十七本目
街に入るや否や、三人は人の目を引いた。
いや、ほんとのところはたった一人。
籠を背負った森の番人である六朗太ではなく、庄屋の家で商人とお京にあちこちいじられて小粋に着物を着こなして男前を上げた六朗太、その人だ。
なにせ薄汚れた着物を着ていたときでさえ、年若い女子が一目六朗太を見ようもんなら頬を真っ赤に染め上げて俯かせたほどの美丈夫だ。
それが仕立ての良いのりのぱりっと張った着物を着流して、颯爽と歩いているんだ。
目を引かないわけがない。
街のあちこちから好奇の目を向けられて、恥ずかしがっているのは六朗太ではなくお京唯一人。
六朗太は無関心で、商人は思惑通りにほくほく顔だ。
そして家を探すとうそぶいて六朗太を見せびらかすように街を練り歩き、最後に自分の店に引き入れたからにはさあ大変だ。
美貌に魅かれて商人の小間物屋には人の波が押し寄せた。
もちろん目当ては六朗太だ。
すっとした面立ち、ピンとした背筋、ふるまいはまるで舞を舞っているかのごとく優美。
多少顔が引きつっているように見えるのは御愛嬌だ。
一目六朗太を見ようと、店の中どころか外にまで人は溢れかえっていた。
盆と正月がいっぺんに来たような賑わいに、商人は顔がにやけて止まらない。
店に来るなり奥に引っ込んだ六朗太とお京を無理やり店に引っ張り出して、しぶる二人に前掛けを渡して無理やり手伝いをさせ、途切れぬ客に始終愛想を振りまいていた。
やっとこ人が引いたのは、お天道様が山の向こうに隠れてからだ。
働いたことなどないお京は立ち仕事で足が腫れあがったと文句ばかり言っていたが、六朗太と言えば理不尽に働かされながらもしばらくぶりの忙しさに心地よい疲れを感じていた。
翌朝早くに六朗太は、森に入るのに必要な籠や麻ひも、くわなどを商人から分けてもらった。
この代金はいつか必ず返すつもりだ。
そして何度も何度も引き留める商人に、昨日の二の舞になるのではここに入る意味がないと言いきって別れを告げると、なんでかいつまでもぐずぐずしているお京を急かして街を後にした。
森の入口までくると、六朗太は野に咲く花に目をやった。
お京は街で手向けの花を買いましょうと言っていたが、六朗太にはもとよりそんなつもりは微塵もなかった。
人には相応しいものがある。
おじいには、街で売っているような妙に畏まった花よりも、慣れ親しんだ森の、主張はしないがそこにあることが当たり前のような花が相応しい。
昨日は自分の情けなさに打ちのめされて、お京や商人のいいなりになって街まで行かされはしたが、そのおかげで森に入るに必要な道具を分けてもらえたからよしとした。
地を這うように生える草に小さな小さな花が咲く。
その花を求めて森に入ると、後ろからはお京が六朗太に遅れまいと必死でついてきていた。
そんなお京を一瞥すると、六朗太はどんどん森に入っていく。
樹の籠る匂いがなつかしい。
耳に届くざわめきがなつかしい。
六朗太は随分森と離れていたことに今さらながらに気が付いた。




