彼女に告白しようと思っていたら、異世界に召喚された件
おまけ付きお菓子をヒントに、考えてみました
恋という物をした事があるだろうか。
ほら、あれだ。
気付けばあの子の事を何時だって目で追っていたりする、そんな想いだ。
ちなみに俺、木下良太は幼馴染の少女、岩崎美湖が好きである。
家が隣同士で、家族ぐるみで付き合いがある、そんな少女だ。
黒くて長い髪で黙っていれば大和撫子だと言われる彼女は、非常に粗暴……ではなく活発な少女だ。
対して俺は、一応イケメンではあるらしい、黒髪黒目の極普通の一般的日本人だ。
ただ、地味だそうだが。
何でこんなにモテモテにならないんだろうなと俺は美湖に聞いた所、
「普通だからじゃない?」
と一言でバッサリ切られた。
酷いと俺は思ったが、そこで美湖に、
「でも私、良太の顔は好きだよ?」
と言われたので、俺の頭からその前の話は頭からすっぽり抜けてしまう。
そんな俺は、本日、とうとう美湖に告白する事にしたのだ。
もちろん普通な俺は、面と向かって言う勇気はなくて、あるゲーム内でキャラクターを演じながら告白する事にしたのだ。
面と向かって言えと言われたってそんなの、毎日顔を合わせるのにそんなの言えるかと俺は思うのだ。
そんなわけで俺は、VRMMO「金剛石を砕く剣」なる、中二臭いゲームを買ってきた。
はがき一枚程度の薄くて小さい箱だが、この中にゲームをするための番号が入っている。
なんでもネットからのダウンロード版の場合、性別が選べないらしい。
そんな欠陥使用のために俺はわざわざ店頭まで行って買ってきたのである。
やっぱり告白するならイケメンなキャラでした方が成功率が高いかなと思ったのだ。
「美湖の好みは聞いてきたし、待ち合わせ場所、待ち合わせ時間も大丈夫、余裕がある」
後はよっぽどの事がない限り、この予定は崩れない。
今更ながら緊張してきた俺だが、それでもこれは俺の特別な日であると同時に精神力が試されるのである。
だから絶対に成し遂げてみせる! そう俺は、その時思っていました。
なので何処からともなく、『来たれ、この世界を救う者よ……』といったそれっぽいファンタジーな声がしていたのだが、そんなものが聞こえるはずがない、緊張している幻聴だと片付けた。
そしてそこで今日ようやく買ってきたゲーム、正確には箱に手を伸ばす。
その時不思議なことが起こった。
「な、何で突然ゲームの箱が光っているんだ!」
掴んだ箱から白い光が溢れ出る。
その光はどんどん強くなってそして、俺は目も開けていられなくなる。
あまりの眩しさに暫く目をつむっていた俺だが、そこで瞼ごしに光が止んだのを確認する。
なので恐る恐る目を開いていくと、そこには見覚えのない光景が広がっていた。
まず一つ目は、アスファルトがない。
そもそも部屋にいたのだから、アスファルトの床じゃないだろうとすぐに俺は考えなおした。
つぎに目の前に広がる灰色の石を規則正しく並べて積み上げた壁である。
これだけの建築技術は有るらしい。
ただすぐそばには松明で篝火が燃えていて何処の戦国武将だとか、閉鎖空間だったなら酸欠になるんじゃと俺は不安を覚えた。
だがこういった思考をしていたのも俺自身が混乱しているからに過ぎなかった。なぜなら、
「な、何これ。ここどこよ!」
そんな俺がとてもよく知っている声がすぐそばでしたのだった。
その声につられてした方向を見ると、そこに美湖がいた。
驚いてつい大声を発してしまったらしい。
なのでそんな美湖の背後に俺はそっと忍び寄り、
「美湖、なのか?」
ビクッと美湖が震えたが、すぐによく知っている声だと思ったらしく振り向いて、
「……良太、何でこんなところにいるのよ! は、もしやこれは良太の陰謀!?」
「そうだ、全て俺の仕業だったのだ!」
「やっぱりそうだと思っていたわ!」
そこまで会話して俺達は黙った。
冗談を言い合おうとしても、不安からの意味不明な会話になるだけだからだ。
今現在の俺達の状況は、それほどまでに現実離れしている。
そこで足音がした。
こつ、こつと複数人の人間がゆっくりと階段を降りてくる音。
この部屋と唯一繋がっているらしい場所は階段になっているらしく、俺達から見るとのぼり階段、ここにやってくる彼らにとっては下り階段だろう場所をゆっくりと、こちらの不安を増すように降りてくる。
俺はすぐに美湖を自分の背後に隠すようにする。
一応ちょっとした相手なら抵抗できるし、美湖を守りたいという気持ちが俺にはあったから。
そしてやがて足からだんだんとその人物の全貌が見える。
その人物たちは、二人は黒いローブに杖を持ち、宝石っぽいものをジャラジャラ付けた魔法使いのような人物。
そしてその二人の後ろを歩いているのが、白いおひげが自慢のような男性で、貴方には物語に出てくるような王冠をかぶっている。
さながら絵本に出てくるような“王様”のような様相だ。
けれどそんな彼らは俺を見て、
「お前達、彼は誰かね」
「さ、さあ、わかりかねます。この魔法はこの世界を救うものを召喚するとありますので、異世界から“聖女”を召喚する魔法であったはずですが、男性が呼ばれるなど……」
「いや、よく見ろ! あの男の後ろに美しい少女がいる。あれこそが我らが“聖女”様ではないのか?」
そう魔法使い風の男達が美湖を指さして騒ぐ。
ただ今の話からすると、美湖はこの世界に“聖女”として召喚されたらしいが、俺は特に見がないらしい。
つまり、“おまけ”だ。
きっと、美湖には“聖女”と呼ばれるだけの魔法の力みたいな不思議な何かが有るのだろう。
今の状況だと身分は保証されていそうだ。
対する俺は巻き込まれたらしく、いわば“おまけ”のような存在だ。
力も何もなく、後ろ盾すら無い。
そんな危機感を抱いているとそこで、“王様”のような人物が俺達の前にやってきて、
「よくいらっしゃいました、“聖女”様」
俺の存在を無視して、その王様もどきは美湖に話しかける。
それに美湖は少し考えるように黙ってから、
「はじめまして」
「私の名前は、クラディア国、第25代国王メントスと申します。いやはや、伝え聞くように“聖女”様はお美しい」
そう、俺の存在を忘れたかのように褒め称えるこのメントス王という人物だが、そこで美湖が問いかける。
「あの、私達一体どうしてこんな場所に?」
「この世界が危機に瀕したため、勇者様を選びサポートする、強い力を持つ異世界の“聖女”様を召喚したのです。それが貴方なのです!」
そう、この王は告げたのだった。
この世界には一ヶ月ほど前、“地獄の王”と呼ばれる巨大なドラゴンが現れたらしい。
その炎は街を焼き、一度翼を振れば村が吹き飛ぶという。
しかも配下には三匹の巨大な魔法を使う猛獣を従えており、その三匹もまた人の町や村を気まぐれに蹂躙するのだそうだ。
また同時期に現れた“昏き獣”という魔物が人間を襲っていて困っているらしい。
そういった危険な存在がこの世界に現れるたびに、この世界の女神様に与えられた異世界の救世主召喚の魔法を使うようになったという。
「全開この世界に呼ばれた“聖女”様は、金髪に青い瞳のそれはそれは美しい方だと聞いております。いえ、今回の“聖女”様も伝え聞くその御姿をとても良く表しているように思います」
そんな世辞を述べる王様に美湖が、
「それで私は、“聖女”として何をすればいいの? そもそもここから元の世界に戻してもらえるの?」
「それはもちろん、“地獄の王”を倒すことさえ出来たなら、戻れますとも」
「良太も一緒に返してくれる?」
「良太? ああ、そちらの彼ですか。……“聖女”様がそうおっしゃるのであれば、もしも彼が残されてもあらゆる手をつくし、元の世界に戻すお手伝いをすると約束しましょう」
どうやら美湖が頑張ってその敵を倒したなら、何かあっても俺も送り返してもらえるらしい。
ただこの王様が俺を見る目が侮るようなものなのは何なのだろう。
おまけでここに飛ばされたから何の力もないということなのだろうか。
そうだよなと俺は思う。
俺が特別な意味で呼ばれたわけでないのなら、力が備わっているはずがない。
そんなふうに俺が心の中で嘆きつつも、一つ気になった点があるので聞いてみる。
「先ほどこの世界に女神様がいるような話を聞きましたが、女神様に退治してもらう訳にはいかないのですか?」
「女神様は娯楽がないとの事で今は遊びに行って留守なのだ。何でもイベントがどーのこーのと言っていて、本当に困ったものだ。だが勇者を見つけられる“聖女”様がいれば全く問題ない!」
そんな、これで勝てるというかのような王様。
俺としては自分の世界を人任せにしてどうするんだここの女神はと、突っ込みたい気持ちになる。そこで美湖が、
「あの、私は一体何が出来るのでしょうか。私達の世界では魔法が使えないのですが」
「なんと、そうなのですか! ……“聖女”様は、この世界で世界最強の攻撃力を持つ“勇者”を見つけることが出来、その人物の力を更に高めると言われています。また“聖女”様自身主強力な攻撃魔法が使え、傷ついたとしても癒やしたいと望めば傷口が塞がれ、また常人よりも魔力感受性が強く敵の位置がわかると言われています」
「でも攻撃魔法の使い方は知らないのですが」
「大丈夫です。この世界と違う魔法の形態であった時のために“聖女”様専用の魔法の杖が存在しております」
「そうなんだ、それで、私達はこれからどうすればいいの?」
「こちらで“聖女”様の仲間を集めております。また必要な資金もこちらで全て用意しております。後は、“聖女”様が彼女たちと一緒に旅立てば良いだけとなっているのです」
「そうなんだ。だったら一つお願いが有るんだけれど」
そこで美湖がちらりと俺を見た。
俺は何となく美湖の言いたいことが分かるし、そうして欲しいと俺は思う。
案の定、美湖が告げた言葉は、
「良太も一緒に旅立ちたいの」
そう俺についてお願いしたのだった。
それにあのメントス王様は渋々と頷き、俺が一緒に旅するのを許可してくれた。
そして“聖女”様を守ったり手助けするための装備を整えさせるらしい。
そんなこんなで俺達はあの薄暗い部屋で立ち話をしているのもどうかという話になり、客室に案内されていた。
どこかの宮殿さながらの部屋に、座るのも不安を覚えるようなソファなどの調度品。
金色に輝くそれらを見ていると、下手に触って壊してしまわないだろうかと俺は不安に思う。
けれどいい加減疲れたので俺は、その高級そうなソファに腰掛けると、美湖が俺のすぐ隣りに座ってくる。
それにこんな異常事態だというのに俺はドキドキしてしまう。
頭一つ分小さい彼女は、こうやっておとなしくしていると本当に人形のように綺麗に見えた。と、
「でも言葉が通じてよかったよね。ほら、会話ができないのも不安じゃない」
「ああ、異世界に召喚されると、自動的に翻訳能力が身につくんだったか。でもファンタジーぽいゲームをやり込んだり、小説や漫画でこんなような展開を知っているからこの世界の状況がイメージしやくてよかったよ」
これがきっと江戸時代だったら、“地獄の王”というドラゴンやその手下の“昏き獣”が龍や妖怪といったニュアンスになっていたのかもしれない。
そちらだとイメージがちょっと違うような気がする。
そこで美湖が俺を見て、
「ごめんね良太。何だか私のせいで巻き込んじゃったみたいで」
「……美湖が俺に謝っている。天変地異の前触れか」
「もう! ふざけないでよ。私だって良太が巻き込まれてほしくなかったけれど……でも、巻き込まれたのは良太でよかったと思う」
「……どっちなんだよ」
「だってその……信頼できるし」
美湖が何かを言うべきか迷ったように少し間を置いてから俺に言う。
けれど今の話から俺は、美湖も不安で、それでいて俺を信頼してくれているんだなと思う。
不謹慎だけれど好きな女の子に頼られるというのは悪くはない。
よし、ここで俺が頑張らねばと思っているとそこで、
「“聖女”様とそのお付の方、おもてなしの準備が整いましたのでいらしてください」
俺は、美湖のお付だとされているのが判明したのだった。
“聖女”様、歓迎会も兼ねた食事は豪華なものだった。
ちなみにバイキング形式だったので、何処に座ろうか悩むという事はなかった。
ただ美湖が色々な人に囲まれて焦っているのを遠目で見ながら、俺はどうしようかと考える。
「異世界に飛ばされたから突然魔法が使えるようになっていたりしないのかな」
都合よく考えたい俺だが、魔法の使い方も知らない俺には習得は難しそうだ。
なにしろ、“聖女”様でさえも突然、色々な魔法が使えるようになるわけではないらしい。
“聖女”用の魔法の杖がある、その時点でお察しだろう。
イメージするなら、テニスをやっていない人間が突然プロと渡り合って勝利するか互角の戦いを見せつけるレベルだ。
この例えで無茶ぶりが分かるだろう。
それでも何とか俺自身の身を守る意味も兼ねて、どうにかしないとなとは思う。
俺の目の前では、美湖が囲まれて何やら言われており、時折、俺の方を見ている。
その度に俺が手を振ると、美湖は目を輝かせる。
これはひょっとして脈ありなのだろうか。
「期待しても良いってことかな」
「何がですか、お兄さん」
「いや、脈ありかなと」
「ほうほう、それはそれは、告白などしてしまったのですか?」
「いや、しようと思った所でこの世界に召喚されて、うやむやになってしまったんだ」
「うわー、お気の毒さまです。ではこれから延々とすれ違って行くパターンですね」
「そんなパターン、嫌だよ……というか、どちら様で?」
気付けばすぐ隣に一人の少女がいた。
短いピンク色の髪に緑色の瞳の元気そうな少女だ。
背中には折り畳み式の曲がった棒の様なものを持っているが、腰に付けた小さなかごの様なものには矢が見てとれる。
弓を使う冒険者、といった雰囲気がある。
ただその服装も含めて二次元キャラのような様相な彼女だが、更に物語のキャラの様な個性がある。
そう、それは獣の耳だ。
彼女の場合は明るい茶色のふさふさした耳で、良く見ると同色のしっぽまで付いているようだ。
しかも、人間のような耳もある。
つまり耳が四つある。
きっと獣のような耳は動く飾りなのだろうとあの謎の論争を片付けた俺は、彼女の耳を見ながら、
「その耳から察するに、獣人というものでしょうか?」
「わぁ、異世界から来たのによくご存知ですね。私は獣人の猫耳族のメイ・リアと申します。多分、一緒に冒険することになりそうですので、お見知り置きを」
ニコッと微笑む彼女が俺に手を差し伸べてくる。
なので握って握手を交わす。
この世界にも握手という文化があるのかと俺は思いながらも、先ほどからピクピク動き猫耳に耐え切れず俺は、
「あの、一つお願いが有るのですがよろしいでしょうか」
「はい、なんでしょうか?」
「その猫耳を触らせて頂けないでしょうか」
何しろ生の猫耳っ娘の耳である。
現実世界に実在しないのだから振れてみたいと思ってしまうのは当然だと俺は思う。
だがそう告げた俺に猫耳っ娘が顔を赤くして、
「へ、変態!」
「え? いえ、そうなのですか?」
「そうです! 耳のとこって私達、凄い“弱い”んです。そんな場所触られたら、エッチな声が出ちゃいます。だから伴侶や彼氏にしか触らせないんです」
「そ、そうだったのですか。すみません」
「いえ、分かっていただければ……まさか好きな人がいるように見えかけておいてガードを緩くして、さりげにそういった発言をしつつもこちらが引いたらすぐさま謝って終わらしてしまおうという、実は全て計算して女の子を口説く手練……」
「……それが出来るんだったら俺、すでに彼女がいるようなきがするのですが」
「? 君は今なん歳なのかな?」
「16歳です。あと俺の名前は良太と言います」
「おお、そういえば名前聞いていなかったね、良太君か。……ふむふむ、うむ」
そこでメイは俺の顔をまじまじと見てその後体つきを見て、顎に手を当てて、
「剣をふるうのも大変そうだよね」
「う、それは……」
「これから“昏き獣”と戦うことになるだろうから、自分の身は守れる程度がいいだろうけれどね。何か特技って有る?」
「……計算が得意なくらいでしょうか」
「うーん、戦闘は無理そうだね。じゃあお金の管理をしてもらうくらいかな。戦闘関係は、私達や“聖女”様で何とかなりそうだし」
何故かそんな話になっている。
たしかに俺は力を持たない、と思われる。
というか今の話を聞くと、美湖の聖女としての力ってものすごそうだなと俺が思っているとそこで、艶っぽい女性の声が聞こえた。
「あら、メイ。そこの素敵な男の子は誰かしら」
「あー、リリシアさん。駄目ですよ? この人好きな人がいるみたいですから」
「あら、そうなの? それはそれは……美味しそう」
現れた年上のお姉さん風の女性が、小さく笑う。
少しウェーブのかかった長い黒髪に、爛々と輝く赤い瞳。
唇は赤くどこか艶かしく、肌も白い。
しかも胸元が大きく開いているとてもセクシーな黒いドレスを着た年上の女性だ。
その何処か危険な色かをまとったリリシアと呼ばれる彼女が俺に近づいてきて、
「ふーん、貴方、キスもしたことが無かったりする?」
突然俺は彼女にそう問いかけられた。
しかも顎を捕まれ固定されていて、しかもとても綺麗なリリシアの顔がとても近くにある。
それこそ吐息が触れるような距離だ。
そんな俺だが、今の質問に応えるのも癪だし、正直に答えたなら答えたで美味しくいただかれてしまいそうな身の危険を感じた。
ただ何で男である俺が身の危険を感じねばならないんだ、という気はしたが。
そんな固まっている俺を見てリリシアが、
「あら、怯えているの? 可愛いわね? ふふ」
そう告げて更に顔を近づけてきて、俺は悲鳴を上げそうになった。
そこで、また一人の少女が現れた。
白銀の髪に青い瞳をした剣を持つ少女。
無表情で真面目というよりはお固いような硬質な雰囲気が見て取れる。
そんな彼女は何の感情も見せず淡々とリリシアに告げる。
「リリシア、あまり純情そうな少年をからかうな」
「あら、シエラ。彼氏候補にはこまめに粉をかけておかないと」
そうリリシアが笑うと、メイが、
「ダメです! 良太は好きな相手がいるんですよ? しかも好きな相手は“聖女”様ですよ?」
「でも告白して彼氏彼女でない、今はフリーなのでしょう? だったら略奪しても構わないでしょう? ……ねえ、良太。お姉さんといい事をしない?」
そう言ってリリシアが俺の唇を人差し指でなぞる。
俺は身の危険を感じた。
そこでリリシアの手を横から、先ほどのシエラと呼ばれた少女が手を引っ張る。
「そうやって男性を困らすのは良くない。素直に告白してくる男性から選べ」
「あら、恋は危険なほど盛り上がるものよ? 特に他に好きな人がいるというのに私に惹かれてしまう、抗えなくなってしまうのが楽しいもの」
「といいつつ、この前も恋人が本命にいってしまったのだったな。ああ、そういえば逃げられた彼氏にこの少年はそっくりだな」
シエラが呟くとそこで、初めてリリシアの顔から余裕の表情が消えた。
代わりに今にも泣き出しそうになって、
「言わなくたっていいじゃない! 何よ、私のほうが美人んで大人の色気だってあるのに何であんながさつな小娘なんかに! きぃいいい」
「……昨日一晩、ふられた彼氏の愚痴に付き合ってやったのに、まだ気にしているのか」
「だって! 私だけだよっていっていたのに!たまたま変だなって追いかけて行ったら他の女に取られていたし!」
「……その程度の男だったということで、諦めろ」
「うう、ぐすっ。でもこの子好みなんですもの」
「はあ、相手が嫌がらない程度に口説けばいいのでは。ただ、“聖女”様の御機嫌を損ねないようにしてくれ」
「……ありがとう。そしてシエラちゃんは、もっと女の子っぽくするべきだと思うの」
「必要ない。私は剣一つで男と張り合っていくと決めたのだから」
といった話をしているのを俺は聞いた。
どうやら俺はあのリリシアの元カレに似ているらしく、顔も好みらしい。
けれど美湖が不機嫌になるのであれば、俺は口説かれないようだ。
それに安堵を覚える俺。
だって俺の本命は美湖なのだから、と思っていると、そこでメイが、
「良太さん、折角ですのでなにか食べませんか? 美味しいですよ?」
「そうさせてもらうよ」
そうすればこんなふうに口説かれないし、食べ物も見かけは俺のみ知っているものに似ている。
また大勢の人がある程度撮り終わったらしく空いている。
さて、そろそろ何か食べようかなと俺は、メイも含めた彼女達と一緒に食べ物をもらいにいったのだった。