第六話 報道記者
スモーク「ファイルにはまだ続きがあるんだ。……」
「倫理的観点と、国内世論や政府内に
日本との融和路線を求める声が
増えて来た事から、本計画は中止する。
以後、このファイルは凍結する と書いてる。
あのお騒がせ国家は
日本国民安楽死計画を中止したんだ。
分かったのはここまでだ。」
美沙「え?中止したの?でも
#日本国民安楽死計画のワードがZに上がってたじゃない」
美沙はスマホを取り出しZのトレンドをチェックした。
美沙「ほら、今日は7位になってるよ」
スモーク「その通りだそこがおかしい。なぜ中止した筈の
日本国民安楽死計画のワードが
日本のZに出てきてるかが謎のままだ。
それにもしかしたら既に実行してるかもしれない。」
美沙「ワードが上がってるって事はやっぱ
実行されてるって事かな……」
スモーク「その可能性は高いな……
分かった事は以上だ。」
美沙「日本国民安楽死計画っていうのはいわゆる、
見えない、気付かない大量破壊兵器みたいな物よね」
スモーク「そうだ。それに地球に優しいぜ。SDGsだよな」
美沙「ならそれを止める事は出来ない?」
スモーク「……この攻撃方法は例えるなら、
心のウイルス兵器みたいなもんだ。
あの地獄のウイルスのパンデミックを覚えてるか?
世界中でヘイトクライムが起きただろ?あれと同じ。
憎しみはウイルスみたいなもんだ。この計画は
女は男に、男は女に対する憎しみのウイルスを
ばらまかせる計画だ。男と女が喧嘩する限り続く。
SNSとかネット上で、誰かが悪口書き込んだら
つられて皆悪口言い出すのとか見た事ないか?
あんな感じでどんどん感染していく。
もう止められないだろうな。」
美沙「……何か止める方法は無いの?」
スモーク「ウイルスに対するワクチンみたいな物があればいいが
俺じゃそんな物用意出来ないな。」
美沙「そのワクチンみたいな物って?」
スモーク「例え話で言っただけで、俺もわからん。」
美沙「……は?……」
スモーク「お前と組んで正解だったよ。
ここまで辿り着けたんだからな。感謝してる。
俺はもう外国に引っ越そうと思うよ。
このままこの国に住んでても、
あいつらのモルモットみたいで気持ち悪いからな。
お前はどうする?このネタでスクープ狙うか?」
美沙「何で……何で“俺は”なの?」
スモーク「ん?……」
美沙「何で“俺達”じゃないの?」
スモーク「……何の話だ?」
美沙「何で一緒に来ないかって言えないのよ!」
スモーク「……逆に何で一緒に来ないかって言うんだよ?」
美沙「もうそうじゃ無いでしょ!何で分からないの!?
だいたいあんたハッカーだか何だか知らないけど、
始めて会った時からずっとそうよ!
ロボットみたいな喋り方ばっかじゃない!
たまには女の話をちゃんと聞こうとは思わないの?」
スモーク「……そうだなわかった。 言いたい事があるんだろ
聞くよ。何が言いたい?」
スモークは椅子に座りなおして美沙を真剣に見つめた。
美沙「え?……それは……そっちが気付いてよ」
感情を出さないスモークも流石にキレて立ちあがった。
(椅子ガシャーン)
スモーク「お前が話聞くように言ったんだろうが!!」
美沙「だから何で私に言わせるのよ!!
女心に気付くのは男の務めでしょ!?」
スモーク「何だ男が悪いってのか!?
それこそ男へのヘイトじゃねーのか!?
報道記者は公平な目を持ってると思ってたけど、
おまえもとっくに、
この日本国民安楽死計画に、
洗脳されてるみたいだな!!!」
美沙「・・・・・・・・・・」
スモーク「・・・・・・・・・・」
沈黙が二人を包んだ。
スモーク「……悪かった……」
美沙「……最初の投稿は?」
スモーク「え?」
美沙「その日本国民安楽死計画よ。
日本で最初に#日本国民安楽死計画のワードを乗せて
投稿した人よ。そいつを探す事は出来る?」
スモーク「それ位なら時間かからないぞ!」
スモークはパソコンでZのセキュリティに侵入し、
その人物の個人情報を調べた。
スモーク「出たぞ!都内在住の男性。
今はZはやめてるみたいだ。
直接話すしかなさそうだな」
スモークがそう言ってスマホを手に取った時、
美沙が突然スモークの手を掴み机に押さえつけた。
美沙「私が電話するわ」
スモークは呆気にとられた表情で言う。
スモーク「?どうしたんだ?急に」
美沙「忘れたの?私は報道記者なのよ。
今まで何度も電話で取材交渉してきたわ。
この人物、日本で最初に
#日本国民安楽死計画を投稿した人物に
私が独占取材するわ!」
二人は見つめあう。
美沙「……」
スモーク「……なあ」
美沙「ん?」
スモーク「いつまで手え握ってるんだ?」
美沙「え?あ!ご、ごめん……」
美沙はゆっくりと手を放した。
つづく