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それぞれの怒り 先駆者

 王都ギルド本部。


 表の顔は冒険者の拠点。

 裏の顔は――王家も神殿も関与しない、“力の中立機関”。


 タクマたちは、その最奥、応接室に案内されていた。


 小さな部屋だった。

 大理石も絨毯もない。代わりに、木の香りと鋭い気配が満ちている。


 その中央で、胡座をかいて待っていた男――


 それが、ギルドマスタージャルガ・クロスベルだった。 


 四十代半ば。褐色の肌。無精髭と無造作な黒髪。

 片目を眼帯で隠し、残る片目には、年輪のような“熱”があった。


「来たか、“怒れる坊主”」


 声は重く、どこか笑っていた。


 タクマが一歩前へ出る。


「……あんたが、ギルドマスターか?」


「“だった”と言った方が正確かもな。

 今は“引っかき回す連中の後始末”係だ」

 ジャルガの目が、タクマの拳をじっと見つめた。


「見せてもらったぜ、例の魔物を殴り飛ばすやつ。……なかなかだった」


「……監視してたのか?」


「王都のギルドが“国境付近で発生した感情魔力波動”に無関心なわけねぇだろ?」


 タクマは黙った。


 ジャルガは立ち上がり、わざとらしく背伸びをした。


「俺も昔、“怒りで戦った”男さ」


「……スキル?」


「いや、“怒りそのもの”だ。俺はスキルに頼らず、“感情で全部壊して”きた」

 ジャルガの声が低くなる。


「仲間も壊した。ギルドの信用も潰した。……俺自身の中のもんもな」

 重い沈黙が落ちる。

 リシェルが動こうとしたが、タクマが手で制した。


「……それでも、あんたは今ここにいる。

 感情で壊した過去を、捨てずに、ギルドの中にいる」


「だからこそ、お前に聞きたいんだよ」

 ジャルガが、タクマの正面に立った。


「お前にとって“怒り”は、“使うもん”か?

 それとも、“背負うもん”か?」


 その問いに、タクマは目を逸らさなかった。


「どっちでもねぇ。……“守るために、抱えるもん”だ」


 しばらくの沈黙。


 ジャルガは鼻で笑った。


「……面白ぇな」


「そうか?」


「十年前の俺だったら、たぶん殴ってた。

 “そんな綺麗事で怒りが飼えるか”ってな」


 セレナが、そっと記す。


“怒りを手放した者と、怒りを育てようとする者――

その間にあるのは、“破壊”ではなく“再定義””


「タクマ」


「……なんだよ」


「お前みたいな奴が、“力を持つ”ってのは……怖ぇぞ?」


「わかってる。俺自身も、怖ぇよ」


「でもな」

 ジャルガが、拳をそっとタクマの胸に当てた。


「“怖ぇまま進める奴”が、最後に世界を変える。……そう信じたいんだ、俺は」

 その拳を、タクマは拳で返す。


 音はしなかった。だが、そこには確かに“火”が通った。


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