2 魔術師
『魔術師と科学者。
対極にあると思われているが、本質的には同じだ
。
魔術とは電気や機械を使わないだけのれっきとした科学だ。
しかし、世の多くの人達は中々これを理解出来ずにいる。
魔術を理解出来ない、なにかで出来ていると思っている。
それ故に、恐れる』
「さて、ここに居るはずだ」
俺とエコーはモーゼスが指示したバーに到着した。
俺達はバーのドアを開き、中に入る。
中には人影がわずか二人。
一人がバーテンダー。
そして、もう一人。
「ヨエル」
重く、低い声が俺の名を呼ぶ。
声を発した人物がこちらにゆっくりと振り向く。
古い、茶色のマント。
それと同色のベレー帽。
マントの中には動きやすさを重視した、あれは軍の配給品だろうが?
上下が長年の利用で黒く汚れた、ポケットがたくさん付いたズボンとシャツ。
その上にベストを身に纏っていた。
身長は俺より少し高い。180cm程度。
短く刈り上げられた白髪とそれと同色の立派に蓄えた髭、そして頬に大きく入った傷。
如何にも軍人を思わせる風貌をした彼こそ、『マグス(魔術師)』モーゼス大佐だ。
「モーゼス大佐。久しぶりだな」
「始めまして!エコーです!!」
俺達も挨拶を交わす。
エコーは相変わらず元気いっぱいだ。
「大きい声だな、お嬢ちゃん」
「うるさくてごめんなさい!」
モーゼスは先の大戦の参加者、いや生き残りというべきか。
齢はもう80を超えるのに生命力に溢れている。
「いや、元気が良いのは良いことだ」
「ありがとうございます!」
「耳が遠くなってくる歳だ、助かるよ」
「アハハ!そんな事ないでしょ!」
熟練の戦士でありながら、人の扱いにも長けている。
それはモーゼスの本質が魔術師だからだ。
この老人といい、マザーといい、魔術の使い手は総じて、一種のチャーム(魅力)を持つ。
それに加えて、彼の場合は魔術の基本、観察の能力が恐ろしく、高い。
彼はそれを用いて相手と接するのだ。
時代が時代なら何処かの国のスパイエージェントにでもなっていたのかもな。
「さぁ、ヨエル。早速だが、仕事の話だ」
「ああ。今回の任務はなんだ、大佐」
「よろしい。では今から任務の詳細とその作戦を説明する」
「あいあいさー!!」
最後にエコーが元気良く返事をする。
俺はモーゼスの口角が一瞬だけ上がったのを見逃さなかった。
軍人としての活動が長い彼の事だ。
あまり過去を語らないが、教官だった時期もあっただろう。
恐らく、古く、懐かしい光景に一瞬、気が緩んだ。
観察力なら俺も多少の心得はあるぞ、モーゼスよ。
「この街で連続行方不明が出ており、警察の捜査が困難を極めている状況だ」
「今ある手掛かりを教えてくれ」
「まず、被害者達は皆、政治に関わりのある者だ」
「政治か」
「そして、被害者が消えるのは新月の日」
「ふむ、犯行は儀式的に行われている、カルト絡みかもしれないな」
「現場になんらかの犯行の後は残されていない」
「誘拐や殺人なら相当な手練れだな」
「以上だ」
大佐は状況報告を手短に済ませる。
これだけではなんの推測も立てられない。
しかし、モーゼスは違う。
何かを掴んでいるから俺を招集したのだ。
「現状の状況と独自の調査により、暗殺教団の犯行と思われる」
「アサシンか」
あの暗殺者集団か。
確かに彼らは政治との繋がりは深い。
一種の宗教団体でもある。
やはり、俺の予想通り、モーゼスは面倒事を運んてきた訳だ。




