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第十一話 少子化ブラックボックス

スモーク「よし、局内の経路は覚えた。

     じゃあもう今日はここまでだな」

美沙「うん。そうだね……じゃあもうそろそろ帰るね


   ……ねえ、私に出来るかな?」

スモーク「おまえ次第だ。俺に聞いても意味は無い」

美沙「もう、おまえなら出来るよとか、

   言ってくれないの?」

スモーク「言っても結果は変わらないだろ」

美沙「ほんっと相変わらずね

   ……じゃあもう帰るね」


 美沙は玄関へ歩き出した。

が、玄関前で立ち止まりスモークへ振りむいた。


美沙「……あのね……私ね……」

スモーク「どうした?……」


 スモークは真剣な表情で美沙を見つめた。

美沙「えっと……その……」

スモーク「……」


美沙「……ううん、やっぱり何でもない……」

スモーク「まあいい、計画の事で不安や不明瞭な事があれば

     すぐに相談してくれ。

     些細な事でも構わないからな」

美沙「ああ、うん、ありがと……じゃあね」


・・・・・・・・・・


 美沙はあの日の夜、作戦会議の夜の、

二人の会話の記憶に身を預けていた。

 美沙が恋愛を意識しだした思春期の頃から

雑誌やバラエティー番組やネットの投稿などでも、

 男に告らせるテクニック 男を追いかけてはいけない

男からのラインはすぐに返してはいけない 等の

男性を遠ざけるような態度こそが女性の美徳である様な、

それを賛美するような話や価値観は既に

身の回りに、生活の中に当たり前として溢れていた。


 今覚えばあの類の考え方も もしかしたら

ローンウルフ達の印象操作で操られてたのかも知れない

みんな 自分で考えてなかったのかも知れない


 そんな事を思っていた。

それに気づいたのなら、周りにあふれる

情報や価値観に踊らされて自分で考えずに生きて来たと、

そう思えるのなら、そんな考えは捨てて

ちゃんと伝えようと思っていたのに

それでも、自分の思いを伝える事が出来なかった。


『す』 と 『き』


 このたった二文字を口に出すのがこんなにも大変かと

人生で初めて痛感した。


 スモークとは今も片耳ヘッドセットで通信が繋がっていて

話そうと思えば話せる。

だがあの性格だから何も話して来ない。

(声が聞きたいよ、スモーク)そう思ったが

今自分から話しかけたら怖気づいて逃げ出してしまいそうで

自分を抑えた。

 今美沙の心を支えているのはスモークの存在だけだった。

美沙はスモークとの記憶を辿って行った。


今から自分一人で起こす、日本放送史上初の大事件の

重圧、恐怖、緊張から逃避するかのように。


5秒前!4・3・2・・・・

番組が始まった。ニュースを一通り放送したら

美沙が出演するツイセキのコーナー。

美沙の心臓の鼓動は高鳴っていった。

美沙はスタジオ隅のパイプ椅子に座ってうつ向いたまま

自分が緊張してるのを周囲に悟られないように

するのに必死だった。

「CMのあとは、内崎記者の、ツイセキのコーナーです」

アナウンサーがそう言うとCMになった。

美沙の緊張は限界に達していた。

(やっぱり無理!私には出来ない!)

そう思っていた時、片耳ヘッドセットから通話が聞こえた。


スモーク「いよいよだな。こっちはテレビ局の

     ハッキングも終わってる。準部万端だ。

     思い出せ、作戦会議をな。


     おまえなら出来るよ」


美沙は立ち上がった。

片耳ヘッドセットをつけ髪を下ろして隠し、

ポケットにフラッシュライトとカラースモークとライター、

パンツスーツに走りやすい靴でスタジオへと進んだ。

胸を張り、前を鋭く見据えて歩き出した美沙の瞳に

もう迷いなど消え去っていた。


アナウンサー「続いては内崎記者のツイセキのコーナーです」

美沙「……皆さん、最近SNSのトレンドで見かける

   #日本国民安楽死計画というタグ、キーワードを

   ご存じでしょうか?私はこの件を取材してました」

フロアディレクターが異変に気付いた。


美沙「こちらをご覧下さい」

スモーク「よし!出すぞ」


 スタジオの大きな画面にスモークが編集した映像が流れた。

それはチョコレートのCMのサブリミナルが移ってる辺りの

映像を早戻しとコマ送りを繰り返し、

サブリミナルの文字 お と こ は て き 

が移ってる1コマを映し出して止め、その文字の部分に

ズームして拡大する映像だった。

スモークはこの映像を繰り返し再生し続けた。


 サブスタジオのディレクターが

「おい、打ち合わせと全然Vが違わないか」と

焦り始める。


美沙「このチョコのCMに一瞬、男は敵、という文字が

   移ってます。視聴者の皆さんもご自宅の

   レコーダーで確認出来るはずです。

   これを加工した犯人は男女の仲を悪くして、

   人口を減らす事で日本に復讐しようとしてました。

   犯人は少子化を武器として利用したのです」


 フロアディレクターが「内崎何やってるんだ」と

声を上げる。美沙は無視して続けた。


美沙「この犯人以外にも同じ事をしてる

   ローンウルフ達が何人もいます!

   皆さん!少子化の原因は!

   ローンウルフ達の!見えないテロです!!」


美沙はカメラを鋭く見つめながら言い放った。


美沙「これが!日本の少子化ブラックボックスの!

   真相です!!!!!」


つづく

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