第四話 盗聴
「ひな祭りはチョコレートを皆で食べよー!」
テレビのCMを見ながら
(何か毎月チョコ買わせようとしてるな~)
と、美沙は思っていた。
朝食を取りながら片手間にスマホで
『不愛想な男性 心理』
と検索しながら、スモークに提案された
盗聴の計画を思い出していた。
スモークからの連絡は、
あの日の翌日、盗聴器の使い方の電話が掛かってきて
それっきりだった。
美沙は盗聴器を仕掛けるなんて事は勿論人生で
一度も無かった。不安なので本当はスモークに
私に出来るかなあ的な電話をしたかったが、
女から電話したら負けスイッチが入ってたので電話しなかった。
(もう、一度くらいそっちは大丈夫か的な電話くれてもいいだろうが!)
そう思いながらも美沙はあいつがそんな事する訳ないと思い、
一人で盗聴をやりきるしかないと気持ちを切り替え、出勤した。
編集部の会議が始まった。
美沙は自分の机の裏に盗聴マイクをぺたりと貼り付け、
自分のプレゼンの番を静かに待った。
編集長「内崎、おまえどんなネタ持ってる?」
(来た!)と美沙は構えた。
今回の目的は企画を通す事では無く、盗聴する事。
そして編集長の隠してる事を聞き出す為に、
前回と同じ状況を作る必要があった。
美沙は前回と同じようなネタをプレゼンし始めた。
美沙「え~今回はですね~、過剰なセクハラに苦しむ男性達を
取材しようと思いまーす。飲みハラやコクハラなど、
多すぎるハラスメントのせいで恋愛できない男性を~」
編集長「う~ん過剰なセクハラな~でもな~」
(よし!来た!予想通り!)美沙はそう思うと
即座に子芝居をうった。
美沙「う!何かお腹の調子が……トイレ行ってきまーす」
美沙はトイレへ駆け込み、
盗聴マイクとスマホをリンクしてつなぎ録音しながら
イヤホンで盗聴し始めた。
(うわ~こんなの人生で初めてだよ~ドキドキする)
そう思いながら美沙はイヤホンに全神経を集中させた。
会議室の皆の会話が聞こえてくる。
編集長「内崎最近なんかおかしくない?」
先輩A「そうっすね女性問題ネタよく持って来てたんすどね」
先輩B「あっち系はちょっとあれですもんね~」
編集長「な~男性への差別に目を向けるのは偉いけど、
やっぱシンポジウムがさ~」
先輩A「そうっすねシンポジウムの事があるんでね~」
美沙(??シンポジウムって言ってる?何の事?)
スモークが渡した盗聴マイクは感度が良く、
音はとてもクリアだった。美沙は確かに
シンポジウムという単語を聞いた。
編集長「公平な目も大事だけど俺らも会社員だしな~
やっぱお上には逆らえないもんな~」
先輩B「俺お上に目えつけられてクビになりたく無いっすよ」
編集長「だよな~やっぱ内崎のあのネタは無しって事で」
美沙(おかみって何だろ?社長とか株主とかかな?)
編集長「ところでさ、内崎なんかメイク濃くなかった?」
先輩A「俺も思いました。好きな人とか出来たんじゃ無いっすかね」
先輩B「いやこの後ハロウィンパーティーじゃ無いっすか?」
一同「ガハハハ……」
美沙「……」
編集長達の話題は切り替わり、これ以上情報は得られないと思い
美沙は盗聴を終わらせ、机へ戻った。
そして、明日からは
もう少しナチュラルメイクにしようと思っていた。
その夜、美沙はスモークの部屋に行った。
インターホンを鳴らすと直ぐにスモークが出て来た。
スモーク「上手く行ったか?」
無表情なスモークでも楽しみにしてたのがすぐにわかった。
美沙「任せて。私できる女だから」
スモーク「そいつは良かった。上がってくれ」
美沙はそう言われると、前回の玄関前の押し問答の事を
すっかり忘れて部屋に上がっていた。
スモークはパソコンの机のスピーカーに
ケーブルを挿しながら美沙に話す。
「助かったよお前と組んで正解だった。有難うな」
普段無表情なスモークが少しだけ笑ってるように見えた。
美沙は初めてスモークから面と向かって有難うと言われた。
美沙「……う、うん別にいいよ、
私も何かドキドキしちゃったし。
あ!ドキドキしたってのは盗聴した事に
ドキドキしたって意味だからね!
あんたにドキドキしたって事じゃ無いからね!」
スモーク「そうかわかった。スマホ貸してくれるか?」
スマホのイヤホンジャックにスピーカーのケーブルを挿し、
スモークは美沙が録音した盗聴音声を最初から聞き始めた
スモーク「……」
音声「この後ハロウィンパーティーなんじゃ無いっすか?
ガハハハ……」
美沙「ここからは編集長達の話題が変わったから盗聴止めたわ」
椅子に座りながらスモークは話し始めた。
スモーク「成程。なんか隠語というか隠してる感じはするな」
美沙「シンポジウムって何の事だろう。あとお上っていうのも」
スモーク「お上ってのは社長とか、編集長達より偉い立場の
奴なのは確かだが、絞り込めないな。
指示されたり圧力をかけられてるような会話だな。」
美沙「うん。それと、男性差別をネタにする事と
シンポジウムっていうのが何の関係あるのかわかんないな」
何か分かる?」
スモーク「うーん……シンポジウム?男性差別、女性差別、
ジェンダー…………
!!そうか!あれだ!」
美沙「?何?何か分かった?」
スモーク「……世界経済シンポジウム……」
世界経済シンポジウムとは、
世界規模で経済問題に取組む様々な分野の指導者層の
交流を目的とした非営利団体。
毎年ジェンダーディファレンス指数という
世界各国の男女平等の指数をランキングして発表している。
日本はこの指数で長い間下位に位置している。
美沙「世界経済シンポジウムが関係ある?」
スモーク「ジェンダー問題と関わるシンポジウムっていう
キーワードったらこれしか無いだろう
……どうやら思ったより闇は深いらしいな。
俺は日本国内にばかり目を向けてた。
だがそうじゃなかったみたいだ。
外に気付かないといけなかったって事だな」
美沙「何か、嬉しそうなんだけど……」
スモーク「ああ、久しぶりに忙しくなるぜ。
知ってるか?ハッカーってのはな、
セキュリティが固いほど、困難な課題ほど
挑戦したくなるもんなんだよ」
美沙「ね、ねえ……もしかして、まさか」
スモーク「ああ、多分そのまさかだ」
スモークは顔を上げて美沙を鋭く見つめながら言い放った
スモーク「世界経済シンポジウム本部をハッキングする!」
美沙「……ホントにやるのね」
スモーク「ああ、それとこの盗聴で分かった事がもう一つある」
美沙「え?何?」
スモーク「お前確かにメイク濃くなったよな」
美沙「もう!バカ!」
つづく