったものが強く影響を与えるようじゃの」

「人間とは、なんとも曖昧な感情を持っているのですね」

「ふむ……、ゲイルの忠義は曖昧だったかね」


 何故か主は不安げな表情を見せる。


「いえ……。記憶を共有する中では、曖昧では御座いませんでした。あのような死地でも、それに立ち向かおうと言うのですから」


 間違いなくゲイル達では、ミリャトには勝てなかった。そうでなくても、あの戦争を生き残れたとは思えない。


「そうじゃろうの……。それが人間の怖さでもある」

「主が……、恐怖を?」


 主ほどの存在が恐れを感じるというのか。


「力で抑える事が出来ん部分なのだ。だからこそ充分に注意せねばならん。デミナス、お前は今回、それが少し解ったじゃろう」


 どうであろうか。ゲイルの記憶は持ち帰ったが、感情までは私が覚えている限りしかない。


「まあ追い追い、充分に理解すれば良い。……ところで、ミリャトの件は済まなかったの」

「い、いえ、主の深いお考えでの事。謝罪頂くようなものでは!」


 主からの謝意に、慌ててかぶりを振る。勢いで兜が外れそうになり、更に慌てた。


「くくく、いや、すまん、すまん。デミナスでも慌てる事があるのだな。ミリャトにはお前とは別の命令をしていての」

「ミリャトには王国軍とマイン領軍の殲滅を?」

「違う」


 主の顔に、愉悦と加虐に満ちた表情が浮かぶ。この表情こそが主の真骨頂である。


「あれについてはデミナスの功績も大きいのだ」

「私の?」

「まあ、マイン領私兵団の活躍だな。殿下と呼ばれていた餓鬼が居ただろう」

「はい。ミリャトには、あの人間は殺害しないよう指示していたとか」

「あれもカトレア侵攻の一環でな」


 そうであれば、あの子供も殺すべきではないか。


「先程の話にも関係するのだが、人間に限って言えば、力で抑えても本当の意味での支配は出来んのだ」

「本当の意味、ですか」

「一時的な隷属は出来よう。しかしいつの日か、必ずその支配は崩壊する」


 経験則だ、と主は少し疲労を浮かべて言った。


「しかし、今回はあの餓鬼が自ら王国民を差し出した。我等が殺す六千人と、自ら献上した六千人は、天地程に価値が違うのだ」

「そのようなものでしょうか」

「今に、いや直ぐに解るじゃろう」


 そこで主は話題を変えるよう、一息吐く。


「兎も角、今回でデミナスの有用性が確認出来た。すまんが直ぐに次の作戦に移ってもらう」

「御意。もとより我等は主の僕。何なりと申し付け下さい」

「次の潜入先は……」


 私は次の標的を告げられた。




 自室に戻り準備を進めていると、侍女が来客の報を持ってきた。

 面通しを許可すると、ミリャトであった。


「貴様も戻ったか」

「久し振りに外に出れて気持ち良かったわぁ。特に人間共を蹂躙するあの快感と言ったら。危く気を遣ってしまいそうだったわ」


 ミリャトは恍惚の表情を浮かべている。


「如何したの? なんか不満気な気配してるけど」

「む、そうか?」


 そんな表情をしていただろうか。ゲイルの影響を受けているのであれば、気をつけなくては。


「貴方また出るんでしょ? 私も連れて行ってよ」

「何を言っているのだ? 出来る訳無いだろう」

「主様の御許可は頂いたわよぉ」

「な、何だと。……分かった。何かお考えがあるのだろう」


 私には思いも付かない崇高なお考えなのだろう。


「だが、私自身では積極的に連れて行けん。次の標的に自然に接触しろ」

「分かったわ。宜しくねっ」


 艶かしく腰を振りながら、上機嫌でミリャトは出て行った。主が復活する前から、何かにつけて絡んでくる。何なのだ、あいつは。


「まあ良い。準備を再開するか」


 先程のミリャトの指摘。私がゲイルの記憶の影響を受けているとしたら、恐ろしい事だ。

 念入りに身体の修理をする。ゲイルの色が消えるよう。


「これで良い」


 姿見に写る自身を見遣り、満足して頷く。


 侍女を呼び、前回と同じ様に頭部を主に預ける。


 出発しよう。











 私は部屋の脇に立て掛けていた長剣を取る。マインからオルグが賜り、後にゲイルが団長として使っていた長剣である。

毎週、日曜日の夜に更新します。

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