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プロローグ

 ――人が壊れる音を、耳で聞いた気がした。


 誰も叫んでいない。誰も怒鳴っていない。

 けれど、確かにそこには「音」があった。

 静かな会議室で、社員のひとりがゆっくりと崩れ落ちた瞬間。

 それは、目の前で人が“限界”を迎えたという現実の音だった。


 男の名前は高倉拓真たかくら・たくま

 会社の代表取締役。三十代にして、十数人の部下を抱える企業の社長だった。


 怒るのは日常だった。

 成果が出ない部下に。考えが足りない企画に。逃げようとする責任者に。


 でも、この日は違った。

 彼は、自分が“怒ってしまったこと”に、初めて震えた。


「……思考、止まるんですよ、社長。

 怒られると……なんも、考えられなくなるんです……」


 それが、その社員の最後の言葉だった。


 視界が滲んでいく。

 天井のLEDが、どこか遠くで明滅している。

 血の気が引いていく感覚とともに、拓真は崩れ落ちた。


 身体が、冷たい。

 でも、胸の奥にだけ、まだ“熱”が残っていた。


 それは、怒りだった。

 他人に向けていたつもりが、本当は――自分自身に、向けられていた。


 

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