2話 本当らしくない人たちの話
完成しましたがなんか長いです
「ナジャが……いる………いるの」
と言う琉凪が指差す方向には……
可愛らしい少女……といっても俺らとなんら変わらない年だが……
とにかくそんな少女がカフェの前で歌っていた。
「……いや、普通の女の子だろ?
……ほら、声だって普通だし」
確かシングロイドは機械じみた声音をしてたはずだ。………確か。俺の記憶力なんざこんなものだ。
「でもさ? よーく見てみ? よーく聞いてみ? ちょっとおかしいとこあるよ?
確かにあたしだって最初はナジャそっくりの姿した子だったからってだけで指差したんだけど」
それであんな興奮するか普通。
コスプレした少女見るだけで隣の幼馴染殴るか普通。
まぁ取り敢えずこいつ普通じゃないしな……
でも改めてじっくり聞いてみると確かに違和感を感じる所はあった。しかしそれは『じっくり』聞かないと分からないような差異だったのだが……
なんなんだろうこいつ。幼馴染だけど怖いわ正直。
それはともかくとして肝心の差異の方h
「まだ気付かないの? やっぱ鈍いねぇ山崎は………
しょうがないから教えてあげようか~?」
……こいつまさか俺の心読めんじゃねーのか……?
だったら怖いどころの話じゃねーよ以心伝心か?
「まず身体の動きだけど……」
流石に心は読めないのか……
それとも単に勘が鋭いだけか?
まぁ折角説明してくれるんだから説明はこいつに任せよう。
「ほら、ちょっとカクカクしてない? 生身の人間ならもうちょっと滑らかに動くはずなんだけど………」
「あとは音階の行き来がスムーズじゃないね」
「それにほら、ビブラートが大袈裟だし」
「息吸う音だって聞こえないよ? マイクの位置的には思いっきり聞こえるはずだけど」
…………最初と最後しか気付かなかったわ。
「やっぱ琉凪に説明任せて良かったな」
「誰に言ってんの?………あ、もしやイタい人になっちゃったか山崎も遂に……そうかそうか……」
「いや違うって……ただの誤字だって」
実際には心の声が漏れ……いやこれってもしやイタい人に近づいてるんじゃあ……
「まぁーたなんか変な妄想でもしてんのか山崎ぃ!!」
再びの平手打ち。
しかもさっきと同じ方の頬って………
いや、うまいとは思わないぞ「方」と「頬」って。
それよりまずはこいつの勘違いを直すべきだ。
「だから俺は無実! 無実だから!」
「なーに? 往復ビンタ受けたいの?」
「いやマジで無実なんです助けて下さい琉凪さん」
「ごめーん、あいにく右手に宿りし精霊の魂が波動を呼んじゃって手加減出来ないわ」
「いやお前の方がイタいだろ絶対!!」
「いやまだまだまだだよ厨二病的言霊餞別は」
「俺的には腹いっぱいだよもう」
ってか何の話してたんだっけ…………
「あ」
「どうしたのー? まさかスカートの中がブラックホールになってる女の子キャラの
「ストップストップ!!」
ちょっと危ない方面に進みそうだったので慌てて止める。
そんなだから全く進まないんだよもう……
「ってかさ、どっから脱線したんだっけ?」
「それなら心配ご無用!
この近藤さんがちゃーんと覚えてるしね? だからお構いなく脱線してて欲しいんだけど」
中学生相応の胸を拳で叩きながら言う琉凪。
「その内そっちが本題になりそうだな」
「だったら望むところだけど……」
「何にだよ」
会話が尽きない。
昔からそうだったような………
「でも……どーしても戻りたいって言うんなら戻ってあげなくもないけど」
「どうしてそんな偉そうに言うんだよ」
「山崎よりは偉いから」
「基準ナニ!? え、そんな琉凪と俺に格差あったっけ!?」
「いや、特には」
「あのなぁ………」
ってか本題に戻そうとするとなんで逆にどんどん脱線してくかな……
もしや………これもこいつの能力?
もうこいつ人間じゃ無いんじゃないか?
「で、本題に戻るってんなら『ナジャそっくりの少女の人間らしくない部分』についてあたしがわかりやすく丁寧に教えてあげたとこから脱線してったけど」
ゾンビより怖い……
「記憶力異常だろ……」
「良いじゃん、あんた運動出来るんだし…あたしなんてからっきしだからさ」
「そーいやからっきしだったな……ってオイ」
また脱線させようとしてどーすんだよ俺!
「でもホログラムっぽく無かったしなぁ…映写機無かったし……やっぱ三次元……にしては………」
あれから俺と琉凪は少女について色々話をしていたのだが途中から琉凪が自分の世界に入り浸ってしまい………
「コスプレイヤー………いやでもあまりにも二次ってる………何なんだ一体………」
しかもずっとカフェの前で停まってるし。
どうしようこいつ。
と…………
「そこの二人~? 何やってるんだい?」
突然後ろから声を掛けられた。
しかも知らない声。
あまりにも突然で俺は思わず
「いぃやぁぁ!!」
…………裏返るにも程があるだろ。
……と、女の子みたいな悲鳴を上げてしまったのだが…………
それよりも俺がビックリしたのが。
さっきまでずっとブツブツ呟いてた琉凪の。
「ひぉぅえぇぇ!?」
………という奇声だった。
しかも何か一歩下がってるし。
………しかし。
こいつがこんな反応をする、という事は……
その相手はさぞかしオカシイ、人なんじゃ……
……と思い、少々怯えながら振り向い、た………
………………のだが。
いや、ごくごく普通の女性じゃねーか……
……………しかし。
さっきから琉凪が物音一つ立てない。
(一体何なんだこのヒト…………)
琉凪が自分の世界に入り浸ってる時以外で物音一つ立てない時は……
彼女の目線の先には俺では視界にさえ入れたくないようなモノがあったりするのだが。
本当に何なんだろうか………
……ライバル?
……とまぁ、そんな事を考えていたのだが……
その答えは、そう簡単に手に入るものでは
「……………陽子、さん………」
「………え?」
……陽子さん。それが……この女性の、名前……みたいだが。
しかし。
そんなに怯えながら言う名前だろうか。
アレか?『口にしてはいけない名前』みたいなのに入ってるのか?
…………うーむ、難解。
………とりあえず、今俺がやるべきなのは……
「……えっと、一体誰なんですか?」
……どーしてもっと早く言わなかったんだろう?混乱してたからか?そうか、混乱してたからか……
「誰って、そりゃあ陽子さんに決まってるだろう?」
「決まってねーよ!!」
…………やべぇ。
ついいつものクセで突っ込んじまった………
流石に初対面の、しかも琉凪が怯える位のヤバいおねーさんに突っこんじゃったのは、ねぇ……
俺、ここでお仕舞いなのかなぁ……
「あっはっはっ!! 初対面の相手に突っ込む奴なんざ久しぶりに見たよ!! 面白いね君ぃ!!」
………腹抱えて笑ってました。
そんなに面白いですか?
俺の突っ込み?
「………で、陽子………さん?でしたっけ………えっと………」
うぅむ、何を話したら良いのか………
さっぱり分からん。ってか先に話し掛けて来たの、陽子さんの方じゃ無かったっけ……?
「あたしがどーして話し掛けて来たか知りたいって顔してるねぇ?」
……………さっきの琉凪といい今の陽子さんといい………俺、そんなに顔に出てんのかな……
「大丈夫、あたしが特殊なだけだから」
……………読んでるよなコレ………?
………と。
「陽子さん………」
琉凪がようやく落ち着いたらしく、俺と陽子さんの会話(厳密には俺の心を読みまくる陽子さんとの会話)に割り込んできた。
「ん………やっと落ち着いたみたいだね、琉凪」
………呼び捨てですか!?
うーむ、ますます関係が分からなくなる……
「はい………ところで陽子さん」
「なんだい?」
およ?あの「会話を脱線させるのが生きがい」みたいな琉凪さんがさっそく話の本題(確定こそしていないが)に入ろうとしているぞ?
「あの………あたし達に呼び掛けた、って事は……あたしだけの時じゃなくて、誠もいる時に呼び掛けたって事は………『アレ』について、話すんですか?」
……………『アレ』?
『アレ』って何だ?
………琉凪が怯えながら聞くぐらいだから相当な話なんだろうけど………
話が全く見えて来ないなぁ…………
「ん。駄目かい?」
「いや、いいですけど………」
と、そこで琉凪は俺の方を向き…
「………………ブゥッ!?」
ビンタした。
「る………琉凪………どうしていきなりビンタなんか………」
「なんかさっき山崎にしちゃ珍しく考え込んでるふうだったからさぁ………気付かせるにはこれしかないと思って」
「普通に呼んでくれよ………」
「邪魔しちゃ悪いかなーって」
「ビンタも邪魔の内だろーよ!!」
「邪魔するってより振り向かせる為の手段なんだよ」
「絶対違う!!」
「ちょいちょいタンマタンマ!!」
見ると、俺と琉凪の会話についてこれなくなった陽子さんがなんとか俺らを止めようとしていた。
…………すっかり忘れてたなぁ………
「………ごめんなさい」
つい謝ってしまった……そういや琉凪から『山崎はいっつも謝りすぎ。低姿勢なのは良いかもしれんけど付け込まれっぞ』なんて言われたっけ。
「………低姿勢なのは高評価だけどね、なんか口癖になってるんじゃないか君……?」
わお。
そろそろ本気で直さなきゃなんないんじゃないかな?
琉凪はともかく陽子さんにまで言われるんだもんなぁ……陽子さんの事よく知らないけど。
「まぁ、ここで立ち話するのも、ねぇ……だからさ、入ろっか?」
「え?」
唐突。陽子さん唐突。
因みにさっきのは琉凪の声だ。俺なんて唐突すぎて反応すら出来なかったという……それでもツッコミ役なのか!?
せめて反応しろよ俺!!ツッコミ所ならいくらでもあるだろ!!大事な部分抜けてある意味ヤバい会話になってるとか!!
「自分責め中失礼するけど、今からカフェ入ってもいいかい?」
「!?…………………はい」
読まれてた…………うぅ。
せめてあの『ギクッ』を凝縮した『!?』は読まないで欲しいんだけど………絶対読んでるだろうな……
……そういや琉凪にビンタされたけど痛まないな……慣れたのかな?
「じゃあカフェに寄ってこーか! お代はあたしが持つからさ!」
「おぉ!さっすが陽子さん!」
……ん?あんなに怖がってた琉凪が元通りになってる…………と思ったら琉凪が俺の耳元で
「(あのビビり、最初はマジだったけど途中から演技だったんよ? 陽子さん、かなり面白い人だしね……
………まぁ、もし『アレ』話して、山崎が錯乱しちゃったら……もう今みたいに話せないかもしれないけどね)」
と、囁いてきた。
なんか伏線感ありありだな………
よし、絶対錯乱なんかしてやんねーぞ!
………しかし。
今の状況、普通だったら絶対有り得ないだろう。
そう…………なんか色々読んでくる謎の女性と向かい合って……
……パフェを食べているこの状況は。
しかも。
「おーいひぃー………甘いものってやっぱ癒やしだわぁ………」
これが……陽子さんである。
どんだけ甘党なんだろう、この人。
いや………ただ単にリアクションデカいだけか?
ますます謎だ………一体何者なんだ?
「あたしの正体、そんなに気になるかい?」
また読みやがったな………
「んー? おごってあげてる、っていう仮にも上位の本来ならば尊敬してひれ伏すべき存在にそーんな言葉遣いでいいのかーい君ぃ?」
そ………
「そんなにおごってあげてるって上位になるんですか!?」
「さぁ? でも取り敢えず誠の分だけ払わない、とかっていう処置は取れるけどさ」
「しかもいきなり呼び捨てですか!?」
「ツッコミくれるのは嬉しいけどちょいと暑苦しいな」
「そして酷評ですか………うぅ………」
…………何やってるんだろう、俺。
「あっはっは………確かにからかうと面白いね、誠って………!!!!」
「ですよねですよね!! 弄りたくなりますよね!!」
「…………えーと、」
脱線し過ぎだろ………本題本題………
あ、思い出した………
「そろそろ『アレ』について教えてくれませんか?」
俺は若干二人の間に割り込むようにして言った。
「ん、そうだね………じゃ、そろそろ言うとしようか………あ、そういや琉凪」
突然呼ばれた琉凪は、若干ビックリした後
「………何ですか?」
と、なんか凄いスローモーションで陽子さんの方を向いた。
いや………何でスローモーション?まぁいいか。
「今から話す事にはさ、あんたも知らない事も含まれてるから………耳の穴かっぽじって聴いときな」
「あ、はい」
そんな重要な案件を…………
やや混雑してるカフェなんかで喋っていいのだろうか………
「そこ! ちょっと気にしてる事に触れない!」
「気にしてたんですね……」
………っと。また脱線させる所だった………
「…………まず単刀直入に言うよ?」
「あっ………はい………」
突然真面目な表情でこっちを向いた陽子さん。
うわぁ………迫力…………
「誠。この世界は、さ……………」
「どっちつかずの、まやかしなのさ」
読んで下さりありがとうございました……!!
ちまちま更新します!