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序章

『ねぇ、ヨエル。モーゼスの爺様を覚えてるかしら?』


俺は今はマザーの事務室に居る。

彼女は盲目だと言うのに部屋は相変わらず趣味の良い骨董品と綺麗な花の数々で飾られてる。

何処からか仕入れた古いレコードプレイヤーが今日もノスタルジーを感じさせる音楽を奏でる。

目と耳でそれらを堪能していた俺にマザーが話しかける。


「モーゼスの爺様から貴方に依頼が入っているわ」

「モーゼス?あの神秘探求家か」

「ええ。貴方を指名してきたわ」


俺は短い溜息をつくとマザーは微笑む。

そう、邪険にしちゃ可哀想よとマザーは言う。

邪険にはしていないが、どうもな。


「あの老人が絡むと碌な事にはならない」

「そうね。だから貴方の出番よ」

「俺は便利屋じゃないぞ」

「まぁまぁ。貴方は彼に気に入られてるのよ」


モーゼス。神秘探求家。老いを感じさせない程、活発に日々、探検に勤しんでいる人だ。

尊敬の念はあるし、敬意も払ってはいるが、どうも強引な部分が合わない。

俺は繊細なんだ。


「探求ならアイツがいるだろう?ほら、アルハザード書記官」

「アブちゃんね?あの子は暫く行方不明だわ」

「なに?最後に会った時は蜂蜜の黄金酒亭に調査に行くと聞いたぞ」

「ええ。窓に!窓に!という通信を最後に消息を絶ったわ」


ふむ。アルハザード書記官はいないのか。

どうやら俺がこの件を引き受けるしかないようだ。


「しょうがない。場所はどこだ?何処かの遺跡でも見つかったのか?」

「いいえ。場所はここ。エンカントシティよ」

「ほう?」

「最近この街で連続行方不明が増えているのは知ってるわね?」

「ああ。それはいつもの事だろう」


この街は人、あるいはそうでない者の出入りが激しい。

魅入られて留まる者もいれば、街に拒絶されて排除される者もいる。

この街はまるで生きているかのようだ。


「モーゼスの爺様は裏でなにかが蠢いてると睨んでるわ」

「それもこの街はで日常だろう?」

「もう!面倒くさがらないで頂戴」

「ああ、分かった。やれば良いのだろう」


俺がそう答えるとマザーは再度、微笑む。

ヨエルなら快く引き受けてくれると思ったわと彼女は言う。

まったく、面倒ばかり押し付けてくれる。


「せめて誰が狩人一人、手伝いをお願いしたい」

「ええ。そう言うと思ったわ」

「という事は?」

「もう呼んでいるわ」

「誰を呼んだか聞いてもいいか?」

「エコーよ」


マザーがそう言った瞬間にドアが音を立てて思い切り開かれる。

そこには二十歳前後の女性が立っていた。

その女性は透き通る様な白い肌をしていて、腰まである黒い髪を二つの三つ編みにしていた。

左腕はサイバー手術をしていて彼女特製の武器を秘めた金属の腕になっており、希少な鉱石、ターコイズだろうか?が所々にはめられていた。

動きやすそうな黒いハイネックのシャツに緑のカーゴパンツを履いているがそのどちらも油に汚れていた。

そしてもっとも特筆すべき部分は、


「ヨエル!冒険の始まりだ!!」


このバカげた音量の声だ。

相変わらず元気な事だ。

彼女はこの神秘協会の狩人の一人。

木霊(エコー)

どうやら今回の依頼も賑やかになりそうだ。

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