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ドSな女魔王様に、トラウマを植えつけられるお話

 時間は、良太がリリシアに衝撃告白される少し前に遡る。

 美湖、メイ、シエラ、リリシアは集まって食べ物の話だったり異世界の話だったりしていたのだが……そこで。


「それで、“聖女”様はあの良太のどこが好きなのかしら」

「ごふっ」


 美湖が突然の質問に吹き出した。

 その反応で十分まるわかりだが、そうなってしまえば自然と話の流れは恋話になる。

 なので、そんな美湖の周りをぐるりとメイ、シエラ、リリシアが集まり、メイが猫耳と尻尾を楽しそうに揺らしながら、


「それで、どんな所が好きなんですか?」

「え、いや、えっと……言わなくちゃ駄目?」

「ぜひぜひ聞きたいですね~。しかも一緒に召喚されるくらい大好きな相手何ですよね」

「……私のせいで良太もこの世界に?」

「おそらくは。だってこの世界を救うものを召喚、つまり“聖女”様を呼んだわけですし」

「……そろそろその“聖女”様はやめてもらえるかな。何だかくすぐったい」


 それに、じゃあ、美湖って呼びましょうといった話になり……会話は先程の話に戻る。

 メイが更に猫のしっぽをパタパタさせながら、


「それでそれで、美湖の彼氏なんですか? 良太って」

「か、彼氏じゃないよ! まだ好きってだけで付き合っていないし……本命だけど。チョコあげるときもいつだって何時も、おまけだって、義理だって言っているし」

「おまけが本命という事ですね。むふふ、この世界に連れてきちゃうくらい大好きな幼馴染ですか~」

「か、からかわないでよ」


 焦る美湖にメイとシエラは興味津々だ。

 但しリリシアだけはどこか考えこむように黙っている。

 そして美湖はそんなリリシアの様子に気づかず、メイとシエラが、


「それであの人の何処がそんなに好きなんですが?」

「ぜひぜひ教えて下さい。私の後学のために」


 そうねだられて、美湖は更に顔を赤くして、


「い、言わなきゃ駄目、かな」


 メイとシエラがゴクリと唾を飲み込み頷く。

 それに美湖が渋々と、


「や、優しい所、かな」

「? それだけですか?」


 メイがそう言うが、美湖はむっとしたように、


「だって昔から一緒にいて、時々意地悪だけれど、優しいもん。一応勉強もそこそこできるし顔だって結構いいけれど、やっぱり、私に対して優しいのって大事」

「うむ、確かに優しい男の人は好きです。シエラの場合はちょっとでも可愛いと言われれば落ちそうですが」

「な、何をそんな」

「だってさっき良太に可愛いと言われて顔を真赤にしていたじゃないですか。私、知っているんですからね」

「な、何を言って、だってあんなの男に言われたことがない……」

「……シエラ、もう少し男に耐性を付けたほうがいいですよ」

「メ、メイの方こそ彼氏いないのに私にそんなことが言えるのか!」

「ふふん、私はいくらでも彼氏を作れるのです!」

「……二次元は駄目だとおもう」

「う、うにゃ、いいじゃないですか、別に! ……あれ、リリシア何処に行くの?」


 そこでリリシアが立ち上がり、部屋を出ていこうとする。

 それにメイが問いかけるが、そこでリリシアが振り返りくすりと笑う。


「良太に魔法を教えてくるわ。少しでも戦力がほしいから」

「そうですね、いざという時に自分の身を守れる力は大切ですからね」

「そうそう。ついでに良太をけしかけてくるから楽しみにしていなさい、美湖」


 そう言われた美湖は顔を赤くして、


「べ、別に私は、今急にそうなりたいわけでは……」

「そう? それなら折角だからけしかけてきてあげるわ。ついでに美湖が襲われるように揺さぶりかけてくるわ」

「お、襲われるって」


 美湖がさらに顔を赤くするのをリリシアが見て楽しそうに笑う。

 そんな焦っている美湖に、シエラ酷く冷静な声で、


「放っておけ。今の所、男に襲われるくらいの好感度を上げられていない人物の戯言だ」

「シーエーラー、覚えてなさいよ」

「だったらもう少し私がやけ酒に付き合わなくて済む方法を模索しろ」

「しかたがないのよ! 私の魅力がわからない男が悪いの!」


 そう怒ったようにリリシアが部屋から出ていき、それを見送ってから猫耳のメイが、


「それで、これまでの良太とのドキドキ体験についてお話してもらいましょうか」

「まだその話続くの!?」


 そう言ったように延々とからかわれて話している美湖達。

 その一方で俺は、リリシアの厳しい魔法教育の成果は結局何一つとしてえられなかったのだった。






 次の日の朝、俺はげっそりとした顔で部屋から現れると、丁度、美湖が出てきたところだった。

 美湖は俺の顔を見るとぎょっとしたように俺を見て、


「どうしたの? 真っ青だよ?」

「リリシアの魔法教育が厳しかったんだ」

「そ、そうなの?」

「ああ、あれはきっと鬼教官とかそんなレベルだ。あれがリリシアの本性だったのか……」


 見かけは黒髪の怪しいお姉さんだが、俺に見せたあれは、女王様とかそんな生易しいものではなかった。

 あれぞ本当の“魔王”というものなのだろう。

 恐ろしいそれは、もう俺はリリシアを一人の女の子として見れないかもしれない。

 あれは狂気の淵に俺を貶める怪物以外の何物でもない。

 オソロシヤ、オソロシヤ……。


「あら、良太。元気が無いわね、どうしたのかしら」

「ぎゃあああああ、出たぁあああああ」

「……何よその反応は。少し厳しくしただけじゃない」

「す、少しってそんな……」

「本気はあんなものではないわよ? 全く手加減したならこんなふうに言われるなんて……次回はもっと絞ってあげるから楽しみになさい」

「お、お許し下さい、俺にはもう無理です!」


 そんな俺の様子に気づいた美湖がリリシアに、


「あのー、あまり良太を苛めないでください」

「苛めていないわ。生きるために手っ取り早く魔法を使えるように教育しようとしたのだけれど……全く才能がなかったの」

「わ、私が良太を守るからいいんです!」

「そう? ふーん、にまにまにま」


 リリシアが含むがあるように笑い、美湖が顔を赤くする。

 けれどそれよりも俺はリリシアのあの、狂気の教育を受けずに済むということで頭がいっぱいになり、美湖達の様子に全く気づいていなかったのだった。







 朝食をとった俺達は町を出発する。

 昨日いった道とは反対方向の道だった。

 これでようやく俺達の冒険が始まり始めたわけだが、徒歩で移動だった。


 隣の村までまずは徒歩で移動するらしい。

 宿の会計や、途中、野宿した時の事を考えて食べ物や飲み物を多めに準備。

 リュックサックの様なものも購入しそこに全てを詰めたがそこまで俺は思いと感じなかった。

 やはり俺には魔力が相当あり、


 道が整備されていて、コンビになり自動販売機なり、観光用の食事どころがあるのならば余分なものはそれほど必要なさそうなのだが、この世界ではそれが望めそうになかった。

 それでもある程度は産業が発達していそうだったので、メイに試しに聞いてみたが、


「コンビニ? 人のあまりいない場所に店を作ってどうするの? そもそも隣町に行く程度だから途中、いる用の物があっても町につけば手に入るし」


 とのことで、隣町は近いので途中に休憩所の様なものはないと俺は聞いた。

 ただ念には念をという事で、俺は物を購入してから旅に出たわけだが、


「しっねぇぇええええ」

「ぎゅぴぁああいいいあああ」


 リスらしき魔物が、美湖の杖から放たれた炎で消し済みにされた。

 その他にも四体ほどいたが、相変わらずの余裕を見せるリリシアが魔法で一気に二匹を倒し、メイが矢で一発で倒してから、その使った矢を回収していた。

 それを見ながら俺は、


「さっきその矢、炎に包まれていた気がしたんだが……」

「そうです、魔法を纏わせる矢なんです、お高いんですよ」

「金属製なのか。だから燃えなかったのか?」

 

 そう俺が告げるとメイが犬耳をパタパタさせながら、目を輝かせて、


「そうなんです! 魔力を纏うには、その素材の強度を上げないといけないのですが、この矢は普通の物と違い、魔力と相性の良い金属ですのですごくお高いのです! なのでこうやって回収しないといけないのが玉にきずだったりするのですが」

「安い矢を使い捨てにすると威力が落ちるのか?」

「そうですね。それに狙いも定まりにくくて、かといって使い捨てにするくらいならこの高級な矢を買った方がお得でとても経済的なのです!」

「そ、そうなのか」


 矢にも色々と難しい問題があるらしい。

 そこでシエラが、最後の一匹の魔物を倒す。

 それを見ながら、わざわざ拾いに行くのを考えると、剣の方が扱いが楽なのだろうかという気持ちに俺はなる。


 次に俺は自分の腰に差している木刀を見る。

 ただの木刀。

 やっぱりもう少し強そうな武器が良いよなと思いながらも俺は、もしも魔力の強い俺がこの木刀を使ったならどうなるのだろうと思う。

 この木刀が、先ほどのシエラの剣のように鋭くなるのだろうか。


「……そうだったらいいよな」

「何が? 良太ちょっと嬉しそうだけれど」

「み、美湖、いや、その……この木刀が上手く使えればなって」

「私が守ってあげるって言っているのに、何よそれ」

「い、いや、だって……い、一応、美湖は幼馴染で女の子だし、俺も頑張らないと……」

「いいえ! そこは頑張らなくて良いの! 私が頑張って、いいところを見せるんだから!」

「いや、俺だっていい所は見せたいわけで……」

「それで怪我なんてして欲しくないもの。というわけで、諦めなさい!」


 俺は、自信満々に美湖に制限された。

 こんな時俺は一体どうすればいいのだろうか、と悩む。

 けれど悩んでいる間に、美湖達は走りだしてしまい、俺はその後を慌てておったのだった。






 山間の開けた場所にやってきた俺達。

 日差しも温かく風も涼しく、休憩するには丁度いい場所だ。

 その中でも地面に草があまり生えていない場所を選んで、俺達は昼食をとる事になった。


 この世界の料理は俺達には分からないので、とりあえず材料と簡単な携帯できる調理道具も購入しておいた。

 すぐ傍には、透明度の高い小川が流れていて、飲んでも大丈夫だと猫耳っ娘のメイが話していた。

 ちなみに料理をするのはリリシアらしい。


「やっぱり男を落とすには食事よね。美味しい物を食べさせて、くらっと来させるの~」


 などと歌いながらジャガイモのようなものをむき出すリリシア。

 そこにシエラが近づいていき、


「手伝おうか?」

「触るな!」


 きっとリリシアが睨む付けて叫んだ。

 その形相があまりにも強烈過ぎて、こっそり俺はリリシアから間を取る。

 それに気付かないリリシアが、更にシエラに、


「貴方、まだ懲りてないの? この前一緒の騎士団の男性達に、日ごろのお礼も込めてお菓子を作りたいと言ったからレシピを教えたら、食べた全員倒れて大変な事になったでしょう?」

「あ、あれは誰かの陰謀だったんだ!」

「しかも持ってきたそのお菓子をみたら、何だか目に見えるように紫の煙が湧きでる呪いがかかっていて、調べたらどう見ても貴方の魔力だし」

「し、知らない」

「その後も、一緒に菓子を作っても、魔物への攻撃材料にしかならないし……日持ちする爆弾なら良いかも。そっちで簡単な焼き菓子でも作る? シエラ」

「誰が作るか! もういい、手伝わないでゆっくりしている!」


 リリシアの言い草にシエラは怒ったように、少し離れた小川を見に行ってしまう。

 それを見送ってリリシアは安堵したようだ。

 そんなリリシアに近づく影が一つ。

 ネコ耳娘のメイだ。


「リリシア、私が手伝おうか?」

「遠慮するわ。野菜の皮をむくのが下手だし」

「そんなことないもん!」

「……この前私のこぶしぐらいの野菜が、親指の爪ぐらいの大きさになっていたけれど、それに関して何か言いたい事はある?」

「う、う、う……リリシアのばかぁああ、もう知らないんだからっぁああ」


 メイが泣き真似をしながらシエラの方に逃げていく。

 その間にもリリシアはすでに野菜を三つほどむいていたのだが、そこで美湖が、


「あの、手伝いましょうか? 皮をむくだけですよね?」

「あら? そう。そうね……お願いしますわ、美湖」


 リリシアが、美湖は大丈夫だと判断したらしい。

 実際にナイフで器用に野菜をむいていく。

 後は俺はゆっくりと待っていれば良いな、でもこれって女の子達の手料理かと幸せを感じていた所で、美湖が俺を見た。

 そして短い時間だが俺をじっと見て、


「良太、手伝ってよ」

「ええ! 俺はゆっくり休みたい」

「仕方がないわね。せめて水だけそこからくんで来て」


 美湖の指さす先には、鍋が置かれている。

 先ほどまで魔法で折り畳まれていた鍋だが、意外に大きい。

 それを取りに行き、傍の小川から水をくんで持ってくると、その中に次々と先ほどの野菜を一口大に切ったものと、欲し肉、香辛料を放り込む。


 胡椒のような何かと、干した葉っぱの様なものと、近くに生えていた草を放り込んでいた。

 何でもあの葉っぱは香りが良く、肉の臭みを消すらしい。

 そして小さな鍋をおく台とその下には赤い石が置かれていて、それに何事かをリリシアが呟くと炎が舞い上がる。


 そのままコトコトと煮はじめて、野菜が柔らかくなってから盛りつければ良い、ついでにパンも軽く炙ろうかといった話が出てきたその時だった。


「……猛獣の声がする」


 猫耳娘のメイが真剣な表情で呟き、何処か遠くを見つめる。

 同時に遠くの方で砂煙と共に、木々に止まっていたであろう鳥達が飛び上がっているのが分かる。

 何かが来る、俺と美湖以外の全員が武器を構え警戒に入るのを見て、美湖は慌てて杖を取り出し、俺は木刀を構えようとして、


「良太は下がっていて、危ないから」

「でも……いや、そうだな、分かった」


 本当ならば少しでも援護になればと思ったが、強い敵が相手では俺はただの足手まといにしかならない。

 せいぜいそこにある鍋の火加減を見ているくらいか?

 それはそれで情けないが俺にはそれしかない。

 そう思ってとりあえずは様子を伺いながら火加減などを見つつ防御の魔法を使う俺。

 そんな俺達の前に現れた敵は、カバをふたまわりも大きくしたような生物だったが、そこでリリシアが呻く。


「“昏き獣”の三王が一匹か」

「その通りだ、魔族の娘よ」


 そう、偉そうにカバのような生物がしゃべったのだった。

 






 ここに来て新しい情報が入った。

 “暗き獣”の三王が一匹。

 しかも言葉を話すらしく、形だけなら、俺にはカバに見えるが。

 カバなんて動物園でしか見た事がないぞと思いつつ、そういえば危険な草食動物だったなと俺が思いだしているとシエラが剣を構えながら、


「なんておぞましい姿。“昏き獣”の三王が一人、カバ。名前すらも、悪夢のような音だ」


 顔を蒼白にしながら告げるその言葉に俺は、ここは突っ込む場面なのかどうかを静かに考えて止めた。

 あの生物は動物園で水浴びでもしていたら、ほのぼのするかもしれないなどといった暁には、俺の頭が疑われる。確実に。


 なので黙って周りを見ると、魔法使いのリリシアやネコ耳娘のメイが真っ青になっており、美湖が微妙な顔をしていた。

 美湖も俺と同じ気持ちだったのだろう。

 けれど声をかける前に、そのカバが話し出した。


「お前達人間や魔族が、この世界に我々を倒すための“聖女”を召喚したらしいと聞いた。そしてその“聖女”の力は強く、そして、更に強い“勇者”を見つけるのだと捕まえて殺した人間から聞いた」


 嗤うそのカバだが、捕まえて殺したと聞いて、俺はぞっとする。

 平和な場所に住んでいたからだろうが、馴染みのないその恐怖に俺は震えてしまう。

 そこで美湖が杖を振るう。


「尊き炎よ、我が眼前の敵を打て! “イマジネーション・フレア”」


 美湖の言葉とともに、杖の先についた宝石周囲に小さない火の粉が舞うかと思えば嵐のように球状の炎が吹き荒れるように大きくなり、それは美湖の背丈と同じくらいの大きさになったかと思うとそのカバに向かって飛んで行く。

 けれどそれを、そのカバは一瞬にして防いでしまう。

 どことなく笑みを作るような表情をしながらカバは、


「ずいぶんと強い魔法を使うようだな、人間。だが、この程度では我々も、ドラゴン様も倒せまいぞ」


 今、ドラゴン様って言ったか? 俺の聞き間違いか? そんな安直な名前……いやいや、もしかしたら俺の知っているドラゴンと、そのドラゴン様は違うのかもしれない。

 そう、きっとそう……だといいな、こいつもカバっていうらしいし、もっと格好いい名前にしろよと俺は思った。


 防御の結界を張りながら。

 その間にも更にそのカバは余裕をみせつけるように、


「ふふん、ドラゴン様は早めによく分からない敵は潰しておけと言っていたが、こんな弱い者共は私一人で十分。本当は様子見だけをしてこいと言われていたが、ここでお前達全員を始末してくれるわ!」


 その声と同時に、シエラが斬りかかり、メイが弓を放つ。

 けれどそのどちらもが、魔力の壁らしき透明なガラスのような壁に阻まれてしまう。

 そんなカバにリリシアが炎の魔法を使うが、それも瞬時に防がれてリリシアが舌打ちをする。

 そんな俺達をカバは楽しそうに見回していたがそこで、


「そういえば“聖女”とやらがここにいるのか。魔力の強いものと聞いてそれを追ってここまで来てみたが、この中で一番魔力が強いのがそこの女か」


 カバがぎょろりと目玉を動かし美湖を見る。

 それに美湖は怯えるも、すぐに杖を握りしめて魔法の準備をする。

 けれどそのカバはすぐになぜか俺を見て、


「そちらのオスの人間からは魔力を感じない。一番弱い存在……そしてお前達に守られているのか。そうだな、まずはお前から殺してやる!」


 俺をターゲットにしやがった。

 しかも他の全員がなにか手を出す前に俺に突進してきて、俺はほんの少し魔力を入れるようにして結界を張ったまま避ける。

 ガキンッと分厚いガラスが壊れるような大きい音がする。


 どうやらかすっただけで俺の結界は壊れてしまうようだ。

 冗談ではない現実。

 まっ先に最弱と思われる俺が襲われるなんてと、焦りながらも再び結界を貼ろうとするが、そのカバの短い前足が俺の眼前に、旋回するように現れて、結界を使っても防げず、避けることが出来ないと気づいた。

 だから無意識の内にそれを受け止めようと木刀を取り出し、構え、


「はあっ!」


 掛け声とともにその木刀で受け止めて、そのカバの前足を薙ぐように木刀を走らせる。

 無我夢中だった。

 死にたくない一心で、木刀を振るった。

 気づいた時にはそのカバの動きは止まっていて、俺の木刀はそのカバを薙いだ後の位置にあった。


 何が起こったのだろう。

 そう思っている内に更にカバは大きく目を開き、


「ば、バカな……この私が……」


 倒された悪役のような台詞を聞きながらそのカバが先ほど薙いだ部分からその巨体がずれて、そのまま黒い塵となって消えてしまう。

 それを見ながら俺は呟いたの。


「助かった……のか?」


 今起こったことが果たして現実なのかと思いながら俺は呟いた所で、涙目になった美湖が俺に抱きついてきたのだった。


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