第十四話 手と手
コツ コツ 足音は徐々に近づいてくる
美沙はスモークの話を思い出した。
(ドアを4回ノックする。4回だぞ、4回)
(スモークは4回って言ってた
4回ノックすればスモーク!)
美沙は4回ノックされるのを願った。
コツ……足音は美沙が入ってる個室の前で止まった。
(スモークなら4回!4回!お願い!)
美沙は祈った。
(ノック)コンコン 「誰か入ってますか?」
2回だった。美沙は絶望した。
思えばスモークとの合流が失敗した場合は計画してなかった。
美沙はアドリブで切り抜けるしかなかった。
「ちょっと何ですか?ここ女子トイレですよ!
警備員呼びますよ!?」と美沙は強めに言った。
「私が警備員だ」と返事が返ってきた。
(ヤバい!警備員だどうしよう!)と、
美沙は窮地に陥った。
警備員「今、局内で放送妨害が起きてね、
犯人を捜してるんですよ」
美沙「私はただトイレに入ってるだけです。
早く出てって下さいよ!」
警備員「失礼ですが名前は?」
美沙「(ヤバい!)な、何で答えないと
いけないんですか?」
警備員「犯人を捜してるんでね。お名前は?」
美沙「……み、皆川です(皆川ゴメン)」
警備員「では皆川さん、ドアの上から社員証こっちに
投げてくれる?」
美沙「(ヤバい!どうしよ!)今持ってません!」
警備員「何だと?本当か?」
美沙「ホントに持ってないんです(ヤバいヤバい!)」
警備員「お前!犯人じゃ(バチ!!)
ドアの外でバチっと放電音が聞こえ、
直後にドタっと人が倒れるような音が聞こえた。
(ノック)コンコンコンコン
ノックの音が4回聞こえた。
その直後「俺だ」とスモークの声がした。
美沙がドアを開けるとそこには
スタンガンで警備員を無力化したスモークが立っていた。
「スモーク!!」
美沙は思わずスモークに駆け寄り抱き着いた。
美沙「……超怖かったよー」
スモーク「いやまだ終わってないぞ、
さっさとこいつを被れ!」
スモークは美沙に暗視ゴーグルを被せ、
停電の中で視界を確保した二人はテレビ局の外へと
走り出した。
二人は外を目指し走り続けながら、
スモーク「おまえ、マジでやったんだな」
美沙「そうよ、やってやったわ!」
スモーク「大スクープだよ!日本放送史上最大の
スクープだ!」
美沙「言ったでしょ、私できる女だからね!」
二人は更に走り続ける。
「テレビ局ってホントに迷路みたいだな。
トイレに着くまで焦ったぜ」
スモークがそう言った時、美沙は何か閃いたように
「ねえ、手、繋ごうよ」と言って
スモークと手を繋いだ。
「こっちよ」美沙はそう言ってスモークの手を引っ張り
先導する。
「次はこっち」と、美沙はスモークと手を繋ぎながら
先導して走り続ける。
「私、この局内の道全部覚えてるの。私に任せて。
私と手え繋いでおかないと、
スモーク迷子になっちゃうでしょ」
美沙はそう言って、確かに経路の知識を活かし、
巡回する警備員を避けながら外への
最短ルートを選んで走った。
美沙の勇気と局内の経路の知識、
スモークのハッキングスキルと計画、
その全てを二人は味方につけていた。
この日の夜は二人の為の物になっていた。
美沙とスモークはテレビ局の外へと逃げ切った。
二人は暗視ゴーグルを投げ捨て、
美沙はスモークの手を握ったまま走り続ける。
スモーク「おい、もう手え繋がなくていいだろ」
美沙「いいでしょ、もっと走ろ!」
スモークは足を速めて美沙を追い抜いてやった。
スモーク「ほら、置いてくぞ!」
美沙「あ!待ってよー!」
美沙は追いかけ、
二人に自然と笑みがこぼれていた。
美沙「ああ!スモークが笑ってるー!初めて見たー!」
スモーク「わ、笑って無えよ!」
美沙「いや絶対笑ってたよ、すごーい」
スモーク「いや笑ってない
俺人生で一度も笑った事無いわ!」
美沙「嘘つけ―!」
スモーク「どうだ、ツッコまずにはいられないだろ!」
美沙「何だとー! この!この!えい!」
スモーク「おい!何してんだ!やめろ!……」
二人は走りながら
そのまま夜の街へ煙のように消えて行った。
つづく