生姜焼きはお母さんと涙の味
私はお腹が空いて、朝早く目が覚めてしまった。
昨日から食べられたのは、えらく硬いパンをミルクに入れて温めたものだけだった。
他のものは見た目が悪いだけならと食べてみたが、異様に生臭くて食べられなかった。卵に至っては色と形でギブアップした。
「どうしよう、、今までこれを食べていたのに、何で前世を思い出した瞬間に食べられなくなるのよ」
思い出すのは昨日のカイルード団長のお弁当。あれは絶対に。。
今日は昨日終わらなかった予算会議の続きがある。会議の後、カイルード団長に作り方を聞こう。料理ができないとか言っている場合ではない。このままだと食べるものがなくなる。
私はパン屋さんの開店を待って、とりあえず食べられそうなパンを買う。
虹色のパンとかが人気だったが、私は平べったいナンの様なパンを買った。
まあ硬いが、これならクラッカーと思えば食べられる。
隣の青果店には色々なフルーツが売っている。こちらも随分カラフルだが、りんごに似た果物があったので買ってみた。
これだって今まで食べていたはずなのに、味が思い出せない。
「ルルーナ嬢?早くから買い物か?」
振り向くとそこには熊さんではなく、カイルード団長が野菜とフルーツがいっぱい入ったカゴを持って立っていた。
「おや、顔色が悪いな、まだ体調が良くなってないのか?昨日もランチを食べられないほどだったろう?」
私はその言葉で、カイルード団長の昨日のお弁当を思い出して。
「カイルード団長。。。私。。お腹が空いてるんです」と大泣きしてしまった。
「うわ!!!ルルーナ嬢大丈夫か??」
「私。。私。。。カイルード団長の昨日のお弁当がどうしても食べたくて、作り方を教えてください」
「え?俺の弁当?と。。とりあえずちょっとこっちにおいで」
自分の買い物と一緒に私のフルーツも一緒に買ってくれて、外のベンチに座らせてくれる。
「ちょっと座って落ち着こうか。飲み物を買ってこようか?」とカイルード団長は優しく聞いてくれる。
「取り乱して申し訳ございません。昨日から殆どご飯が食べられなくなって。お腹が空いているのに、何をみても食べたくないんです。でも昨日の団長のお弁当の事をずっと思い出してしまって」
「ルルーナ嬢、君は俺の弁当を見て美味しそうって言ったね、あれは社交辞令じゃなくて本心だったのか」
「そうです、母が作ってくれたご飯にそっくりで、匂いも同じで。。。。」
「。。。そうか、では今までは何を食べていたんだ?」
「それが。。」
まさか前世の記憶がとかはいえない。
「昨日までは何も気にせずに食堂のご飯も屋台飯も食べれたんです。でも団長のお弁当を見てから、色々母のご飯を思い出してしまって、それから食べられなくなってしまって、意味わからないですよね、うまく説明出来なくてすみません」と私は俯いた。
すると、カイルード団長は私の頭をポンポンと軽く叩いて
「その気持ちよくわかるから、大丈夫だよ、まだ出勤まで時間があるから、ちょっとうちにおいで」
え?と思って顔を上げると。
「朝ごはん一緒に食べよう。買い物に出る前に仕込んで置いたんだ」
え?団長の家にいいの?
「ご家族や奥様に申し訳ないです。すみません、私は大丈夫です」
「俺は独身だよ。ただルームメイトがいるが、口煩いがいい奴だから大丈夫だよ」
私はお腹が空きすぎて、もうどうでもいいやと団長のお家に行くことにした。
私の家からさほど離れていない場所に団長の家はあった。実際は団長の家ではなく、ルームメイトさんの家らしいが、急な転勤で家の手配が間に合わず、宿舎だとキッチンがないので、一緒に住んでいるそうだ。
「ただいまー、ジョナサン。朝食にルルーナ嬢を招待した」と言いながら、カイルード団長が家に入ると、男の人がひょこっとキッチンから顔を出した。
「え?ルルーナって。。うちの会計課の?」
「ジョナサン様??がルームメイトなんですか?」
ジョナサン様は会計課と財務課をまとめる事務官長だ。私の計算力を見て、採用を決めてくれた人でもある。昨日の会議には急な用事で出席してなかったが、今日の会議に出るはずだ。
「ルルーナ嬢は昨日俺の弁当を見て、美味しそうだから、食べたいそうだ」
「あれを見てか?いつもは他の同僚と食堂で食べていたよな」
そうだ、ジョナサン様もお弁当派だったはずだ。事務官長室で食べているらしく、何を食べているのか見たことないけど。
「そうか。。。ルルちゃん、顔色が悪いな。もしかして、急に飯が食べれなくなったか?こちらに座りなさい」
「ルルちゃんだと?」とカイルード団長のムッとした声が聞こえる。
「彼女のこと、ルルーナ嬢って呼んでいるのは、お前ぐらいじゃないか?みんなルルちゃんって呼んでいるぞ」
「そうなのか?じゃあ俺もそう呼ぶことにする」と今度はなんだか嬉しそうだ。
私はキッチンのテーブルに案内された。
カイルード団長が卵っぽいスープとミニトマト、トーストを目の前に置いてくれる。
あの硬くて歯が砕けそうなパンではなく、ちゃんとトーストのパンだ、バターも塗ってある。
何よりこの食事、色がちゃんと普通だ。極彩色でもないし、生臭くもない。
私が小さな声でいただきますというと、カイルード団長がくすりと笑った。
でも私はそれどころじゃない。
トーストはサクサクだし、スープは心から温まる。
付け合わせのミニトマトがなぜかいちごの味がした。
そして、残り物で悪いんだけどって言いながら、カイルード団長が出してくれたのは。
昨日のお弁当に入っていた、生姜焼きらしきもの。
「生姜焼きだああ。。。。。」と私がつぶやくと。2人はにっこり笑って、冷めないうちに早く食べなさいと言ってくれた。
スープもトーストも全て美味しかったが、生姜焼きを食べた瞬間。お母さんの味とそっくりで、涙がまた出た。
カイルード団長はそっとハンカチを渡してくれる。
「わかるよ、この世界の食べ物は異様な色だし、生臭くて食べられなかったろう。辛かったな」
私は涙を拭きながら聞いていたが
「この世界っていいました?」
「ああ、ジョナサンも俺も異世界からの転生者だ、ルルちゃんもそうなんだろう?そして。。あのバスに乗っていなかったか?」
「え。。何で?」
「俺とジョナサンが転生した理由はあのバスに一緒に乗っていたからなんだ。こっちでそれに気づいたのは偶然なんだけど。だから。。君も転生したのかもしれないって探していたんだよ」
「もしかして。。。」
「ああ、俺は海斗でジョナサンが潤だ、久しぶりだね、瑠璃ちゃん」
食べ物とか匂いって記憶を呼び覚ますっていいますものね。自分で書いてて、今生姜焼きが食べたいです。




