第一話 内崎美沙
この物語はフィクションです。
実在の人物や団体等とは関係ありません。
原作 ゼロイチ
少子化ブラックボックス ―日本国民安楽死計画―
第一話 内崎美沙
Japan will disappear if something doesn't change
もし何も変わらなければ、日本は消滅するだろう
「アメリカの実業家イーサン・フェイス氏が昨日
短文投稿SNS“Z”に、このように投稿しました。
この投稿に国内では波紋が広がっています。
続いてはスポーツです……」
内崎美沙は今朝も自分の勤務先の
テレビ局のニュースをチェックしながら朝食をとる。
仕事に繋げるための情報収集は欠かせない。
「バレンタインは大切な人にチョコレートを送ろう!」
(チョコのCMが最近多い気がする もうそんな時期か
そういえばいつから男子にチョコをあげなくなったんだろう)
そんな事を思いながら身支度を続ける。
美沙はアカツキテレビというテレビ局の報道記者。
自分が担当するニュース番組の特集のコーナー
「ツイセキ」で自身も解説としてテレビにも出る。
時代に乗ってSNSも利用し、
短文投稿SNS“Z”と、画像投稿SNS“インスタント”の
フォロワー数は10万人以上で知名度も高く、
その人気で雑誌のコラムの連載も持っている
なかなかやり手の女性だった。
(今日は自分のネタOKもらうぞ)そう意気込んで美沙は出勤した。
【報道記者とアナウンサーの違いについて】
アナウンサーは現行を読みニュースを伝えるのが役割
報道記者は自分で報道するテーマを決め、
編集部で会議をして許可が出たら実際に取材をして
内容をまとめ、ニュースサイドに渡すまでが仕事となっている
美沙は自分の考えを強く持ってる性格だった。
以前から女性への差別、いわゆるジェンダー問題に関心を持ち
それに関する問題を何度も取材してきてた。
編集部の会議が始まり、編集長が「内崎お前のネタは?」と聞く。
美沙「はい、私が今回取り上げたいのは男性への差別です。
日本には、妻のによる子供への虐待が原因で離婚しても親権を取れない
父親が多くいます。今回はこの件を取材しようと思ってます。」
美沙はこの仕事に就いた時から、
報道に関わる者は公平な目を持つ事が大事だと先輩達から
言われ続けていた。
女性同様に男性への差別にも目を向けなければ
公平とは言えない この着眼点を編集長は評価してくれるだろう
ましてや編集長は男だから男への差別を特集すれば嬉しいに決まってる
今日のプレゼンは絶対通る!そう思っていた。
なんなら今夜のおやつは何にしようとか考えていた。
編集長「内崎おまえ今まで女性への差別とか取材してきたじゃん
そういうの無いの?」
美沙「報道記者は公平な目を持ってないといけません。
男性への差別も取り上げようと思いまして。」
編集長「それはそうなんだけどね~」
会議室の議論が弾まない。(あれ?もしかして私すべってる?)
美沙は思った。編集長や先輩達は目線が下がっていく。
編集長「他のネタ無いの?」
美沙「え?他……ですか?……」
美沙の案は却下となった。
絶対通ると思ってた分ギャップで余計悔しかった。
その日の午後、美沙は自分の連載がある雑誌の、コラムのテーマの
打ち合わせのリモート会議をしていた。
雑誌編集者「内崎さん次のコラムの内容はお決まりですか?」
美沙は自分の却下されたネタを形にしたいという気持ちと、
ぶっちゃけネタ考えるのめんどい、という気持ちから、答えた。
美沙「はい、男性への差別に着目しまして、
父親が親権を取りづらい問題をコラムにしようと思ってます」
雑誌編集者「なるほどですねー良い着眼点ですねー」
美沙「有難うございます。このネタでどうですか?」
雑誌編集者「全然OKですねーでは締め切りまでにお願いですねーそれではー」
美沙はリモート会議を終わらせ、
相変わらずですねーが多いなと思いながらも
自分のネタがコラムには載る事になって納得する事にした。
帰宅中、電話が鳴った。雑誌の編集者からだった。
嫌な予感がしながら美沙は電話に出た。
雑誌編集者「先程の件ですねーあの後上司からNG出ちゃってですねー
他の内容にして欲しいですねー」
美沙「え?そうですか……わかりました」
雑誌編集者「なる早で他の内容決めて連絡欲しいですねー
それではですねー」
二回続けてネタが却下された事に、美沙は残念というより
違和感を覚えて家路についた。
「日本の出生率が過去最低を更新し、70万人を割りました。
予想を超える低下率に専門家は……」
その夜美沙はニュースを見ながら夕食をとっていた。
(最近この少子化のニュースをよく見る。
ずっと前から少子化対策って言ってる割には何にも効果出てないなあ)
そう思いながら今夜のおやつのシュークリームを頬張る。
日本最大の国難だ あと何年までに上方修正しなければ
そんな言葉を何度も聞く 実際その通りだろう
そう思ったが、その事実に漠然と不安と恐怖を覚えながらも
美沙は何も出来ない、何も思いつかない自分を自覚するしかなかった。
(……私はミニメロだよ~ 編集長ミニメロの言ってる事
難しかったのかな~ なんかムカつくからZに愚痴っちゃいたいで~す)
美沙は怒られたり嫌な事があると幼少期に好きだったキャラ
ミニメロになりきって現実逃避する癖があった。
かなりヤバい癖だがメンタルヘルスの意味では確かに効果的ではあった。
美沙はスマホを手にし、短文投稿SNSの“Z”にログインした。
普段から不満や愚痴を誰かに聞いてほしいと思った時に
ストレス発散目的で投稿してた。
『今日 妻による子供へのDVが原因で離婚しても
父親が親権取れない事があるってネタをプレゼンしたら
編集長からボツくらった!
女性だけじゃ無く男性の差別も無くさないと平等じゃ無くない?
ほんま 意味わからん 寝る!』
そう投稿したら気が楽になった気がして
そろそろ寝ようかと思っていた。
スマホにZのDMの通知が来た。
美沙は視聴者の意見等からネタを集める為に
DMをオープンにしてた。
何だろうと思い美沙はDMを確認した。
『踏み込み過ぎかも知れないぞ 気をつけろ』
(……何これ?……)美沙は思った。
今までもいわゆるアンチからのクレームは何度かあったが
そういう感じもしない。攻撃ではなく、警告。
アカウント名は スモーク
(誰?これ?スモーク?)美沙は不気味に感じたが、
どうせまたアンチの悪戯だろうと思い、
(もう寝るんだめろろ~ん)と、
ミニメロのキャラのまま眠りについた。
つづく