貴重な職人技の木刀が、真っ二つにされた件
結局、途中で数匹の魔物を倒す。
帰り道のほうが出てくる割合が少なかったので、意外に楽だった。
中でもあの“勇者”の剣などというものは、古いものなのに魔法的な何かでよく切れる。
なのでその剣の持ち主になったシエラは、嬉々として振るっている。
魔物が現れても、真っ先にシエラが突っ込んでいき、敵を抹殺していく。
あとに残った魔石まで手に入れて、何時も無表情なシエラだが、どこかほくほく顔だ。
そんなシエラにリリシアが、
「ちょっと、私達の出番がないじゃない。というか、その魔石を売ったお金でおごりなさいよ。さっきからどれだけ倒しているの?」
「そういえばこの剣の使い勝手が良すぎてつ使ってしまう」
「その剣がお気に入りなのはいいけれど、いざって時に使い物にならなくなるのは困るから、程々にしてよ」
「分かっている。だが、一つ試してみたいことがあって……良太」
そこで、どうやって美湖の機嫌を直そうかと表情には出さずに、心の中では、あばばばば、と焦っていた俺にシエラが聞いてきた。
もちろん俺は一連の話は聞いていない。
それどころではなかったというのが本音だが、名前には反応してしまう俺。
そこで俺は、シエラにじっと見つめられた。
女の子に見つめられる経験はそんなにはない。
しかもこんな美少女に見つめられる経験は更にない。
なので俺はタジタジしてしまうが、そこで俺はシエラに手を握られて、
「ぜひ、この“勇者”の剣と良太のあの木刀で手合わせを願いたい」
やっぱりそんな展開だよなと思っていると、そこでリリシアが怒ったように、
「ちょっとシエラ、何無茶なことを言っているの! それでもしその剣が折れたらどうなるの!?」
「いや、でもほら、力比べをしてみたいというか……」
「そんなもので、その貴重な剣を使わないでよ! この剣、未だに複製するのが難しいのに……」
「……難しいのか」
「そうよ。大昔に伝説の剣の匠と女神さが力を合わせて作ったというシロモノですもの。魔力的な意味でも難しいしこの繊細な構造や刃の部分だって作るのに一体どれだけお金がかかるのか……」
「予算的な意味できついのか」
「当たり前じゃない! お金をジャブジャブ使えるんだったらいくらでも出来るわよ! ……魔王だからってそこまで自由が効くわけじゃないしね。はあ……」
なんて溜息をついているリリシア。
それを慰めるシエラを見ながら、この二人は仲がいいなと思っていると、やがて先ほどの防具などを揃えた町に俺達は戻ってきたのだった。
宿屋の部屋で休んでいると、部屋の扉が叩かれる。
誰が来たのか、もしかしたら美湖かなと俺は期待するが、どうぞという言葉で現れたのはシエラだった。
どうしたんだろうと思っていると、
「実は剣の手合わせを願いたい」
「……さっきリリシアに止められていなかったか?」
「今は定時連絡とかでいないから、今がチャンスなんだ!」
親のいない内に悪いことをしようとする子供のように目を輝かせながら、シエラが俺にいう。
だが、そんなシエラについてきた2つの影。
「シエラ、聞いちゃったよ~」
ぎくりとするシエラが振り向くと、そこには猫耳娘のメイと美湖が立っていた。
特にメイは、自信満々に、
「真面目なシエラにしては珍しいね。でも駄目だよ。シエラの行動なんてお見通しなんだからね!」
「で、でもこの切れ味を試してみたいんだ。良太のあの剣の威力とどちらが強いのかを!」
「んー、それで壊れちゃったら困るんじゃないかな、という理屈はわかるけれど……私も見たい!」
「見逃してくれるか!」
「もち、ついて見に行くよ! もちろん美湖も行くよね」
そこでメイが美湖に話を振る。
うつむき加減の美湖はどうやら話を聞いていなかったようだが、とりあえずは頷いておこうと思ったらしく、
「いいけれど」
「よし、決まり! ついでに弓の練習も久々にしたかったんだ~」
そう楽しそうに話すメイ。
機嫌の良さそうなシエラ。
そして相変わらず機嫌のあまり良さそうでない美湖。
ただ俺はその三人を見て、何かがおかしいように感じた。
なんだろうなと、暫く延々と考えていた俺は、シエラたちに連れ出して以前練習した公園まで連れてこられる。
その間も、何かがおかしいと考え続けていたのだが、そこで俺はようやく気づいた。
「俺の意見が全く聞かれていない」
そんな疑問を一人呟くが、シエラとメイは楽しそうに談笑していて、美湖は話しかけられると笑っていて、俺の小さな呟きは誰にも聞かれること無く宙に消えたのだった。
以前練習した公園に俺達はやってきていた。
あの鍛錬場に見覚えがあると思っていると、そこでメイが猫耳をピクピクいわせながら、
「うう、弓の鍛錬場は更に東だよ」
「ここから歩いて近かったはずだが」
メイはシエラの問に首を横に振り、
「移動するのが面倒くさい。暫く見てる。そうそう、美湖、後でまた魔法の練習する? その杖で使える魔法が他にもあったから」
「あ、そうですね。練習できたらいい、かな。……良太に負けない」
ライバル意識剥き出しな台詞に俺は困惑する。
俺は何で美湖をそんなに怒らせているんだろう。
よく女の子の気持ちがわからないと友人に聞かされていたが、確かに俺にもわからない。
さっきは少し機嫌が良くなっていたような気がしたが、今ではこんな感じだ。
本当は美湖にはもっと笑っていて欲しいのになと俺は思っていると、
「おい、良太。聞いているのか?」
「シエラ、ごめん。聞いていなかった」
「全く仕方がないな。これから手合わせをお願いするからといったのだ」
「ああ、そうか。分かった。とりあえず木刀を構えればいいのかな」
そう思いながら木刀を俺は自分の前に構える。
それにシエラはその“勇者”の剣を俺に向かって構える。
目の前に繰り出された、銀色の金属が陽の光の中で煌く。
こうやって見ると、恐ろしいほどに鋭く恐怖を感じるなと俺は思う。
そもそも剣や刀といったものはこんな間近で見るものではなく、ガラス越しにその存在を見る程度のものだった。
だからこの感覚は当然と言えるだろう。
そして、シエラがその“勇者”の剣を斜め上に持ち上げて、そのまま横に薙いだ。
スコーンッ
こ気味の良い高い音がして、俺の木刀がきれいな断面を見せつけながら宙を二回転して少し離れた場所の地面に落下した。
あまりにも鮮やかで簡単な終わりに俺は目を瞬かせながらその木刀を見る。
「なんでだ?」
「何でだ、ではない! それはただ木刀を持っていただけではないか!」
「いや力は込めていたはずなんですが……ひょっとして、倒す敵がいないと力が発揮されないのか?」
「では何故この前の丸太の時は出来た?」
「もう一度、丸太で試しても構わないでしょうか?」
シエラは渋々と言ったように頷き、併設された店から丸太を買ってくる。
それに向かって俺は木刀を振り下ろす。
先ほどシエラに切られて半分の長さになってしまったが、それでも使えるだろうと思って俺は木刀を丸太に振り下ろす。
以前と同じように、つるつるとした断面に丸太は割れた。
今回はうまくいったようだと俺が思っていると、シエラが半眼で俺を見ていた。
その冷たさに俺は、
「し、仕方がないだろう! 相手が人間だと感覚が狂うんだ!」
「……私が持っているから、実力が発揮できない。そういうことか?」
「おそらくは」
「ふむ、仕方がない。ではここにこの剣を置いて……」
そう、シエラが語った所で黒い影が背後に指す。
長い黒髪に赤い瞳の女だ。
彼女は笑みを浮かべていたが何処からどう見ても怒っているようにしか見えない。
そんな彼女に気づいて恐る恐るシエラは振り返り、そして俺は恐る恐るその場から退散しながら様子見をしていると、
「シーエーラー、なんて恐ろしいことをしてくれるのよ!」
「だがリリシア、あれは素晴らしい剣だ。良太のあの能力に勝利できるほどの!」
「それはドラゴンを倒してからにしなさいよ! それに良太の木刀までこんなにしちゃって……貴重な木を職人が丹念に磨いた業物だったのに……」
そう、俺の短くなった木刀を見て悲しげに呟くリリシア。
どうやら木刀にも業物があるらしい。
けれど要は俺が力を加えさえすればあれは再現できるので、
「俺が初めの街で買った木刀もありますしイザという時はそれを使えばいいかと」
「そうね、ええ、そうね……でも予備にもう二本位かっておいたほうがいいかも。ドラゴンとの戦闘は、ここから3日くらい行ったところだし」
「近いですね。そこで必死に食い止めているんですか?」
「食い止めようと戦闘は時々しているけれど……やっぱりあの話は本当みたいね」
そこでリリシアがちらりと美湖を見てから、
「“聖女”様といった異世界人は、ここよりもずっと大きな世界に暮らしていると」
「この世界は小さい、と?」
「小さいのか大きいのか私達にはわからないわ。だって私達はこの世界についてまだ全てを知っているわけではないんですもの。でもこの世界は多分、小さいでしょうね。歴代召喚された人間達全てそう言っているから確かだと思うわ」
「そうなのですか。でもラスボスと意外に早く戦えるのは良かったかなと」
「あら、勝てる自信があるのね」
「だってシエラのあの剣さえあれば、勝てるのでは? それにリリシアやメイ、美湖も俺も手伝いますし」
「そうね……大丈夫だといいのだけれど、準備はしておいくに越したことはないでしょう?」
リリシアはそう俺に言って、逃げようとするシエラをそこで捕まえ、
「シエラ、ちょっとお話しましょうか」
「わ、私はほんの好奇心で……」
「剣の威力に興味があるくらい剣術バカだと思っていたけれど、時と場合を考えて欲しいのでこれからお話しましょうね」
「リ、リリシア。今日の夕食おごりで手を打たないか。未遂だし」
「……仕方がないわね。それで手を打ちましょう。但し私達全員分がおごりね」
「そんなぁ」
嘆くシエラと上機嫌なリリシア。
メイと美湖は相変わらず。
先ほどからメイと何かを話していて、美湖の機嫌も少しは良くなったようにも見える。
そして俺達はメイの弓矢の練習に付き合うことになったのだった。
木刀に関しては近くの玩具屋でも売っているという情報を得た俺。
そう、得たまではいいのだが、
「この木刀は玩具なのか。いや、そうじゃないかと思っていたが、子供用か」
当たり前の事実に気づいて俺は心の中で涙した。
やはりああいった剣を持って振るったほうが、美湖にいいところが見せられただろうか。
でも見た目は格好悪いが、この木刀は俺の力を使って凄いことになるのだ!
あの威力、切れ味ならばそこらの剣には負けてはいない!
ただ、見た目が格好悪いかもしれないが。
そんなことを考えている俺に、メイが近づいてきて、
「弓の練習をするから、矢の回収のお手伝いを頼んでいいかな」
「それは構わないが……美湖は、リリシアと話中か」
リリシア達にも手伝ってもらおうかと思ったが、リリシア、シエラと一緒に美湖は楽しそうに笑っている。
邪魔するのも悪いよなとは思うが、何だかモヤモヤして仕方がない。
そんな俺にメイが、
「美湖がそんなに気になるのかな?」
「それは、まあ……」
「美湖もね、良太の事すごく気にしていたよ?」
「そ、そうか……」
「やっぱり一般人の良太が、そんな前線に剣を持って戦うのが嫌みたい。ほら、魔法を打つなら少し離れた安全そうな場所でできるし」
「それはそうだが、そのドラゴンを倒さないことには俺達は戻れないじゃないか。だったら下手に力を温存するよりも、折角呼んだ俺の力も使ったほうが早いし安全じゃないのか?」
「そうだよね、“勇者”だったんだものね、良太は」
そこでメイが弓を引き、羽のついた矢がまっすぐに飛んでいき的を射抜く。
上手くいったとメイは頷きながら、
「でもこの世界を救う者を呼んだら、“勇者”まで呼んじゃうなんて、驚いたよ」
「なりたかったのか? “勇者”に」
「そうね、少しはね。そうやって“勇者”になって褒め称えられたかったの」
「……そうですか」
「だって皆に賞賛されながら高笑いって一度してみたいじゃない!」
「お、おう」
「そんなささやかな夢すら叶えられず、お前出来たはずの良太に全部盗られてしまうなんて」
そう言って泣き真似をしながら再び弓を構える。
そんなメイに俺はどう言えばいいのか分からず、
「ごめん」
「ふふ、良太って面白いね。美湖が好きじゃなかったらアタックしたかも」
「え? いや、え? えっと……ありがとうございます」
「何それ、面白いなもう。……“勇者”だって分かっても全然態度が変わらないんだね。もっと横暴になるかと思ったよ」
「? 横暴になる意味が無いような」
「欲がないね。それとも……美湖のことで精一杯なのかな?」
「か、からかうなよ」
「恋のお話は女の子の好物なんですよっと。というか良太って素直だよね……」
深々と嘆息するようにメイが言う。
素直って褒め言葉なんじゃないのかと俺は思うが、そこでメイが俺を見る。
その目が何となく俺が何も分かっていないと攻めるようにも見える。
けれどすぐに構えた弓から矢を放つ。
再び的の中心をいる。
正確に標的を射抜くその才に、凄いなと俺が思っていると、
「良太、他の女の子を褒めるのはやめた方がいい。特に、美湖の前では」
「別に美人だとかそれくらいは良いだろう?」
「女の子は好きな相手の視線を独占したいものなのよ」
「それは……美湖が俺を好きだってことか?」
「……好きな方を選べばいいと思うよ。それでどうするのか、良太は考えてみたほうがいいかも」
「でも幼馴染以上の好意はあるってことか! よし、やる気になってきた!」
美湖が俺の好意に答えてくれる可能性があるってことだなと幸せを感じていると、再びメイがため息を付いた。
何でだろうなと俺は思っていると、
「うん、こじれない程度に頑張ってね」
「なんか投げやりだな」
「仕方がないと思うよ。私の事じゃないし」
「それは薄情なんじゃないのか?」
「よし、分かった。じゃあ私が美湖に、良太が好きだ、愛してるって密告してくるわ」
「止めてぇええええ」
悲鳴を上げる俺。
まだ心の準備的な意味で、伝える勇気がない。
というか場所とかそういったシチュエーションとかその他もろもろ、ぁあああああ。
そんな焦る俺に、メイはそれ以上何も言わなかったのだった。
結局、それから弓を外した時用のお手伝いとして俺は扱われていたのだが、メイが的をはずさないので俺は特にすることもなく。
矢を回収して打つこと三周。
「うん、これで練習終了。後は、皆でお食事に行こう!」
そう元気に叫んだメイ。
なので俺達は近くの食堂に来ていた。
そこで俺は、スープの中に浮かぶパスタと巨大な焼いた肉の塊に遭遇する。
それに俺は目を丸くしていると、
「どうしたのかしら、良太は。驚いたみたいに見て」
リリシアが俺にそう話しかけてくるが、全員の目の前には俺と同じものが置かれている。
こんな不思議でボリュームのある料理だがこの女性陣は美味しそうと思うだけらしい。
細い体で俺よりも背が低い彼女達のどこにこれが入るのかと思いながら、食事を取り始める。
肉を切っていくと程よく赤みの残ったレアのやき具合で、口に含みと肉汁があふれる。
素直に上手いといえる肉だと思うと同時に、これって何の肉なんだろうと疑問が俺の頭によぎるが、深く考えようにした。
そうやって食べていると、たまたま顔を上げると美湖と視線が合う。
けれど美湖はすぐに俯いてしまう。
どうしたらいいんだろうと俺は思いながら、けれど少しでも美湖との関係を改善したくて、
「美湖、この肉うまいよな」
「そうだね」
「この付け合せの野菜も美味しいし」
「そうだね」
淡々と受け答えする美湖。
全く会話が続かず、俺はどうにもならない。
どうすればいいんだろう、そう思いながらも俺はそういえば他の女の子は褒めないほうがいいとアドバイスを貰ったので、だったら、美湖を褒めてみたらどうだろうと思った。なので、
「美湖」
「……何よ、改まって突然」
「美湖って美人だよな」
「ごふっ」
丁度、肉の大きな塊を口に入れたばかりの美湖は、吹き出しそうになった。
俺はなにか変なことを言ったかなと思っていると、目の前で美湖は必死になって先ほどの肉の塊を飲み込もうとして、どうにかモグモグと口を動かして飲み込む。
それから涙目になりながら、
「い、いきなり何を言っているのよ」
「いや、美湖の機嫌が悪くて、もう少し笑ってくれないかなと思って」
「……本心じゃないのね」
「本心だよ。本心から褒めてみた」
それを聞いた美湖は口をへの字に曲げる。
そしてじっと俺を見てから、
「……ばか」
「なんだよバカって」
「別に。何でもない」
「後でさちょっと二人っきりで話さないか。お互いい本音で少し話し合ったほうが良いと思うんだ」
二人っきりで邪魔されない場所なら、こじれることもないだろうと思った。
俺が甘かったのだが。
そしてそれにちょっと言葉が詰まったらしい美湖がしかたがないなというようにようやく微笑んだのだった。
美湖が機嫌が良さそうなので、俺は油断をしていたのかもしれない。
大した会話はしていなかったと思う。
目の前で美湖が涙目で怒っていた。
ここの所俺はこんな顔の美湖ばかり見せつけられている。
美湖は美人だ。
黒髪黒眼だがどちらも艶やかに輝いて、可愛いよなといっている友人にむっとしたのを俺は覚えている。
それが告白しようと思う切っ掛けだったと思う。
そして現在俺は、怒る美湖にどうすればいいのか分からず何も言えずにいると、
「良太は、何も分かっていない」
「……分かっている」
「いいえ! 分かってない! 良太なんて、大嫌い!」
そう美湖は俺に叫んで、走って行ってしまう。
それを見送りながら俺はどうすればいいんだと思う。
自分なりに考えた結果だが、美湖には納得してもらえなかった。
けれど放っておくわけにもいかず俺が追いかけて行こうとした所で、リリシア達が焦ったようにやってきた。
そして俺に気付くと走り寄り、猫耳娘のメイが、
「美湖は何処に行ったのですか! 良太」
「今怒らしてしまって、走って行ったから追いかけようかと」
「急いで下さい! 今、リリシアが何処からか連絡を貰って、どうもあの三王が最後の一匹が私達を狙っているようなんです。それに奴らは、魔力の大きさで狙って来ますから……美湖を追うかと思います」
「でも、俺は“勇者”なんだろう? 俺は狙われないのか?」
そこでメイは黙ってしまう。
次に俺の元にリリシアがやってきて、
「良太、ギルドカードを見せてちょうだい」
そんなものを突然と思いながらも、俺はポケットからそれを取り出す。
薄いプレート状のそれは、相変わらず“???”のままだ。
それを見ながら俺は、
「相変わらずの表示だが」
「“勇者”の表示はないか。相変わらず“???”のままね」
「それがどうかしたのか?」
「……シエラのギルドカードに“勇者”の文字が浮かび上がったの」
知らない話に俺が驚いていると更にリリシアが、
「そうなってくると貴方が一体何なのか、全く分からないわ。はあ、女神様は不在だし、どうしましょう」
そんなもの俺が一番知りたいと突っ込みを入れたい気持ちになりながら俺は、はたと気づいた。
「そうだ、美湖を追わないと!」
こんな所で話し込んでいる場合じゃなかったと俺は走り出してそして、美湖の悲鳴と共に炎の魔法が爆散するのを見たのだった。




