新しい怒り その先へ
王都、夜。
タクマは宮殿近くの小高い塔の屋上にいた。
風が吹く。月が静かに照らす。
その足元には、街の光と、遠くの神殿の尖塔が見えていた。
そこに、リシェルが階段を登ってくる。
「……ここにいたのね」
「気配、消したつもりだったんだがな」
「甘いわよ。あんたの“怒り”はまだ、熱を残してる」
「……なるほど。わかるようになったか、俺の熱が」
「少しね」
二人は並んで座る。誰もいない屋上に、静けさだけが降りてくる。
「どうするの?」
「ライクスから提案された“中立区域”――受けるよ」
「理由は?」
「“観察されるため”じゃなくて、“見せるため”」
「……誰に?」
「この国に。……そして、俺自身に」
風が強くなる。
月の光が、拳をわずかに照らした。
「怒りを力にするのは、怖い。
けど、その力が“誰かを守れる”なら……」
「信じて、前に出るのね」
「信じて、拳を振るう。
その先で、“あの子”たちを守れればいい」
リシェルは、それを聞いてふっと笑う。
「ずいぶん、主人公みたいなこと言うのね」
「自覚してるよ。だけど……それが、俺の“居場所”なんだと思う」
「“感情のままに生きて、なお理性を失わない”なんて、
そんな芸当、誰にでもできると思わないで」
「わかってる。だからこそ……」
タクマは、拳を胸元で握った。
「だからこそ、俺は“選ぶ”よ。
この力を、“俺のもの”にするって」
その言葉に、リシェルは何も言わなかった。
ただ隣で、背中を預けてきた。
ほんの数秒の“重み”に、言葉はなかった。
けれど、それが“仲間”という確かな絆を残した。
足音がする。
セレナが、白衣の裾を揺らして現れた。
「決まりましたか?」
「……ああ。俺は、ここで戦うよ」
「ならば、私も記しましょう。
“怒りの拳を掲げた男が、国に席を得た”と」
「そんな大げさなもんか?」
「あなたは“記録者の観測対象”ではありません。
今や、“私が灯したいもの”です」
セレナの声は、淡く、けれど確かに震えていた。
それが“感情”であると、誰よりも彼女自身が知っていた。
「記します。タカクラタクマ――
“この国に選ばれなかった者が、自らの拳で立ち上がり、
他者のために歩み始めた”と」
拳を握る。
それは力の証ではなく、“選んだ意志”の証だった。
夜が、夜が、静かに明けていく。
──第一章・完──




