終わりよければすべてよし
炎の見えた方にかけていく俺。
美湖に無事でいてくれと思いつつ、俺は走って行く。
実はたまたま遭遇したのが、弱いそこら辺にいる魔物だったとか、そういったものであって欲しいと俺は思っていたのかもしれない。
そして再び赤い炎が見え、爆音が鳴り響く。
辺りはすでに薄暗くなってきており、その炎の見える場所は民家のない町の外のようだった。
町の外に近い場所で食事をとったのが幸いしたなと思いながら、俺はかける。
夕暮れの赤い光の中走っていったその先には、美湖がいた。
そしてその前にいたのは、俺のよく見知った物体だった。
但し大きさは相変わらず違っていたが。
そのよく見知った物体が笑うように告げる。
「ふはははは、あのカバやウマを倒した者というからには、さぞかし強力な敵だろうと思っていたがこの程度か!」
「こ、この……」
美湖が呻き、そこで再び炎の魔法を放つ。だが、
「効かぬ、効かぬぞ! この程度の攻撃がこのニワトリ様に通じると思うなよ!」
そう告げながら、羽をばたつかせて突風を引き起こした。
それで美湖の攻撃した炎がかき消される。
とりあえず今のでお分かりいただけたと思うが、今度の敵は、俺達のも馴染みのあるニワトリである。
それも白い、何処にでもいそうなニワトリだ。
瞳は赤いといった点はあるが、それを俺の身長の二倍程度に大きくしたニワトリだ。
この世界は俺のいた世界の生物を大きくする何かがあるのだろうかと疑いたくなるシロモノだった。
しかもまた言葉をしゃべっているし。
それはおいておくとして、どうやらこの敵は風を使うらしい。
先ほどの美湖の攻撃も風の魔法で防いでいた。
ニワトリなのも含めて、羽がついていて空を飛べてこの大きさだから風の魔法を使わないと飛べないのかもしれないと、俺がぼんやりと考えていると、そのニワトリは俺達に気づいたようだった。
「ふむ、ようやく仲間が来たのか。私は三王が最後の一人、ニワトリだ!」
また安直な名前だなと俺が思っていると、更にそのニワトリは俺達を侮るかのように、
「ドラゴン様と同じように羽を持ち空をとぶこの私に逆らおうなど、百万年早いわ!」
そう叫び、空高く飛び上がる。
気づけば辺り一帯暗くなっており、月が浮かんでいる。
その月を背景にニワトリは大きく翼を広げ、そのまま俺へと真っ先に飛んでくる。
一番弱そうと思ったのか、それとも別の理由があるのかは分からないが、俺は即座にあの防御のアクセサリーに触れる。
同時に自分の周りから、美湖はリリシアに掴まれてだが、散らばるように逃れる。
そのハトはまっすぐに俺に向かってきて飛んできて、そのまま追突した。
ゴンッ
硬いものにつよう突き当たるような音が響く。
どうやら俺の結界のほうが強かったらしい。
それに安堵しながらも、跳ね飛ばされ転がったニワトリが恨めしそうに地面から起き上がり、
「ぬっぐっ、やはり、“勇者”となれば一筋縄にいかないか」
「あー、おれ、“勇者”じゃないです」
どうやら勘違いしているらしいニワトリに俺は告げる。
それにニワトリは、
「ふん、嘘は大概にしろ。他と違うものはお前だけ、しかもこの私を抑えるだけの防御を持つなど……」
「いえ、ただの一般人です。“勇者”なのは彼女です」
そう言って俺はシエラを指さす。
シエラは即座に剣を構えるがそこでそのニワトリは俺を一瞥して、
「あの娘などよりもおのれのほうがよほど魔力があるではないか!」
「そうなのですか? 俺にはよくわかりませんが」
「そしてそこにいる少女もだ! 明らかにこの世界のものとは違う魔力を感じる!」
「そうですか。それで、一般人にハト様は負けてしまったわけですね」
と、試しに挑発する。
意識をこちらに向かせて、シエラ達に一斉に攻撃してもらおうと思ったからだ。
だがその言葉に容易に乗ってしまったこのニワトリは、その瞬間に風を自身に纏う。
その風はニワトリの周りを渦巻きながら、近づこうとするシエラ達を吹き飛ばす。
そこでリリシアが叫んだ。
「美湖、シエラのお手伝いをして」
「え、ええ! でも……」
「シエラは“勇者”だったの。良太は違ったのよ!」
「ええ! いつ分かったの!」
「良太と二人っきりでお話している時突然シエラの体が光りだして……とりあえず、シエラの手を握って、力を与えるようにして!」
そう告げられた美湖はシエラの手を握る。
シエラの体が白い光りに包まれるのを見る。
それと同時にシエラはあの“勇者”の剣を握り、
「はああっ!」
掛け声とともに、渦巻く風に向かって突入試験を振り下ろす。
断末魔の悲鳴とともに、ニワトリが真っ二つにされて首が転がる。
どうやら周りに渦巻いた魔法ごと真っ二つにしたらしい。
剣で魔法が切れるのかとこの世界の不思議さを感じている俺。
シエラも上手く倒せたと機嫌が良さそうで、そんなシエラにリリシアがはっとしたように叫んだ。
「危ない! まだこのニワトリは倒せていないわ!」
けれどその時にはシエラ達にそのニワトリの首は近づいていて……けれどすぐに幾本の矢が庭チリの頭に突き刺さり、黒い霧となって消えていく。
それを見ながらその矢を放った本人であるメイが自信満々に笑って、
「油断は禁物です」
そう告げたのだった。
そしてどうにか俺達は全員無傷で戻ることとなった。
美湖が一人で走って行ってしまい、その後あの見覚えのある巨大化した動物が襲ってきたことを知り、正直に言えば、俺は焦った。
けれど、美湖自身が強力な魔法が使えたので大丈夫だったのかもしれない。
なので俺は戻る途中、美湖に、
「俺、美湖の事心配したんだぞ」
「……良太は魔法が使えないじゃない」
「魔法が使えるからといって、怪我をしないとは限らないだろう」
「……さっきのニワトリの爪で引っかかれたけれど、自分で触れたらすぐ治ったから平気よ」
「なんだって!」
「怪我を治す力が私にはあったみたい。だから怪我をしたって大丈夫」
何でもない風に美湖は告げる。
それに俺は苛立ちを覚える。
「大丈夫なはずないだろう! 俺には危険だからといっておいて自分は何なんだよ!」
「だから私には魔法があるけれど、良太にはないじゃない! 近づけばその分怪我するし、最悪死ぬかもしれないのよ!」
「魔力もあるし、この剣だってすごい力があるんだから、大丈夫だ! さっきだって、あのニワトリがぶつかってきても大丈夫だっただろう!」
「ぐっ、で、でも剣を使って接近戦なんて危険すぎるわ! 子供の時に枝をもって遊んでいたのとはわけが違うのよ!」
「美湖一人じゃ危険なんだから力を合わせればいいじゃないか!」
「う、ぐ……そもそも何で良太自分から戦おうとするの!」
「それだったらどうして俺ばっかり遠ざけようとする!」
「別に理由はないわ。良太の方こそどうなのよ」
「美湖が好きだから、心配して何が悪いんだ!」
むかっとして俺はついに言ってしまった。
言ってから、はたと気づいて、もっとこう……それっぽい雰囲気で言いたかったんだと気づいた。
だってあまりにも美湖が頑なに俺に戦うなって言うから。
ちょっとやそっとで壊れない結界だって貼れるし、この木刀だって凄く切れ味がいい。
なのに、美湖が延々と……。
といった内容で俺は必死になって恥ずかしさから、目をそらしていた。
だってまさかこんな風についうっかり言ってしまうとは思わなかったのだ。
だから俺はそれ以上何も言えずにいたのだが、そこで、
「い、今なんて言ったの?」
「え、えっと……美湖が好きですって」
美湖の表情は逆光で見えない。
嫌悪に満ちた顔だったり困ったりしていないといいなと、あわよくば、同じような気持ちでいて欲しいと俺は期待する。
けれどそこで美湖はくるりと俺に背を向けて、
「そ、そうなんだ。うん、そう……」
そう呟く美湖。
とりあえず拒絶されなくてよかったと思っていると、そこで、ニマニマと笑うメイ、シエラ、リリシアが俺の目の前にやってきて、メイは美湖の方に行き、
「ねえねえ、それでそうするの、美湖は」
「ど、どうするって、どうするつもりもない……」
「応えちゃう? それとも保留?」
そんなメイの問いかけに美湖は少しの間を置いてから、
「ま、まあ、戻ってからでもいいし。答えるのはいつでも出来るもの」
「へ~、でもこれからずっと悶々としないといけないよ? どうする~」
メイがさらに美湖を煽る。
それに美湖は小さく震えている。
けれどその言葉に、俺はもしかして期待してもいいのかなと思ってしまって、
「あ、えっと、美湖その……俺、美湖が好きです」
「……二回も言わなくてもいいわよ」
「えっと、ごめん」
「……謝らなくてもいいわよ」
「う、うん」
そこまで会話して俺達は沈黙してしまう。
この会話が続かない感じが酷くもどかしい。
いっそ今のは冗談てことにしてしまったらどうだろうか。
そうすれば、以前と同じような関係に戻れるかもしれない。
そんな臆病な気持ちに俺も支配されかかっていると、そこで美湖が、
「ああもう、馬鹿みたい。そうね、私も良太が好き!」
「本当か!」
「そうよ! だから怪我しないようにって思ってすごく気を使ったのに……」
「す、好きだから?」
「そ、そうよ。悪い?」
「いや、むしろ嬉しい」
そこまでしか俺は言えなかった。
緊張しすぎていたというのもあるが、なんというか、すごく幸せな気持ちになってしまった。
頭の中がぼんやりとしてフワフワしているような、そんな感じだ。
そこで、俺の両肩を掴まれる。
それぞれの手が、リリシアとシエラだ。
どことなく生暖かい笑みを浮かべながら、俺を見ている。
何がいいたいんだと俺が思っているとそこでリリシアが、
「よし、二人の恋が成就したお祝いよ! これから飲むわよ!」
「そうだな、ぜひそうしよう! メイ、ももちろん賛成だろう!」
「あたりまえよ、シエラ。よし、シエラにいいお店を案内してもらおう!」
「まかせておけ!」
俺達を無視してそんなふうに話が決まってしまった。
そして俺達は飲み会に突入したのだった。
さんざん酒癖の悪い女性陣に絡まれてひどい目にあった俺。
でも、ようやく告白して受け取ってもらえたという気持ちが俺を支配していて、中々寝付けない。
次はドラゴン退治なのだが、別な意味で寝付けない。
仕方なしに窓を開けようとしてそこで気づいた。
「美湖?」
「良太? どうしたの?」
美湖が窓から顔を出して月を見ていた。
俺に気づくと美湖は驚いた顔をして破顔する。
「寝付けないの?」
「そうなんだ。美湖は?」
「良太の顔を見たら眠くなっちゃった」
「おい」
「ふふ、大好き、お休み」
そう言って、美湖は部屋に引っ込んでしまう。
そして俺はといえば、
「なんだよいきなり……目が覚めちゃったじゃないか」
コレでは嬉しさのあまり眠れないじゃないかと俺は、一人嘆息して暫く窓から月を見ていたのだった。
結局、短い時間でも睡眠をとった俺。
そして次の日、朝日とともに目を覚まして、支度をする。
準備を整え外に出ると、丁度、美湖が部屋の前にいた。
「お、おはよう」
「おはよう……」
ただの朝の挨拶なのに、妙に緊張してしまう。
本当はいつもの様に普通に話したい気もしたのだが、何を話せばいいのか俺は分からなくなってしまう。
どうしようと俺が真剣に考えていると、美湖の部屋からリリシア、シエラ、メイが出てきて俺と美湖の様子を見て、ニヤァと笑う。
昨晩は酒の席で俺はさんざんからかわれたり絡まれたり酷い目にあった。
それを思い出して俺が警戒していると、メイが、
「むふふ、でも、まずは朝食ですね。そうだ、折角なので二人っきりでどこかに食事に行きますか?」
「「けっこうです!」」
二人同時に叫ぶ。
相変わらず楽しそうに笑っている彼女達に俺達は脱力感を覚える。
そしてそのまま朝食を取り、出発した。
一応、俺用の防具をリリシアにもらったのだが、
「魔力がないから危険だと思って、防御重視にしたので重さが重くなっちゃったのよね」
そう言われて中世っぽい甲冑の上の部分を俺は渡される。
けれど着てみると、布を一枚羽織った程度の重さしか感じなかった。
それを言うとリリシアは、多分、俺の魔力が強いから体が強化されているのだろうという。
また木刀は相変わらず一番初目に買ったもののままだった。
そしてその町から旅立つ俺達。
数日後にはラスボス、“地獄の王”ドラゴンとの戦闘が待っている。
適当に魔物やら“昏き獣”を倒しながら進んでいき、そこで俺はリリシアに問いかける。
「そのラスボウスを倒せば元の世界に戻れるのか?」
「ええおそらく。倒すと同時に光りに包まれて“聖女”様はいなくなったと言われているから。以前一度女神様に確認した所、ちゃんと元の世界に戻しているって」
「そうなのか。なんか、今までありがとう」
「あら、今更かしこまってどうしたのかしら」
「もう会えなくなるかもしれないし今のうちに」
それにリリシアが律儀ねと笑う。
そして美湖もお礼を言って、和やかな雰囲気になった。
けれどそこで轟音が聞こえる。
低い風をきる音。低空を飛行機のような何かが飛んでくる、そう思わせるような音だ。
やがて俺達の目視でも確認できるような存在を捕らえる。
翼を広げた恐竜のような黒い存在。
瞳は禍々しく赤い。
その生物は俺達をその瞳に捉え、眼前に舞い降りる。
大きさは俺の三倍の背丈はあるかのようだった。
それは俺達を見てあざ笑うかのように笑い告げる。
「我は、ドラゴン。お前達があの配下の三王を倒したものか。だが……我を一緒にしてもらっては困る」
そうそのドラゴンは告げたのだった。
真っ先に動いたのはシエラだった。
「リリシア、メイ、援護を」
「「わかったわ」」
リリシアが、氷、炎、雷と次々と魔法攻撃をする。
メイも矢を炎をまとわせたりといって強化しつつ、攻撃する。
けれどそれを一瞥したドラゴンが羽を羽ばたかせると瞬時にそれらは消し去られてしまう。
「「な!」」
まさかここまで力が通じないと思わなかったのだろう、リリシアとメイが驚いたように呟く。
そこで美湖の“聖女”の力を受けたシエラが駆け出す。
その後ろで美湖が次々と魔法を繰り出し、けれどその全てがドラゴンに防がれる。
そしてようやくドラゴンに向かってシエラ“勇者”の剣を振りかざした。
けれど、そんなシエラを見てドラゴンは笑った。
同時にシエラの剣がドラゴンに向かって突き刺さろうとするも、乾いた音を立てて折れてしまう。
「な!」
「ふん、この程度の剣で我を傷つけようとは、愚かな者共だ!」
そう告げると同時に、そのドラゴンは口から炎を吐く。
イメージのドラゴンのままだなと俺は思いながら即座に結界をはるアクセサリーに触れて魔力を注ぎ込む。
範囲はシエラも含めた全部。
そう願うと同時に炎が俺達に迫り、瞬時に掻き消えた。
恐ろしい敵だと思うが、けれどおそらくはこの木刀で倒すことが出来るだろう。
でないと、“勇者”でもない何のとりえもない俺がここにやってきた意味は無いだろうという推定だ。
本当はそう思わないとやっていけないくらい怖かったからなのだが、今ここで俺が頑張らないとどうにもならないと思ったので、駆け出す。
「良太!」
美湖が焦ったように俺の名前を呼ぶ。
心配してくれたのだろうが、その声を聞いて俺は……馬鹿みたいに、美湖の前で格好を付けたいと思ってしまった。
だから、その気持で闘士を奮い立たせて、地面をける。
予想以上に高く跳べた。
それこそこのドラゴンの頭上程度まで。
ドラゴンの赤い瞳が俺を捉えるのに、微かな怯えを俺は覚える。
けれど、ここで怖気づいてはいけないと俺はそのドラゴンの頭上に木刀を振り下ろす。
ドラゴンが鼻で笑うように結界をはる。
その結界はまるで水面のようにかすかな感触を持って俺の木刀を通し、そのまま俺の木刀はドラゴンの頭上に向かう。
その場から地面まで一気に俺は降りた。
何かを切っているような感触は相変わらずあまりない。
空気中を振り下ろしたような心もとない感覚を覚えると同時に、そのドラゴンは左右に別れ、地面に落ちる。
同時に黒い霧になっていくのを最後に、俺の目の前は光で満たされたのだった。
気づけば俺達は白い部屋にいた。
窓もないこの空間は奇妙に見えたがそこで、銀色の長い髪の女性が、白いワンピースを着つつ、薄い本の大量にはいった紙袋を持って現れる。
「ほんとうに助かったわ。あなた達の世界と偶然繋がって、変質、強化しちゃったの。だからあなた達の世界に馴染みのある生き物のようなものだったでしょう? まあこの世界にいないからこの世界の者達には恐ろしい物に見えたかもしれないけれどね」
「……貴方は?」
「はじめまして、私はこの世界の女神で貴方方を召喚したものです」
微笑んだ女性に、この人が女神様と思っていると、そこで美湖が、
「あの、どうして私達が?」
「丁度ゲームを手にしたのがあなた達だったの。ゲームは空想に人を近づけるから、異界との境界が曖昧になるから召喚しやすいのよ」
「そうなのですか。それで……」
美湖がなるほどと頷いている。
そこで俺はどうしても気になったことを聞いてみることにする。
「そもそもどうして俺が呼ばれたのですか?」
「今回あなた達の世界に近づいたせいで敵が強化されてしまって、それで貴方も呼んだの。強い力を持つ、ね。それこそ“勇者”以上の力を持つ、ね。だから貴方にはあの剣が引き抜けたでしょう?」
「そうなのですか?」
「ええ、貴方の気づいていない才能の一つ。でも力が強すぎるからあの木刀を通してしか攻撃できないようにしたけれど、上手く言ってよかったわ」
「でも、そもそも女神様本人が倒せばいいのでは?」
「私自身が処理を施すと世界への爪痕が大きすぎてしまうの。説明すると長くなるから今はしないけれどね。はあ、本当に助かったわ」
そんな女神様を見ながらその紙袋を見て、俺は、
「遊ぶために俺達を呼んだんですか?」
「違うわよ。私が射る隙間にあなた達を放り込むことで世界の存在エネルギーを一定に保っていたのよ。そのために私は遊びに行っていたの」
結局は遊んでいたんじゃないかと思っていた所で、ふっとその女神様との距離が遠くなる。
その遠くなった女神様は俺達に手を振りながら、
「ありがとう、また何かあったらよろしくね」
そう俺達に告げたのだった。
はっと気がつくと、夕暮れ時になっていた。
随分時間がたったなと思って、あれは夢かなと俺は思う。
「夢だよな、多分。でも、美湖には話したいよな」
だって一緒にいたし、告白したし。
でも夢ならもう一度俺は頑張らないといけなくなる。
そう思うと俺は落ち込んだ。
けれど夢では上手くいったんだしと俺は思って、スマホを取り出す。
見知った美湖のアドレスに、本文はどうしようかと思って、
「デートしてください」
言葉に出して打ち込んでみると、酷く恥ずかしくなってしまう。
俺は何をやっているんだろうと思いながら、そもそもコレをお靴てどうするんだという気がしないでもなかったが、思い切って送ってみる。
返信はすぐに来た。
いいよ、という言葉とともに奇妙な夢を見たから俺と話したいと書かれている。
なので俺も変わった夢を見たから話したいと返信する。
その夢が同じかどうかが、俺は少し楽しみだった。
そして不思議な出会いとあの不思議な世界を思い出しながら、美湖とのデートの約束の時間を取り決めたのだった。
読んでいただきありがとうございました




