十三本目
「うちにくればいいじゃないですか」
お京は嬉しそうにあたりを見回した。
つぶれた小屋。
根元あたりからぽっきりと折れた樹。
まっすぐ昇って空に溶けていく煙。
どれをとっても、もう六朗太をここに縛り付けるものはなかった。
「うちにきて、しばらくゆっくりとしてればいいんです。それから次のことを考えましょう」
お京は自分を全く見てくれずに空に消えていったおじいの煙を見続けている六朗太に、そう言った。
ぼうとしている六朗太など、お京は初めてみた。
袖を引っ張っても、手を握っても、六朗太は嫌がらない。
これ幸いに、六朗太を引っ張って、村の真ん中にある自分の家に連れ帰ることにした。
「これは、六朗太。一体どうしたんだ」
土間でぼうと立ちすくむ六朗太を、庄屋は驚き尋ねた。
見るからに憔悴しきっているようだ。
その上、何を言っても返事が返ってこない。
こんなことは初めてだ。
もしかして、御爺になにかあったのか。
けれども六朗太は何一つ語らず、娘のお京は喜ぶばかり。
「お父さま。六朗太さんはしばらくここにいても?」
顔を赤らめてそう告げる娘に、庄屋は顔を顰めた。
「どうしてだ。六朗太には森の番小屋が家だろう。それに御爺はどうした。最近すっかり歳をとってしまって心許ないと聞いてるぞ」
「おじい……おじいは死んだ」
ぼそりと六朗太は呟いた。
そうか、それはそうだろう。
たった一人の身寄りが死ねば、そりゃあ誰だって放心する。
「嵐のせいか」
「うらもりの樹が折れた。折れるわけがないのに、折れた。小屋ごと下敷きになって、おじいは死んだ」
「そうか。小屋ものうなったか。それでは新しい小屋を作るまで、ここで寝泊まりするがよい」
庄屋は六朗太が気の毒になって、家に迎えることにした。
もちろんお京は手放しで喜んだ。




