“愛”について語ったとしても、その男は気づかない(笑)
おそらくこれは役得だと思う。
現在、美湖が俺に涙目で抱きついている。
不謹慎だが、その影響で美湖の胸が俺にくっついていて、ちょっと柔らかい。
などと考えて頭をおかしくさせておかないと先ほどの恐怖が戻ってきそうで怖い。
動物園で見るようなカバでそれほど怖くないなと思っていたあの時の俺に向かって、油断するなと言いたい。
まさに俺は命の危機にさらされたのだ。
迫り来るあのカバの短い前足が、体ごと俺に向かって……それを、よくもまあ木刀で防ごうと思ったと思う。
けれど実際にそれで防げたのだからしかタがない。
そんなぼんやりとした俺に、いつの間にか集まってきた三人が取り囲む。
そこで猫耳娘のメイが、
「良太、今、木刀で倒さなかった?」
「おそらくそうだと思う」
「それ、ただの木刀だよね?」
「……だと思う。一応見てもらえるか?」
もしや伝説の◯◯木刀だったりするのではないかという期待が、俺の中でふつふつと湧き上がる。
けれどメイはそれを見ながらうめいて、
「ただの木刀にしか見えない。シエラは?」
「ただの木刀だな。触った感じも何の変哲もない。リリシアはどうだ?」
「普通に、ルリアの木で作った軽い木刀ね」
その答えに、メイとシエラが呻く。
一方リリシアといえば、やっぱりねとまた何かを革新した笑みを浮かべている。
おそらくは俺が“勇者”だと確信を強めたのだろう。
けれどまだ確定ではないからリリシアはそれを口にしない。代わりに、
「折角の料理がちょうど良さそうな感じだから、そろそろ食べない?」
そう、俺達にリリシアは告げたのだった。
あの後、美湖はずっと片手で俺の洋服を掴んだままだった。
「いつまで掴んでいるんだよ。もう大丈夫だって」
「……やだ」
わがままを言うように小さく呟く美湖。
俺は一体どうすればいいんだろう。
もしやここが告白のチャンスなのかもしれない。
いやいや、この戦いが終わってから花束も買って……ではなくて。
どうしよう、俺はどうすれば……。
そう思っている内に、魔物がまた現れてそれを倒していく。
今回やけに猫耳少女のメイが張り切っているが、理由は先程のカバを倒す時に高級な矢を数本無駄にしてしまったかららしい。
その腹いせに魔物を駆逐しているようだ。
なのでシエラは手伝っているが、リリシアは魔法を使わずに楽しそに戦闘を見守るだけだった。
そうこうしている内に、森が見えなくなってきたなと思うと人の住む家が見え始める。
やがて左右に畑が広がり、その先には建物の集合体が見える。
そこに向かって歩いて行き、人通りの多い道を入って、そこでシエラが、
「今日は先に宿を決めておこう。個々の宿は混むから早めに見つけておかないと」
「詳しいんだな」
俺の質問にシエラは、ここで昔働いていたことがあるのだと答える。
なんでも昔いた騎士団がここだったらしい。
「今はこの腕をかわれて王城につとめているんだ」
そう何処か誇らしげに告げるシエラ。
それを聞きながら、シエラに案内されてその宿に泊まることにする。
先払いだったので事前に支払いを済ませた。
もちろん俺は男の一人部屋だ。
もう少しこう、素敵なイベントがあってもいいんじゃないかなと思いつつも、今日と今後のことを話し合うために女子部屋に俺は向かったのだった。
女の子の部屋というものはいつ来ても緊張すると俺は思う。
幼馴染とはいえ、美湖の部屋にこの前、宿題をしに行ったが、何故か他の男友達も女友達も突然用事ができてこれなかったらしい。
おかげで部屋に二人っきりという非常に気まずい思いをさせられた。
けれど現在は、美湖一人だけでなく、シエラ、メイ、リリシアの三人がいる。
女の子四人の中で男の俺が一人という状況だ。
それはおいておくとしてやってきた俺がまず聞かれたのは、
「やっぱり、この良太が“勇者”なのかな?」
しっぽをぱたぱたと振らせながらメイが聞いてくる。
目をキラキラさせている猫耳娘なメイが俺にいってくるが俺としては、
「その“勇者”っていうのが何なのかは分からないが、一応魔力はあるみたいなんだよな」
「ふーむ、早めに見つかるのはいい事ですし、それならば剣の稽古をシエラ煮付けてもらったらどうですか?」
話をふられたシエラが頷く。
「そうだな。剣の稽古をつけるのは構わない。美湖のこ……幼馴染の大切な異世界人の男性だから、それは構わない。ただ……私はまだ、良太がその“勇者”だとは思えないのだ」
シエラが言うのを迷ってから言う。
俺ってそんなに“勇者”っぽくないからかな、と俺は気落ちしていると、
「“勇者”は基本的にこの世界の人間だったはずだ。歴史を紐解いても全てそうだったはずだ」
「そういえばそうね。でも、何事にも例外はあるのではないかしら」
シエラの言葉にリリシアが楽しそうに反論する。
それにシエラがむっとしたように、
「だが、前例がない」
「あら、シエラはそんなに“勇者”になりたかったの?」
「当たり前だ。幼い頃からずっと“勇者”の冒険譚を読んでいたのだから……」
「そういえばシエラは本を読むのが大好きだったわね。うーん、でも現実には、そんな木刀で危険な敵の強力な配下を倒してしまう存在がいる……それはどう思う?」
シエラは黙って俺を見る。
それから上から下まで見て、次に自分の剣を見て、
「良太、この剣を掴んでみろ」
そう言ってシエラは俺に自身の剣を差し出した。
そんなもんを渡してきてどうするんだろうと思って、俺はその剣に触れようとするが、剣はするりと俺から逃げた。
しかも地面に落ちるどころか、器用に宿屋の床を傷つけない程度に飛び跳ねながら剣が逃げていき、シエラの鞘に戻ってしまう。
異世界の事情はとんでもないことになっているなと、逃げていく剣を見て俺は思った。
そこでリリシアが、
「うーん、でも“勇者”なのに剣が扱えないのはまずいわよね」
「リリシアもそう思うだろう。だから彼は“勇者”ではないのではと思う」
「……そうね。魔力量からすると一番適正がありそうなのだけれど、まあ、これからもしかしたなら良太も剣が使えるようになるかもしれないし、この木刀だけでもずいぶん力があるみたいだら、シエラに教えてもらったらどうかしら」
と、リリシアに言われ、次に俺はシエラを見て、
「教えて頂いても構わないでしょうか」
「構わない、むしろ望む所だ」
そうシエラが答えるが、そこで美湖が、
「やっぱり良太は危ないから私達と一緒に来ないほうがいいんじゃないかな」
「でも、俺の場合こんな力があるって分かったし……」
「だって、良太があんな危険な目に遭うのなんて、見たくない!」
「それ俺だって同じだ! 美湖が強いらしいからって危険な目にあって……そんなのを黙ってみて色っていうのかよ」
それも好きな幼馴染の女の子相手に、と俺は心の中で付け足した。
けれど美湖がむっとしたような顔をして、
「なんで私の言うことを聞いてくれないの! 私はこんなに良太を心配しているのに!」
「それはこっちの台詞だ! 俺だって美湖を心配して……あの、どうしたのでしょうか皆さん」
気づけば、猫耳っ娘のメイ、剣士のシエラ、魔法使いのリリシアが俺達を取り囲みニマニマしていた。
そして三人揃って頷き、
「“愛”ですね」
「“愛”だな」
「“愛”だわ~」
「「違います!」」
俺と美湖の声がかぶり、それが三人に新たな笑いを誘ってしまう。
けれど俺としてはちょっとは期待していいのだろうかと思って、すぐに俺は自分に期待するなと呟く。
だって振られたらそれはそれで、美湖とどう顔を合わせればいいのか分からない。
そんな悩む俺だが、そこで気づいた。
「シエラ、剣の稽古をつけてくれ!」
「……分かった」
美湖の様子や、他の二人とともに深々と嘆息しながら、シエラは俺に答えたのだった。
こうして俺は、シエラに剣の稽古をつけてもらうことになったが、そこでリリシアが、
「そういえば定時報告を忘れていたわ。ちょっと待っていてね~」
と、リリシアが部屋を出て行ってしまった。
あの王様っぽい王様と何か話すのだろうか。
そう思いながらシエラに連れられて、町外れに行くのかと思えば、町中の公園に向かった。
噴水があったり子供向けらしい遊具があったりと、いかにも公園といった様相だ。
そんな子どもたちが遊び、老人がベンチに座って空をみあげている中を歩いて行くとそこには広場がある。
多くの男性が、剣を振り鍛錬しているようだった。
そこにやってきた俺だがすぐそばに貸出用の刃が潰された剣が置かれており、
「これなら俺は使えるかな。……また剣が逃げて行きやがった」
跳ねまわって逃げまわるその剣を見て俺はうんざりする。
こんな剣にもならないような物体にまで俺は認められていないらしい。
そんな様子を見ていたシエラは、
「やはり剣士ではないからか。職業が違うので、剣が逃げていくのだろう。……職業が決まっていない子供ならば剣は逃げないのだがな」
「……やはり、俺にはこの木刀しか無いのか」
使える武器がこれしか無いのは切ないが、仕方がない。
なので俺は木刀をまっすぐに構えてみる。
こんなことならば剣道部に入っておくべきだったと今更ながら後悔するが、後の祭りだ。
そこでシエラが俺の後ろにまわり、
「もう少しこうしたほうが持ちやすいだろう」
「……確かに」
持ち方を修正してもらったが、この方が持ちやすい。
試しに振ってみると、とても動きがいい。
そこでシエラが呟いた。
「随分その木刀の動きがいいな。軽い材質とはいえ、そこそこ重いはずなのだが」
「そうなのですか? 凄く軽いですよ?」
「……もう一度持ったままで見せてもらえるか?」
そこでシエラがなにか疑問に気づいたらしく、俺に木刀をもたせたまま、その木刀に触れて、人差し指ですっとなぞる。
それからふむふむと頷いて、
「どうやらこの剣自体に良太の魔力が通っているようだ。それで軽く切れ味を増しているが、私が触れても特に問題はない。つまり相手を選別して切れ味を増している」
「そうなのか? 俺は特に意識していないんだが」
「意識せずに魔力をコントロールしているということか。ちょっと待っていてくれ、訓練用の丸太を買ってくる」
シエラがすぐそばの店で売っている丸太を買ってくる。
剣の訓練をする人間が多いのか、そんな店がこの練習場には併設されていた。
そして買ってきてもらった丸太の支払いはどうしようかと俺は思っていると、
「上手く薪にできれば、その分の料金がタダになるんだ」
「それは薪割りの仕事をさせられているってことなんですか?」
「そうとも言える。だが時々この丸太を粉砕する人間がいて、それで有料になってしまったんだ」
と言った裏事情を聞く。
なので俺も、薪の形になるよう眼の前の丸太に向かって木刀を振り下げる。
空を切る用な手応えのない感覚。
手元に木刀を引き寄せて数秒後、丸太は左右に割れて転がる。
その断面はつるつるとしていて、磨かれたかニスが塗られたか、と思うほどに滑らかで光沢がある。
それを見てシエラはうめき、
「ここまでとは。それで切った感覚はどうなんだ?」
「……空中で剣を振りかざしているような感覚です」
「よほど切れ味がいいんだろうな。だがここまで鋭い断面だと、角の部分に触れると怪我しやすいかもしれない。上手く切りそろえて薪にする作業は後で私がしよう」
確かに断面が綺麗すぎてこれは触れると怪我をするかもしれないな、と俺が思っているとそこで、
「しかしこれだけ鋭い切れ味だと私が型を教えるよりも、どう使うかを考えたほうがいいかもしれないな。剣の型や攻撃などは相手の剣を受け止めたり防御したりするのが主だが、この県の場合は切れ味が良すぎる。どんなものでも切り裂くだろう。例えどれほど強い魔力の結界が張られていようとも」
「つまり俺に教える意味はあまりないと?」
「正確には、攻撃が来た時避けた利権を振りかざしたりする感覚を鍛えたほうがいいな。あの奥に入ってボールを私が投げるから良太が避ける訓練をしよう」
といって、俺が切った丸太をサクッと剣で薪にして持っていく。
代わりにかごいっぱいに、布を固めて作ったらしいボールを貸してもらってくる。
それを見ながら俺は、
「シエラは面倒見がいいな。案外男にもてるんじゃないか?」
「な、何を急に! わ、私は別に……」
「美人だし強いし面倒見もいいし、って思ったんだが……」
「……これは、美湖の気持ちがわかる気がした」
何やら納得したらしいシエラが、早く来いと手招きする。
そして俺が、その場所には編みのようなもので囲まれたサッカーのゴールのような物が置かれていてその中心部に立つと、
「行くぞ!」
シエラが掛け声とともにボールを思いっきり投げてくる。
本気で投げるなよと俺が思っていると、そこでシエラの投げたボールが目に見えて遅くなる。
何故だろうと思いつつ俺は避けると、シエラが驚いた顔をして、次にボールを先程よりも早く投げつける。
だが先ほどと同じような感覚にとらわれて俺は、それを避けていく。
やがてすべてのボールを避けきった俺は、そのボールを拾う手伝いをしながらシエラに、
「何だかボールが避けやすくなった気がするな」
「……魔力に酔って体を強化しているのかもしれない。つくづく異世界の人間は規格外だ。これならば本当に“勇者”なのではないかと思ってしまう」
「そういえばその“勇者”ってなんなのですか?」
「聞いていないのか? この世界には魔法があるが、魔法を使った負の遺産であり悪意が時折生まれるのだ。それが時々具現化する。それを倒すのが“勇者”でありそれを見つけるのが“聖女”だ。そして美湖を呼び、良太がおまけでついてきたと」
「おまけと言われて凹むが、でも何でこの世界の女神様とやらがそれを倒さないんだ?」
「片方に偏った属性なので、女神様はそれを倒したりする過程で触れると体調をくずすらしい。それであまりその行為を行っても影響のない、異世界人を呼ぶことになった。それが“聖女”の始まりで、その“聖女”の力をうまく扱い強力になるのが“勇者”だと言われている」
「その伝聞情報は何なんだ」
「何しろ勇者が以前現れて、500年は経過しているからな。その伝説も随分散逸して途切れてしまっているのが現状だ」
ため息をつくシエラ。
そこでようやく俺が最後の1個を拾い終えたのだが、シエラは、
「ここまで油断しなければ戦えるだけの力があるのはわかったから、他の皆にも報告する」
「じゃあ訓練は、これで終わりか?」
その問にシエラが頷くので、俺は訓練してくれてありがとうと礼を言ったのだった。
部屋に戻ってくると、リリシアがニコニコ笑いながら待っていた。
「おかえりなさい、どうだった?」
リリシアがシエラに聞くと、シエラは肩をすくめて、
「切れ味の良い木刀に、素晴らしい反射神経……彼は戦力になる!」
「“勇者”かどうかは別として、使えるということね」
良いことだわとリリシアが呟くが、相変わらず戻ってきても美湖の表情はすぐれない。
だから俺は美湖に近づいていって、
「どうしたんだ? さっきからずっと黙ったままで」
「良太は、平気なの?」
「戦闘がか? それを言ったら、美湖だってそうだろう?」
「それは、私、離れたところから攻撃するだけだし。でも良太は剣術なんて知らないし」
「でも魔力量か何かに関係しているのか、剣だってこんなに強いし」
そこまで言うと、美湖は黙った。
そのまま部屋を一人で出て行ってしまう。
困ったように、猫耳娘のメイが追いかけていく。
それを見送ってから、リリシアが困ったように、
「まったく、危険なのは美湖も同じなのにね。でも、それだけ良太が大事なのね。というわけで、良太も含めてある場所に行くことになったわ」
「ある場所、ですか?」
俺も含めてと言っているから、俺に関係する場所なのだろうかと思う。
けれどリリシアは、
「そう、その昔、“勇者”が使ったという、伝説の剣が隠されている場所があるの。この隣の町から少し歩いた場所でね。最近魔物や“昏き獣”が現れるからって人があまり行き来しなくなっちゃって」
「伝説の剣……いかにもな感じですね」
「でしょう? そしてさっき連絡して、私達全員の動きや癖、感じもだいたいわかったからそれ用の装備を送ってもらうことになったわ。もちろん良太の木刀も新品よ」
「いえ、これも新品なのですが……」
「まあまあ。貰えるものは貰っておいたほうがいいわよ? それにこれから次の危険な刺客も来るだろうし」
「……どういうことですか?」
そこでリリシアは更に笑みを強くする。
次にシエラを見てから、少し考えるように黙ってから、
「現在、その“昏き獣”の長であるドラゴン“地獄の王”と呼ばれる者が、我々の生活を脅かしている、それは知っているわね」
「もったいぶらずに話せ、リリシア」
それにシエラがうんざりしたように言う。
俺も嫌な予感しかしなかったので同じ意見だった。
そんな俺達の表情から何かを読み取ったのか、リリシアは、
「だから、その怪物をできるだけ早く倒せば被害も少なくなる。そしてできれば彼らの力を分散させて倒したい、という話になってね」
「……まさか敵に情報を?」
「シエラ、勘が鋭いわね。そうよ。人形にその情報を言わせて、食わせたの。人間に見せかけるのは結構苦労したわ」
「そんな話聞いていない」
「王様と私の秘密の会談で決めたものだからね。本当は秘蔵の魔法だったのに、残念。そしてその剣を取りに行く所にもう一匹が待ち伏せするように誘導しておいたから、明日にはそちらにいかないといけないの。もちろんそこに行く前に装備はとなり町で補充できるわ」
リリシアの言葉に俺とシエラは顔を見合わせて、けれどもう決まってしまったことらしいのでそれ以上は何も言わない。
ただ俺が思うのは、
「“勇者”を見つける前でよかったのか?」
「“勇者”を見つけている余裕が無いくらい、実は切羽詰まった状況だってことを私はいいたいわね。……まだ皆知らないけれど」
冗談めかすように俺に言いながら、リリシアは力なく笑う。
俺達が呼ばれたのもギリギリだったということなのか、と問いたいが、黙る。
どのみちその敵を倒さないと俺達は元の世界に戻れないのだ。
それを考えれば早い内に俺に力があるのが分かってよかったと思う。
後はあの機嫌が悪い美湖が機嫌を直してくれるといいなと俺は思ったのだった。
時間は少し遡る。
良太から逃げ出した美湖は、猫耳娘のメイに慰められていた。
「私は良太の事、凄く心配しているのに」
「それと同じように良太も美湖を心配しているんですよ」
「それはわかるけれど! でも、さっきみたいに……」
「そうですが、良太は生きていますよ」
「次はどうかわからないじゃない!」
声を荒げる美湖に、メイは黙っている。
今は先程のショックが大きすぎて、美湖自身が我慢しきれなくなっているようだから。
だから黙って言いたいように言わせておくと、やがて、
「ごめん、つい……」
「いえいえ、美湖が良太が大好きなのが分かってよかったですよ。さあ、戻りましょう。それに早くそのラスボスを倒してしまえば美湖も良太も元の世界に戻れるのですから」
「そう、だよね。……がんばろう」
そうして戻った美湖とメイは、リリシアから先ほどのような話を聞き、けれど美湖の力に良太の力が必要だと言われて、再び美湖の機嫌が悪くなったのだった。




