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裏三話『私兵団』(七)

 朝日が昇り始める。


 ドラゴン内部でのオルグと謎の存在との会話は、モリオが拾っていた。だが内容を聞いても、ゲイル達には皆目検討が付かない。

 それ以上にオルグを失った喪失感が私兵団の面々を襲っている。

 私兵団に死人が出る事自体は、珍しい事ではない。皆、それを覚悟して任務に当たっている。


「団長……」


 特にミグロウは付き合いが長かった為、影響が大きかった。鎮火した村を眺めながら、しきりに呟いている。


「おい、いつまでそうやっているんだ?」


 見かねてゲイルが声を掛ける。身体中火傷をしたが、生死に関わるほどでは無かった。


「……うるさいね。あっちいっててよ」


 だがミグロウは取り付く島もなく、答える。


「なんだと……。いや、分かった」


 傭兵が長かったゲイルには縁遠い感情であったが、私兵団に入り共有し始めていたものでもある。ミグロウの気持ちは分かった。

 その為、ミグロウの横でそれ以上なにも言わず立ち続けた。




 モリオは村を歩き、状況を確認していた。幾つか延焼を免れた建物はあった。避難していた村人が戻れば、とりあえずの復旧は出来るだろう。

 だが男手の心配がある。残った村人は村長を含め、全滅してしまった。これからこの村はどうしていくのだろうか、とモリオは考えていた。


「我々ではこれが限界か……」


 これで村を守ったと言えるのか、とモリオは悩んだ。しかし答えは無い。

 その時、モリオの聴覚が物音を捕らえた。振り向くと、私兵団ではない。子供が立っている。


「お前は?」


 子供はモリオを睨みつける。手に持った棒きれをモリオに向けている。


「お前ら、良くも父ちゃんを!」


 子供はそう叫んで、モリオに突っ込んできた。モリオは戦闘が役割では無いが、こんな子供に遅れをとるほど柔ではない。

 軽く避けると、子供の腕をひねり上げる。


「父ちゃん? ……お前が件の子供か?」

「畜生! 放せ!」


 子供はじたばたと抵抗をする。モリオは子供を押さえたまま、ドラゴン内部での会話を説明する。


「……やっぱり! 父ちゃんは生きてたんだ!」

「問題はそこではないと思うが……」


 子供にとっては自分の父親の存在がなんであろうと、関係がない事である。反応は間違っていなかった。


「でも……、父ちゃんはどこにいっちまったんだ?」

「知らん」


 子供が抵抗しなくなった事を確認し、モリオは手を離す。子供は自由になっても唇を噛みしめて俯いていた。


「……お前、これからどうする」

「……父ちゃんを、……探す」

「どうやって。相手は何者かも分からないんだぞ」


 ただの人間ではない事は間違いない。だが、探す方法など分かるはずもなかった。


「……ドラゴン、死んだんだよな」


 子供が言葉を発する。


「それは間違いない。お前の父親と言うのも一緒に……」

「死んでない!」


 これはモリオも同意見であった。謎の存在は最後、明らかにドラゴンを倒す協力をしている。それで自らも死んでしまっては笑い話にもならない。そもそも実体があるのかも分からないのだ。


「他のドラゴン……」

「なんだ?」


 子供はモリオに顔を向けた。


「他にもドラゴンっているよな」

「勿論居る」

「どうすりゃ会えるんだ?」


 子供は他のドラゴンに父親の存在が移ったと考えたようだ。モリオには分からない事だが、これはかなり真実に近いところを突いている。


「会おうと思って会えるものではない。そもそも会いたいと願う存在ではない」

「俺は会いたい!」

「……我々のように魔物と戦い続けていれば、そのうち会えるだろうが」


 私兵団は魔物の討伐依頼を多く行っている。人間相手に戦えば魔法の存在が漏れやすい為だ。それは王国騎士団の比ではないだろう。


「……入れてくれ」

「なんだ?」

「俺を私兵団に入れてくれ!」


 子供、少年はまっすぐにモリオを見て言い放った。そこに現れている決意に、モリオは柄にもなくたじろぐ。


「…………。お前次第だ。とりあえず間は取り持ってやろう」




 ゲイル達の下に、ローミーンが姿を見せた。ローミーンもミグロウと同じく、オルグとは長い。


「…………」


 話す事が出来ないローミーンであるが、悲しんでいる事は良く分かった。


「…………ねえ」


 ミグロウが口を開いた。


「なんだ?」


 ゲイルが答える。喋れないローミーンに話し掛けていない事は分かっている。


「こんなの聞いちゃ駄目なのは分かってるんだけどさ」

「なんだよ」

「オルグがドラゴンに食べられる必要ってあったの? ゲイル一人で内側から突き破れなかったの?」


 ミグロウはゲイルの目を見ずに問う。


「……無理だ。オルグは暗殺蛇の瘴気を纏えたから熱をある程度防げた。俺は右腕だけだからな」

「そうだよね」

「外側からドラゴンを突き破れれば……。俺がまだ弱かったって事だ」

「僕達……、がね」


 実質、ゲイルとオルグしかドラゴンに攻撃を加えられなかった。ミグロウにはゲイルに問う資格はないのである。


 ゲイルと目が合わせられず、ゲイルが腰に下げている長剣を見遣る。オルグから託された長剣である。

 その柄を見たミグロウは愕然とした。


 柄には真新しい血が芯まで染み込むかというほど付いている。そしてゲイルの手には、潰れたばかりの血豆が出来ていた。


 ドラゴンと戦った直後から、ゲイルは素振りをしていた。オルグの死と引き替えにしか勝てなかった自らを恥じて。


「……次の団長どうする?」

「あ? そんなんマイン候が決める事だろ」

「そりゃ最終的にはそうなんだけどさ。僕達が命を預けられる人物がいいじゃない」


 ゲイルは少し悩むようにして答える。


「……俺は長く傭兵だったからな。自分の命しか考えられねえな」

「…………。そうかな」

「俺のなにを知ってるんだよ、お前」

「そういえば知らないね。……全く知らない」


 ミグロウはゲイルの目を見て言う。


「いや、いや! それはそれで冷たくねえか?」


 ゲイルがミグロウを殴り始めた。




 モリオが少年を連れてゲイル達に合流した。


「そういう訳で、こいつは私兵団に入りたいらしい」

「まだ子供だぜ?」


 ゲイルは子供の頭に手を乗せる。だが少年の目を見てすぐに手を引っ込めた。


「まあ、マイン候に聞いてみるか」


 朝日が五人の影を長く、長く伸ばしていく。

裏三話はこれで最後です。読んでいただいた方、ありがとうございました!

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