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銀の光につつまれて  作者: 新田 葉月
二章 新月の儀式
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第三十三話 緑髪の令嬢

「見ないで……」

 悲痛な声がティーリアの心に刺さる。


 カロリナはきっと慰めも同情もきっと欲しくない。カロリナがやたらと髪に装飾品をつけている理由が分かった。恐らくカツラをつけている不自然な髪を誤魔化すためだろう。

 この大陸では女性は髪をとても大切にする。だからカロリナの短い髪は望んでなったものではない。

(そういえば……キシが言っていたわ)

 最近貴族の女性ばかりを狙った連続髪切り事件が起こっていると。カロリナはその被害者なのだ。言葉が出ない代わりに風で少し飛ばされたカツラを拾い上げ砂埃を落とす。


「失礼します」

 そして座り込んでいるカロリナの髪に丁寧に付けてやる。放心気味のカロリナはティーリアにされるがままだ。手櫛で整えようとするがカツラの質が悪いのかあまり馴染まず不自然になる。

(誰かが来る前に、急がなきゃ……)

 髪が短いなど知られてしまったらカロリナは侮られてしまう。だからティーリアは必死で手を動かす。


「どう、して……」

 不意にほろほろとカロリナの瞳から涙が滴り落ちた。

「なんで、こんな……。あなたは、何も、思わないんですの……? こんなになった髪をみて」

 ティーリアは髪を梳いていた手を止めて柔らかく微笑んだ。

「思いますよ? カロリナ様の美しい髪を切った人が許せないなって」

「……っ!」

 ポケットからハンカチを取り出してカロリナの涙を拭う。次々に溢れる涙にティーリアの胸も痛んだ。

(ずっと、抱え込んでいたの……?)

 ティーリアにも髪を短くした時期があった。それは自分で望んでした事だったし、あの頃は髪に気遣う余裕だともなかったから辛くなかった。

 しかし、カロリナは違う。着飾るのが好きなカロリナだ。どれくらい辛かったのだろうか。


「貴方は……、いったい、どういう人なんですの……?」


 涙に濡れた声でそっとカロリナが問う。

 その問いの意味を僅かに考えた。

(カロリナ様は、わたしの噂にわたしの印象を重ねて嫌がらせをしていたのかしら?)

 そう考えるとカロリナが今、優しいことに納得がいく。だが、別の疑問も残る。

(カロリナ様が嫌がらせをする他の令嬢たちにはそんな噂のない人も多い。それは何故?)


「貴方は、っ!?」

 何かを言いかけたカロリナが真っ青になって口を噤んだ。話し声が聞こえる。

 カロリナの髪はまだ整っていない。どこの令嬢かまでは流石に分からないが、このままでは不味い。


「やだっ! 来ないで……!」

 カロリナの焦った声。迷ったのは一瞬だった。


「大丈夫ですよ。カロリナ様、わたしに任せて下さい」

 言うと同時に心の中で呼び掛ける。


(ミヤナ)

『お呼びでしょうか、姫様』


 現れたミヤナはカロリナを見て眉を潜めた。精霊と会話するだけなら声を出さなくて構わないが、精霊術を使うには声を出さなくてはいけない。

 だから多分、カロリナにティーリアが精霊遣いだとバレてしまうだろう。

 だが、それでもいい。

 俯いて震えるカロリナを守りたいと思った。

 ティーリアは瞳を煌めかせて、神聖なる精霊語を舌に乗せる。

『風を操りし精霊ミヤナよ。我が願いに応じ、力を解放せよ。その力を使い、帽子を我が手に』

『……畏まりました』

 ごめんね、と心の中で謝るがミヤナからの返事はない。怒っているのだろう。ふわっと吹いた風が木に引っかかったカロリナの帽子をティーリアの手まで運んできた。

「えっ……?!」

 明らかに不自然な風にカロリナが目を見開いた。

 ティーリアはふっと微笑む。


「言ったでしょう? わたし意外と役にたつんですよ」

 驚きの声をあげるカロリナにそう言って片目を閉じてみせた。帽子から手を離したすぐ後にカロリナの横を令嬢たちが一礼し通りさった。

 ほっと安堵の息を吐く。


「貴方……今何を、」

「カロリナ様っ!」


 通り過ぎたのを見計らって、カロリナが何かを言い掛けるが、そこに丁度カロリナ付きの侍女がを呼びにきた。


「カロリナ様っ、こんな女と……! 大丈夫ですか!? 早く帰りましょう!」

「ちょっ、ちょっと待って」

 ティーリアをみて侍女は顔をしかめ、カロリナを連れ帰ろうとした。


「カロリナ様?」


 もどかしげなカロリナに、有無を言わせない「ティーリア・ ファンレーチェ(・・・・・・・)」としての冷たい笑みを浮かべる。


「安心なさってくださいまし。カロリナ様が忘れてくださる限り、わたしもカロリナ様の事を口外いたしませんから」

 うっすらと笑ったままわざと脅すような言葉を口にする。


「秘密が漏れたときどちらの被害が大きいか、よく、考えてくださいね」

「ッ! 貴方カロリナ様になんて口の聞き方を!」

 ティーリアを睨みつけてきた侍女にも同様の笑みを向け、身を翻した。


「ティーリア・ダウス!」


 ティーリアの背にカロリナが言葉をかけた。振り返るとぴしりとティーリアを指差す。


「お、おおお覚えてなさいませっ!」


 動揺しているからかまるで喧嘩を売っているような台詞だ。

(カロリナ様はやっぱり良い人だわ)

 ティーリアはバレないよう、小さく笑って部屋へと戻った。

「おおお覚えてなさいませっ!」

翻訳「凄く感謝しているので、後でお礼をしますね。助けていただいたことわたしは忘れませんからね!」


一応ここで、イレーネ視点と憂鬱なお茶会で軽く張っていた伏線回収です。


精霊術は、ポット程度の水の出現、水を煮え立たせるくらいではわざわざ長い詠唱をしなくても良いのですが、風を操るなどの複雑な魔術では必要です

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