この国のご飯は見た目が悪い
私はお腹が空いている。
家には食材はない。ここ最近の仕事が忙しくて買い物に行く時間がなかった。
家に帰るまでには食堂が沢山あるので、そこで買っていけばいいだけなのだが、今日はそうしたくない。
「ルルちゃん、今日は寄って行かないのかい?」いつもの食堂のおじさんが声をかけてくれる。
「ええ、今日は家で食べようかと」
「珍しいね、またきてね」
そう、私は仕事が忙しいのを理由にほぼ毎日のようにこの食堂に通っていた。まあ料理も苦手だし、一人暮らしなので作ってくれる様な人もいない。
一人暮らしをするときに散々にお母さんに言われたな、料理ができないと将来困るって。
でも仕事場には職員用の食堂があるし、家も周りに食べるところが沢山あるっていうので決めた場所だ。
でももう。。今日から多分もうそれは食べられない。
家にあるのは水と牛乳ぐらいだ。液体しかない。お昼も食べていないので、もう体が限界かもしれない。
せめてパン屋が開いてればと思ったが、パン屋は朝早く開く代わりに閉まるのは早い。
しょうがない。。もうアレを食べるしかない。家のある通りには屋台が出ている。
「ルルちゃんおかえり、いつものでいいかい?」屋台のおじさんはニコニコしながら、容器にスープとお肉を入れ、パンをつけてくれる。
「あ。。ありがとう」
「おや?元気ないのかい?お腹が空いているのかな?卵もオマケするね」
いつもの私なら大喜びだろうが、今日はちょっと違う。それでも屋台のおじさんにお礼を言って、家に帰って来た。
机の上に買ってきた食べ物を置く。
着替えて、手を洗って恐る恐る容器を開ける。いや。。さっき中身を見たし、週に1回は食べているのでどんな物か知っているじゃない。
目の前の料理はある意味華やかである。
絵の具の様なピンクのスープに浮かぶ謎肉。お肉も緑のストライプが入っている。
パンは見た目は普通だが岩のように硬い。
おまけで入れてくれた卵は目が覚める様な青で、これは決してニワトリの卵ではない。どちらかというと。。。細長い形状からして。。爬虫類系だ。
どれもこれも私は大好きだった。。昨日までは。料理もしないので元々何が原材料かもわからない。
しかし今日はパン以外は食べる勇気が出ない。
「こんな事になるなら、前世の事なんて思い出さなければ良かった!!!!」
そう、私は自分が転生者なんて今日まで知らなかった。厳密に言えば今日のお昼まで知らなかった
私は高校を卒業する直前の18歳だった。受験も無事に終わり、学校に報告に行ったが登校日ではなかったので、担任の先生に挨拶をしたが。友達は来てなかったのですぐ帰る事にした。
中途半端な時間で、帰りのバスも3人のお客さんが乗っているだけだった。男性2人と女性が1人。
「「あ!」」
その中の1人は友達のメグのお兄さんの海斗さんだった。メグの家は洋食屋さんで、海斗さんは将来お店を継ぐために料理学校に通っている。会うのは本当に久しぶりだ。海斗さんの隣にはお友達らしき人がいる。
「こんにちは、瑠璃ちゃん。彼は料理学校の同級生なんだ」
「初めまして、潤です」
「初めまして、瑠璃です。お2人とも変な時間にバス乗ってるんですね?」
「今日は朝から市場で食材を仕入れる実習があったんだ。朝3時起きで今すごく眠い。そうだ、大学受かったんだよね、おめでとう」と海斗さんが言ってくれる。メグから聞いたのかな?
「そうなんですよ、海斗さん達の料理学校の近くの大学なんですよ、美味しいお弁当のお店教えてくださいね」
そんな話をしていたら、バスの運転手さんが叫んだ。その瞬間、誰かに抱きかかえられた。そしてその後の記憶はない。
そんな事を思い出したのは、まさに今日のランチの時間だった。
今の私はもうすぐ20歳になる。そして2年前から騎士団の会計課で事務官をしている。
子供の時から計算が得意だったので、学校の先生に勧められて、運良く王宮で騎士団の事務官になる事が出来たが、今思うとバリバリの理系で受験をしていた私にとっては、掛け算のという概念すら怪しいこの世界のテストは何の問題もなかった。
メインの仕事は騎士団で使われるものの注文や支払いをする事だけど、年に1回ある騎士団長様達との予算会議にも呼ばれる事がある。
この国には第一騎士団から第三騎士団まであり、第一は主に王宮、第二は王都とその周辺、第三は国境周辺の警備をしている。
なので第一、第二騎士団の団長様達とはよくお会いするのだけど、第三騎士団の団長様は国境沿いの街に在住されていて、この予算会議以外では数ヶ月に一回程度しかこちらに来られないので殆ど面識がなかった。
昨日あった予算会議の初日に第二騎士団団長が退団される事から、第三騎士団団長のカイルード・イグナス様が王都に戻ってきて、第二騎士団の団長になると知らされた。
私がカイルード様に会ったのは昨日で2回目だが、「ルルーナ嬢、お久しぶりです。これからもっとお世話になりますね」と丁寧に挨拶してくれた。茶色の髪に黒目で大柄なカイルード様は熊さんに見える。
いつもは温和な感じだが、いざ剣を取るとまさに獲物を狩る時の熊に変わるらしい。
そしてカイルード様にはもう一つ噂がある。晩餐会に呼ばれても食事には一切手をつけず、自分で作ったものしか食べないと。そしてカイルード様の食べるものは見るからに不気味で、変わった匂いがするらしい。その為、味覚がおかしいので、普通のものが食べられないのではと言われていた。
昨日も私達が騎士団の食堂にランチで行くときに、カイルード様は会議室で持参のお弁当を食べるので残ると言われた。
「カイルード様はここで食事をされるのですか?食堂でお弁当を食べる人もいますよ。ご一緒にどうですか?」と私が聞くと
「いいんだ、私の料理は人と違っていて、他の人を不快にさせてしまうかもしれないから、あまり人目のない所で食べるようにしているんだ」と困った顔で言われた。
「ではせめてお茶だけでもお持ちしますね」と私は隣の部屋に行って、紅茶を入れてきた。
「すまないねルルーナ嬢、ランチの時間が短くなってしまったね。大丈夫かい?」と申し訳なさそうに言われた
「大丈夫です。早食いは得意なんで」と私はカイルード様のお弁当箱をチラッと覗いた。
確かに色が茶色い。。不思議な色だなと思って見ていたら、変わった匂いがしてきた。
これがみんなが言っていたお弁当か、、、
でもこの匂い。いやじゃない、、むしろ。
「美味しそう。。。」と思わず呟いてしまった。
「え?」とカイルード様がびっくりした顔をしている。
その瞬間、頭の中に色々な映像が流れ込んできた。
小学校の時の給食、お母さんの夕ご飯、高校の友達とコンビニで買い食いしたり、友達の洋食店で食べたハンバーグ定食。。
思わず、頭を抱えた私を見て、焦った声が聞こえた。
「ルルーナ嬢、大丈夫か?俺の弁当を見て気分が悪くなったのか?」
「大丈夫です、ちょっと頭が混乱してて」
「体調が悪いなら、早退した方がいいのではないか?」
「カイルード団長にお弁当の匂いがすごく美味しそうで、多分お腹が空いただけだと思います。食堂に行ってきますね」と私は立ち上がる。
「え?これが?ルルーナ嬢?」という声が聞こえたが、私は1人になりたくて足早に会議室を出た。
お昼休みは後30分しかない。手軽につまめる物を買おうと食堂に足を踏み入れて、私は思わず叫びそうになった。
目の前に広がる、人々が食べている物は。。。異様な匂いと色がしてる。
「何で。。こんなの食べられないじゃない」
今回は完結していないので、どこに転がっていくか私もわかりません。
1話ずつ投稿して行こうかと思います。




