ハンバーグ定食は家族の味
気がついたら、ダイニングテーブルには俺たちだけしかいなかった。
俺はサリナの手をとって、彼女の叔父と父親がいる香辛料屋に戻った。
2人は手を繋いでる俺達をみて固まっていたが、俺が結婚の許しを得る挨拶をすると真剣な顔になった。
「君は娘に今日初めてあったんだよな?それなのに娘を一生の伴侶とするのか?」
まあ当然の質問だよな。
「私はサリナさんに会った瞬間に恋に落ちました、そして彼女の料理でもう彼女とは離れられない事に気がつきました。出会ったのは確かについさっきですが、彼女を見ているともう長い間知っているような気がするんです。どうか娘さんと結婚させてください」と頭を下げる。
「お前はそれでいいのか?」とサリナのお父さんがサリナに聞く。
「私も全く同じ気持ちなの。なんだか昔から知っているようなそんな感じがするの。お父さんお願いします」とサリナも頭を下げる。
「兄貴、ジョナサン様は騎士団の事務官長で、将来有望な方だぞ。女性関係で浮いた噂も一切なかった。結婚する時に食の好みは合うってかなり大切だぞ」と店主さんは言ってくれた。
「わかった。。。。サリナはそれで苦労していたものな。元々ここでサリナが結婚してくれたらいいとは思ったが、まさかここに引っ越して来た当日とは。ちょっと早すぎるが、結婚を認めよう」
それを聞いた俺達はつい抱きしめあってしまった。
「そういうのは。。俺の見えないところでしてくれ」と咳払いをされた。
「俺は来月には帰らなきゃいけないんだ、お前たちはそれまでに結婚するのか?」
「お父さん、私にいい考えがあります」と俺はカイルードとの合同結婚式の話をした。
「カイルード団長と一緒の結婚式とは光栄だな。彼には国境の街でお世話になったんだ。その後すぐに団長は王都に戻る事になったが、サリナは熊団長とか呼んで懐いていたな。彼がいてくれるなら安心してサリナをこの国に嫁がせる事ができる」
お父さん達との話の後、俺達は家に戻って合同結婚式の話をした。ルルちゃんは大はしゃぎだ。
「ところで、サリナさんは前世は何をしていたんですか?思い出しました?」と言いながらルルちゃんがお茶とアップルパイを出してくれた。
「このアップルパイ美味しい!!こんな物が食べれるなんて。すぐにも引っ越して来たいです」とサリナは大喜びだ。
なんなら今日でもいいけど、言ったら引かれるかな?
「前世ですね、私。。実は地下アイドルだったんですよ。キャンディトゥーンって言うんですけど知ってます?」
俺は食べていたアップルパイを一口で飲み込んだしまい、危うく窒息するかと思った。咳き込む俺の背中をサリナは撫でてくれた。
「大丈夫ですか?」
「キャンディトゥーンの。。さおりん?」
「え。。なんで。あ、潤さんって、握手会によく来てくれた、料理学校の潤さん?」
お。。俺の推しが目の前に。
「そういえば、潤は地下アイドルオタだったな。こいつのサイリウムを使ったオタ芸すごかったぞ」とカイルードが余計な事を言う。
サリナを見ると、確かに顔形はさおりんだ。
俺は一気に全てが恥ずかしくなって、テーブルに突っ伏した。
「きゃーージュン様大丈夫ですか??」
「ほおっておけ、ジョナサン、今更照れてどうする」
「立ち直るのに1分くれ」俺はまだ顔を上げられない。
サリナはまだ突っ伏してる俺の頭を撫でてくれた。
「地下アイドルだけでは食べていけないので、朝のバイトに行くのにバスに乗ってたら、多分事故にあったんでしょうね、運転手さんが叫んでいたから、その後の記憶はないです」
それを聞いて俺はガバッと顔を上げた。
「さおりんがあのバスに乗ってたのか!俺の推しが!」
「なんかジョナサン様の性格が変わってません?推しが絡むと」とルルちゃんがカイルードに聞いているが。
「いや、これはジョナサンだ。好きなものに異様に執着する」
酷くない?カイルード。
「俺たちもそのバスに乗っていたんだ。この世界に来て、はじめにカイルードにあって。それからルルちゃん、そしてサリナだ」
「あーールルちゃんはあの可愛い子だったの?勿論今も可愛いけど。私もアイドルオタクだから、可愛い女の子大好きなの」
だからルルちゃんを見て可愛いを連発してたんだ。
「よかったなジョナサン、趣味まで一緒じゃないか」
「私はジュンさんの差し入れの、味噌玉がすごく好きだったんです。甘い物が多いから、しょっぱいのが欲しくって。どこでも持っていけるし」
「アイドルに味噌玉って。。。」ルルちゃんがドン引きしてる。
「俺。この世界で味噌作ったから、サリナの為に毎日味噌汁作るよ。もう今日からでもいい、一緒に住もう」
それから俺達は合同結婚式について話した。サリナとカイルードはルルちゃんにどうしてもウエディングドレスを着せたいみたいだ。
サリナはイスマイル国の伝統の結婚衣装を着てくれると。
カイルードは騎士の礼服で、俺はこの国の礼服だな。
そうして1ヶ月後、俺達は王都の小さな教会で結婚式を挙げた。
カイルードの誓いのキスが長すぎて、神父さんに咳払いされていた。
俺は反対に緊張しすぎて、早くしてくださいと言われた。サリナの唇は柔らかかった。
この1ヶ月、仕事の休みの日は香辛料屋に通い詰めて、サリナのお父さんとも仲良くなった。
そしてカイルードとルルちゃんは新居を見つけた。なんと、うちの隣だ。そういえば隣の爺さん、かなりの歳だったのな。だから引っ越した後も、夕ご飯はいつも一緒に食べている。
結婚式の後、サリナのお父さんはすぐに帰らなくてはいけないので、結婚式の後もいつものメンバーで夕食だ。
ただルルちゃんはドレスを脱ぐ事を禁止されているので、テーブルにちょこんと座っている。
サリナはなぜこの世界にスマホがないのか?写真撮りたいと呟いている。
「ほら出来たぞ、熱いから気をつけろよ」とカイルードが出してくれたのは、海斗の実家の1番人気メニューのハンバーグ定食だった。この世界でこれを作る材料を集めるのは大変だったろう。
ご丁寧に手作りの旗まで立っている。
すごく美味しい。みんなであの洋食店で食事をしているみたいだ。バラバラのタイミングで前世の記憶を思い出して、カイルードのご飯を食べて俺達はこの世界で家族になれたんだな。
なんだか涙が出そうだ。
感動しているのに、カイルードがまたやってる。
「ルルはドレスを汚しちゃうといけないから、俺が食べさせてやる」
「え?嫌です。恥ずかしい。着替えちゃダメなんですか?」
「ダメだ、俺はドレスのルルを抱えて家に戻りたいんだ」
「うわーーベタですね」
2人がイチャイチャしているのを見てから、俺は美味しそうにハンバーグ定食を食べているサリナに尋ねた。
「俺もそうした方が良かった?」
「私はそういう夢はないですが、ひとつだけやって貰いたい事が」
サリナはこそっと俺の耳元で
「アイドルとファンのシチュエーションやってみたかったので、キャンディトゥーンのお好きな歌を歌いますから、オタ芸やってもらえます?」
「やる、絶対やる、サイリウムないから、さおりんのカラーの緑は。。きゅうりしかないけど。ロウソクは危ないしな」
「サイリウムはなくてもいいです。で。。その後は。。恋愛禁止のアイドルに迫るファンって感じでお願いします」
俺はすくっと立った。
「カイルード、もう食べ終わったか?ケーキは明日にしよう」
カイルードももう限界だったみたいで。
「ああ、俺たちはもう家に帰ろう」
「え?ケーキあるんですか?食べたいーーー」と言ってたが、ルルちゃんはあっという間にカイルードに連れて行かれた。
俺はサリナの手を取って、2階に連れて行く。部屋に入ると。
「ではジュン様の為のソロライブしますか?」と笑うサリナを俺は引き寄せて、抱きしめながら、キスをした。
「ファンの方は握手以外はアイドルに触っちゃいけないんですよ」
「うーーん、ちょっと余裕なくなって来た。ソロライブは次回ね。。」
「えーー折角代表曲をこっそり練習してたのに」
「あれはこっそりじゃなかったよ。家に入る前から道まで聞こえてたよ」
「えーー、言ってくれれば良かったのに」
「俺が帰ると、何にもしてませんって澄ました顔をしているのが可愛くて言えなかった」
「ソロライブは次回で。。今はアイドルに迫るファンだから」と言いながら、俺はサリナをベットに押し倒した。
次の日の朝、まだ寝ているサリナを起こさないように静かに下の階に来た。昨日は後片付けすらしなかったからな。
するとドアをノックする音はした。
え?カイルード達はもう起きたのか?
ドアを開けると近所にいる屋台のおじさんがスイカを持って立ってた。
「結婚したんだって?おめでとう。これジョナサン様もカイルード団長も好きだろう?今朝収穫したから美味しいよ」
「ありがとうございます。俺の嫁は食べた事ないので、喜ぶと思います」
「あーーあのアイドル曲歌ってる子?好きそうだよね」
「え。。。今アイドル曲って言いました?」
「君たちも転生者なんだろう?そしてあのバスに乗っていた。ごめんな、俺があのトラックを避けれなくて」
「運転手さん??いつから記憶が」
「10年以上前だよ。カイルード団長が馬車で轢かれそうになった俺の母さんを助けてくれて、このスイカの中身の麺を持って行ったら、彼が焼きそばだって言ってな。そこで思い出したんだよ」
「最後に男の子が瑠璃って叫んだ声が聞こえてね。この母を助けてくれた男の子はあの声の子だったんだって」
「カイルード団長の家にも行ったが返事がなくてね。彼の分も置いて行っていいかい?」
「ええ、ありがとうございます。今度、俺たちのご飯を食べに来てくださいね」
「ああ、楽しみにしているよ」
これで全員揃ったな。カイルード達早く来ないかな?
みんなの驚く顔を想像するとついニヤニヤしてしまう。ちょうど起きて来たサリナにご機嫌ねって頬にキスをされる。
また玄関のドアがノックされる。今度はカイルードとルルちゃんだ。
「おかえり、今日はすごい話があるんだ」
俺はこの世界で食事を通じて家族を見つけた。
「じゃあ、昨日のケーキを食べようか?生クリームたっぷりのミニトマト風苺のショートケーキだ!」
「「「「賛成!!」」」
このみんなの笑顔を見る為に今日も俺とカイルードは前世のご飯を作るんだ。
20話ぐらいの話になるかなと思ったのですが、カイルードの告白が早くなってしまったのでこうなりました。
ジョナサンは結婚決めるのが早すぎでしょ。




