第12章 実践美大受験講座・初級編
美術予備校の講習、どんな風なんでしょうね。書いといて何ですが。
学校によってだいぶ様子ややり方が違うのか、それともどの予備校でもやることや教えられる内容はまあまあ似通っているものなのか。
普通の大学の受験とは全然違うから、予備校の対策抜きで美大に受かるのは困難そうだな…という認識しか。大変ですね、芸術系の大学の受験…。
「…はい、そこまで。それでは講評に移ります。みんな手を止めて。この前の棚に描いたもの並べていって」
順番は適当でいいよ、と当たりがもの柔らかな若い男性の講師が温厚な口調で指示を出す。
涼しい顔でさっと席を立って前に出て行く隣の名越の方も見ずに、あー時間が全然足りなかった。と未練がましくもう一筆二筆、せめて少しでも見た目を整えたくて手を加えずにいられないわたし。
みんな文句も言わず大人しくがたがたと椅子を鳴らして立ち上がり、講評用の棚の思い思いの位置にスケッチブックを立てかけていく。一番最後になるのもみっともないなと思い直し、急いでわたしも席を立ってその波に紛れた。
席に戻ると、余裕の表情な名越に軽く腕を突かれた。声を落として慰めの言葉をかけてくる。
「全然いいじゃん。すごく上達してると思うよ、以前より」
「そりゃ。当社化でならね…」
わたしも声を潜めてぼそぼそと返す。
昔の自分と較べるんなら何の問題もない。わたしだって、よくここまで巧くなったなぁ頑張った、と時折内心で自分を労うことがないではないけど、正直なところ。
…それはそれとして。こうして美大受験ガチ勢の人たちの中に埋もれるように並べられると。わたしのデッサン力、平々凡々で無難で光るとこゼロというか。戦闘力めちゃ低い…。
「はい、じゃあこっちの端から。順番に講評しまーす」
まだ二年生のわたしたちは予備校にとってもお客さんだからなのか、やけに温厚で親切な講師の人だ。その呼びかけを耳にして、自分の番が回ってくることを考えると憂鬱で仕方なくて思わず椅子の上で僅かに背中を縮めるわたし。悠然と背もたれに寄りかかってそっくり返ってる名越とは実に対照的だ。
ああ、どうしてこいつの口車に乗ってこんなとこまでのこのこやってきて冬季講習に参加なんかしちゃったんだろ。血迷ったにしても、どう考えても場違いに過ぎる。
「はい、じゃまずこちらから。…この絵描いた人手を挙げて。ああ、はい君ね。石膏デザインはこれまで何度かやったことある?」
「ええと。一応美術部なので、そこで何度か…」
始まった他人への講評を聞いてるだけで気持ちが怯み、ますます首を縮めながら自然とわたしはこれまでの経緯を脳内で反芻していた。
「…あのさぁ。せっかくだから、今年の冬季講習だけはとにかく何も考えずに参加しない?来年の夏以降になるともうみんな、ガチもガチだからさ。今度のが体験て感じのスタンスでいける最後のチャンスだよ」
修学旅行が無事終わり、特に何事もない平和な日常が戻ってきたと思いすっかり油断していたわたしだったが。
絵画教室で顔を合わせた名越にきらきらした眼差しを向けられてがんがん押しまくられてしまい、その場に居合わせてる大河原先生の方へと困惑した顔つきで思わず助けを求めた。
「…どうでしょう。芸大受ける気もない人間に、そんなの必要あると思います?」
そもそもそっち方面に進むつもりもないくせに、高校生にもなってわざわざ月謝払って先生に師事してるだけでもかなりやってる方だと思うけど。
教えてる側の立場からしたら、特別これを本業にするわけでもないんならわたしが指導してる範囲で充分だよ。足りない部分なんかないよ?と考えるんじゃないかなあと予想したのだが。大河原先生は苦笑気味に両腕を胸の前で組んでうーん。とちょっと言葉を選ぶように受け応えた。
「そうだねぇ。…正直なとこ、直織ちゃんに関して言うと。それはそれで得られるもの結構あるんじゃないかな?とは思うよ。うちでのレッスンずっと続けてて、技術面についてはだいぶカバー出来てるはずだけど。何と言っても他の同年代の描き手がどんなレベルか、全体を俯瞰して見る機会ってまずないからね」
そこに一人いるけど、ちょっと普通よりは尖った人材過ぎて一般化は難しいしね…と語尾を微妙に濁した。うん、それはもちろんわかるけど。
「自分の現在の立ち位置を確認できるって意味で有意義なんじゃないの。ただまぁ、冬季講習で日数少ないとは言ってもそこそこのお値段はするから。受験しないのに勿体ないと親御さんに言われたら反論できないけどね。よそ様のご家庭の考え方だし…」
うちでわたしが教えてる内容とはだいぶ違ってくるとは思うから、無駄ってことはないと思うよ。とアドバイスされてやや面食らった。
ほとんど同じ内容でダブるからあんま意味ないんじゃない?と言ってくれるのを期待してたのに。…そうかぁ、大河原先生も。向こう側の立場か…。
「ほら、やっぱり。ちゃんと意義あるって先生も言ってるだろ?だから一回参加だけでもしてみようよ。ほんとにめちゃめちゃいろんなやつの絵が見られるから面白いって。それに多分、自信つくと思うよ。美大志望って言ったって大半は言うほど大したことないなとか…」
大河原先生からの後押しを得て俄然勢いづく名越はさらっといい加減なひと言を付け加える。いや、大半の受講生を大したことないの一言で片付けられるのはあんただからだよ!
何なら受講料は俺が出すってば。ただもらうのが嫌なら出世払いでいいよ、とさらにねじ込んでくる名越にきっぱり断るでもなく少し考えさせて。ととりあえず答えてしまった時点で、既にちょっとだけまあ一回くらい参加してみてもいいかなぁ。どうせ美大行かないんなら逆にそういう場を体験する機会もう全然なくなるし…とぐらつく気持ちが心のどこかにあったのかも。
これまでのお年玉を貯金してあったはず、確か独立するときにまとめて渡してあげるとずいぶん前に親に言われたよなと考えつつ恐るおそる母に申し出てみた。
「あのさ。…いつか自分のになるってことなら、今の段階で少し、数万円くらい前借りしたいんだけど。何なら大学生になったらバイトで稼いで口座に戻してもいいし、その分」
どうせそれも最終的にわたしの懐に入ることになるんだろうが。それでもぴったり耳を揃えていざというときのために備えて置いときたい、と両親が考えてるならそれに倣うつもりはある。
母はほんの少し警戒した様子で何に使うの、それ。と当然の問いを投げかけてきた。
「実は、美術部の友達に誘われて。美大志望者向けの予備校の冬季講習に行かないかって…。進学しないにしても絶対役に立つからって。同年代のガチ勢がどのくらいのレベルなのか目の当たりにできるし…」
食後にダイニングテーブルでゆったりお茶を飲んでいた母は湯呑みを置き、改まった口調で直織は将来画家になりたいの?と唐突に尋ねてきた。
別に怒ったり苛々したりしてるわけではなさそうだと判断し、目の前に差し出された自分の分の湯呑みを受け取って素直に思ったことを答えるわたし。
「そういうわけじゃない。それで食べていけるほど甘い世界じゃないのは重々承知してるし。けど、何らかの形でずっと絵を描いていけたらいいなとは思ってる。趣味でもいいんだ、わたしは。今は本職じゃなくてもSNSに載せたり、作品に日の目を見せるやり方はいっぱいあるし…」
母はその答えをじっくり吟味し、やがて頷いて今度その講習の振込用紙持ってきなさい。と厳かに言い渡した。
「え。…結構するよ。十万はいかないけど、それよりちょっと少ないくらい」
「まあいいよ、あんたはあんまり何かをねだってくるような子じゃないし」
母は肩をすくめて淡々と続ける。
「服も贅沢しないしゲーム機もソフトも欲しがらないし。部活もずっとやってなかったから特にやりたいこともないのかと思ってた。これまでのトータル考えたら野球やらサッカーやら中途半端に手を出してきた圭太と較べると大してお金もかけてあげてなかったからね」
絵画教室行き出したのだって高校からだし。大学行ったらそれも終わりでしょ?と言われてまあそうだなぁ。とこっちも改めて思う。
東京の大学に進学したらこの沿線の教室にはもう通えない。受験が近くなればそれどころじゃなくなるだろうし、そう考えると大河原先生にお世話になるのもせいぜいあと一年くらいか。
内心でひとりしんみりしてるわたしの気持ちはさておき、母は特に感情を交えずあっさりと告げた。
「だからまあ、それであんたが納得できるなら。行く価値はあるんじゃない?けど美術に関する出費はそれでひとまず終わりだよ。あとはしっかり受験に専念して。無事に大学生になれたら、自分でバイトしたお金で東京で先生探して習うなり活動するなり、自由にすればいいんじゃないの」
「は。…そうさせていただきます」
予想外に協力を得られることになり、わたしは感謝の意を表明すべく深く頭を下げた。
そういう成り行きで、想像してたよりずっとすんなりと(しかも親公認で堂々と)と美術予備校の冬季講習に参加できることになった。それ自体はありがたい話なんだが、しかし。
余裕綽々楽しんでるのが丸わかりな名越の隣で、講評棚に並ぶ自分と他の受講生のデッサンの出来をあれこれと見較べてしまい、何とも言えない居心地の悪さで首を縮めている。こんな大勢の前で公開で評価される、これは何度やっても慣れそうにない。
わたしが落ち着かずそわそわしてるのを察知したのか、名越が僅かにこちらに身を寄せてこそっと話しかけてくる。
「大丈夫だって、あんた相当上達したし。びくびくしないで冷静に見てみなよ。他の人たちと較べて見劣りするってほどのことないだろ。ちゃんと真ん中くらいのレベルだと思うよ、自信持ちなって」
…自分のは見るからに上澄みなやつに慰められた。なんか悔しい。
「最大限褒めてそれか。ま、そうだよね。わかってるけどさ、自分の画力のレベルは。…それにしてもあんた巧いな、まじで。ここでもトップレベルというか。めっちゃ目立ってるじゃん」
周りに聞かれないよう極限まで声を潜めて話しかける。名越は賞賛など聞き飽きたとばかりに涼しい顔でしれっとその台詞を受け流す。
「そりゃ、デッサンはね。何ならそれが俺の取り柄だから」
いや絵力において、デッサン力最強でしょ。それがあればまじ大抵のこと何でもできるじゃん…。
しかしこの男、わたしのNo. 1ファンボーイを以ってしてもせいぜいこの受講生の中で真ん中らへんと評価するのが天辺なんだな。と思うと凹む。
こいつ、わたしの絵に関しては何でも盲目的に褒めるのかと思えば変なところで正直というか。意外に嘘はつかないのが面白い。いや面白くもないのか、今しも処刑場に引きずり出される気分だ。あー何だって身の程知らずにも、のこのここんなところに出てきちゃったんだわたし。
「はい、じゃあ次の人。…おお、なかなかすごいね。これ描いたの誰?あ、そうか」
君ね、と半分手を挙げかけた名越の方に目線を当てて苦笑いする講師の先生。
「名越くん、だっけ。相変わらずデッサンめちゃうまだな。君に関してはうん、そうだね。…石膏像じゃ簡単過ぎるだろうから。普段からいろんなものを見て新しい表現に挑戦してみるといいね。動きのあるものとか、透明だったり半透明だったりするものとか。色合いをモノクロで表したり、光の描写なんかにも取り組んでみるといいよ」
そんなことしかアドバイスできなくて悪いけど。と付け加える先生。名越はまるで当たり前みたいに涼しい顔でその謝罪を受け流した。
「はい、やってみます。どうもありがとうございます」
そしてそれ以上の言及もなく無風で次の作品へと講評は移っていった。てか、そうだった。
こいつは夏の講習から既にここに通ってるんだ。だとしたら、とっくに講師の人たちの間で存在を知られてるとしてもおかしくない。
「…もしかして。あんたって早くもこの予備校の中じゃ有名人?」
次の講評の邪魔にならないようごく小さく声を落として話しかける。名越もその意を汲んで、同じくらいの小声に抑えて答えてきた。
「そこまでじゃない。けど、講師の中でも知ってる人は知ってるだろうな。デッサンに関してはそんなに教えることもうないって言われたから。まあ、そこだけだけどね。俺のアドバンテージって」
「そんなことない。…やっぱすごいよ…」
わたしは呆然として、半分上の空でそわそわと自分の番までの残り人数を気にしつつ呟いた。
高2の時点で予備校からもう教える必要ないって言われるって、どんなスキル持ちだよ!
少なくとも持ってる武器はもう超一流で、それでどう戦うかって段階なわけだよね。わたしがもしもそんな立場だったら、多分それ以上お金かけてまでわざわざ予備校の講習なんか受けないかも。だって教えてもらえること、もう別に何もないじゃん…。
「えーと、そしたら次ね。この作品はどなたの?手を挙げてもらえるかな」
穏やかな声に促され、はっと気づくと思ったより早く順番が進んでいた。うわ、わたしのだ。
慌てて片手を挙げるわたしに、座ったままでいいよ。と親切な声をかけ、立てかけられたスケッチブックを眺めてしばし考え込み、うーんと言葉を選んでいる様子。
「あなたは初心者じゃなさそうですね。しっかり基礎を勉強してるのがわかります。画塾とかで先生についてるのかな?それとも部活に面倒見のいい先生がいらっしゃるのか」
「えーと、前の方です」
うっかり正直に答えてしまい、思い直して慌てて付け加える。一応うちの顧問の名誉のために。
「美術部の先生も割と見てくれます。たまに講評してくれたりとか」
合宿のときとかね。わたしに関しては初対面を除けば合宿のときだけだが、多分自分からどんどん行く子にはちゃんと教えてあげてるはず。こっちが頭を下げて教えを乞いに行かないだけで。
講師の先生はうんうん、と愛想よくわたしの説明に頷いてみせた。
「そしたら環境がいいんだね。きちんと基本を押さえた描写が出来てると思うよ。惜しむらくは多分、丁寧に細かいところまで仕上げようとし過ぎて時間が足りなかったんじゃないかな。…この辺。焦って最後、仕上げようとすると。手癖でまとめようとしてるよね?ここから急に実物を見ずに頭の中のイメージで描いてるのがわかるよ」
うわ、その通り。ずばりと言い当てられてわたしは再び身の置きどころなく首を縮めた。
「はい。…おっしゃる通りです…」
「細かい部分に捉われずに、まずは全体の形をざっと把握して大まかにまとめてから細部にこだわるといいよ。焦ると手癖に頼りがちなのはあるあるだから、ある程度スピードも意識して。数こなせばもっと手が速くなるから」
薄々自覚がなくもなかったところを指摘され、納得して素直に頷くより他ない。わたしは何とも言えない気分で講評棚に並ぶ自分のデッサンを全体の中でつくづくと見較べた。
…確かに。わたしよりもさらにデッサン慣れしてないな、と一見して思える作品もなくはないけど。それは多分体系立った美術の勉強はまだこれから、って人の手によるものだろうし。
今から受験のために学習を始めるわけだからおそらくこれからみんな伸びる。わたしは彼らより一歩先に先生から絵の描き方を習ったってだけで、別に才能の面で優ってるわけではない。
だからどういうことかって言うと、後天的に学習できる面ではかなりわたしも積み上げてはきたが。
それは勉強すれば誰でもある程度身につけられるものであって、生まれつきの天賦の才にはもちろん敵わない。
つまり、時間的なアドバンテージは今の時点でないことはないけどこれはあっという間に追いつき追い越されるレベル。多分もう半年もしたら、ちょっとは他の人より巧く見えてたのもなくなって完全に埋没してしまうだろう。
でも、みんな同じように基礎を習ったからと言って全員が似たような水準で均一化されるかというときっとそうでもない。そうなって改めて、本当に巧いやつは誰かっていうのが目に見えて立ち上がってくるっていうことだ。例えば、今わたしの横で涼しい顔で座ってるこの男の作品とか。
いいなぁ、本物の才能があるやつは。周りの人達がどんなにひたすら頑張って努力して腕を上げても、その結果尻に火がついて焦るなんてこともない。
どうせ凡人が何をしたって追い越せやしない。わたしが後続の波にあっという間に飲み込まれ引きずり込まれても、きっと涼しい顔で何事もなかったように波打ち際にすっとした姿勢で佇み続けてるんだろうな…。
と、講評が終わって休憩に入ったあともぶすくれた顔で一人つらつらと脳内で考えてると名越は何かを察したのか。自販機のところに行って買ってきた緑茶のペットボトルをわたしに手渡し、慰め顔でフォローの言葉をかけてきた。
「全然そんなに落ち込むほどじゃないじゃん。あの中で目立って悪いとこもなく、普通に巧けりゃ充分だと思うよ。ここに来てるのはまじで藝大目指すようなレベルの受験生ばっかりなんだから」
「それはわかってるけど」
ありがとう、とお礼を言ってそれを受け取り、きゅっとキャップを外してひと口飲んで喉を潤した。
「けどさぁ。わたしは多分、ここにいる他の人たちと違って今のスキルが大体頂点だと思うんだ。今わたしよりもデッサン描き慣れてない人たちも、ここで一年とか勉強続ければ絶対巧くなるじゃん。でもわたしはこのあと仮に同じくらい頑張ったとしてももうそんなに伸びない。頭打ちの段階に来てると思う」
そうずっと思ってた。てかそれが、わたしが予備校の講習を受けるのに今いち乗り気になれなかった一番の理由かもしれない。
「最初にあんたと会った頃に較べたら、そりゃかなり上達したと思うよ?それも名越が大河原先生を紹介してくれたおかげだけど。でも最近思うんだよね、教室通ってても。単純にデッサン力って面では自分の力量の範疇では、もう大体極めたのかなって」
「そうかなぁ」
やればやるだけ伸びるでしょ、ああいうのは。と呑気な声で受け応えてブラック無糖の缶をぶしゅと音を立てて開ける。こいつ、いつも大体コーヒーだな。よほど好きなのか。
カフェイン中毒ならエナドリだろうし、単に味が好きなのかもな。とどうでもいいことを考えつつ肩をすくめてやつの無邪気な相槌を受け流す。
「描けば描くほど巧くなるなんてあんたくらいだよ。いや、名越についてはもう天井叩いてるか…。そこまで巧ければ上達止まっても問題ないけど。わたしは多分もう駄目、今の段階で伸び切ってるって自覚があるし」
かと言って描くのやめちゃったら腕が鈍りそうだからこれからも隙あらば描くけどさ。でも、シンプルに技巧オンリーではわたしは戦えそうもないよなーとしみじみ独りごちて冷たい緑茶のボトルを両手で抱え込む。指先が無性に冷たい…。
気重に考え込むわたしの手から何故か緑茶を取り上げ、代わりに自分の飲みさしの缶コーヒーを渡す。何なの途中で交換しろって?とびっくりしたけどすぐに意図を理解した。ホットの缶だから、これで指先をあっためろってか。
温度差が洒落にならなくてあちい。と片手からもう片方へと慌てて交互にそれを受け渡してるわたしをよそに、冷たいペットボトルを手にした名越はあっけらかんと言い放つ。
「いいじゃん。笹谷はそれでいいと思う。描きたいものがある程度描ける技術が身につけばそれ以上は必要ないでしょ。そもそも技巧とかリアリティで戦う画風じゃないじゃん。写真みたいに現実そのもの生き写しな絵を描けたとしても、それだけじゃしょうがないよ?」
「う。…それはそれで。活かしようがあると思うんだけどね…」
現実と見紛うばかりなスーパーリアル系の空想画、ちょっと描いてみたい気はあるんだよな。まあわたしの腕じゃ難しいからもう一段階下のリアルさで普段手を打ってるが。
わーやっぱ冷て、と顔をしかめてわたしの方にまたペットボトルを戻してくる。幸せな温かさを渋々手放して再び手持ちを取り替えると、さっきよりだいぶぬるまって感じる緑茶の温度。
「これってさ。こうやって交互に手をぬくめると、だんだんボトルの温度が平均化してくるんじゃないかな。冷たいのは生温かくなって、熱いのは冷めて」
「いいんじゃない平等で。どっちもちょうどいい塩梅にぬるいのを飲めばいいでしょ。熱すぎず冷た過ぎずで」
平然と答えた。だったら最初から熱いのを二つ買えばよかったんじゃないかな。いや奢っといてもらってそんなこと言うのも何だけどさ。
やつはすっかりぬるくなったらしいコーヒーのボトルを手のひらで呑気に弄びながら言葉を継いだ。
「そりゃ巧くなればなるに越したことないってあんたの気持ちもわかるけど。笹谷の本領はそこじゃないから。…デッサンで埋もれたって別にいいじゃん、今から目を惹く必要なんかない。このあと、絵づくりが要求される課題になってからが本番っていうかさ。楽しみだな、あんたを何とか見せびらかしたくてここまで連れてきたんだから。俺」
油絵か水彩で色彩ある絵やりたいよね。あとは自由課題なんかもいいな、みんなめっちゃ驚くと思う。とうきうき言われてわたしはげんなりした。
「やけに熱心に誘うと思ったらそんな動機か。けど、正直そこまで皆驚かないと思うよ。わたし程度の絵を描く人、普通に世間にいくらでもいるでしょ。よくある絵だよ」
やつはそれを聞いて大真面目な表情になり、冷めたコーヒーを飲むべく蓋を開ける仕草をしながらきっぱりと首を横に振った。
「それは違う。頭の中のイメージを基にした空想画を得意にしてる描き手はそりゃいっぱいいるけど、あんたに似た作家は俺の知る限り一人もいないよ。多分、刺さる人にはめちゃくちゃ刺さると思うんだ。もちろん万人全てが慄いてのけぞるような作品ってわけじゃないけどさ」
うん、わたしもそう思っていない。そうなりたいとも考えてないし。
むしろあんたの方がよほど、万人の目を惹くすごい描き手に近いだろ。石膏デッサンの講評のときだって名越の番だけ教室が一瞬ざわついてたよ?
あれくらい一目で超絶技巧ってわかる説得力があれば皆驚くだろうけど。絵づくりとか雰囲気がちょっと個性的ってくらいじゃこういう教室に来てる人たち、全然びくともしないと思う。だって自分の独創性には自負がある生徒ばっかりなんでしょ?
技術で殴る方が絶対、わかりやすいと思うけどなぁ。と考えつつもう一枚デッサンをしてその日は終了。
翌日からコースに分かれる。わたしと名越の選択は当然油絵だ。初日はまず、指定された静物をみんなで囲んで描く写実画。
「自由課題じゃなくたってあんたの良さは伝わるから。いつもの感じで好きなようにのびのび描くといいよ」
隣でキャンバスの支度をしてる名越が木枠をがたがたいわせながらのんびりした声で励ましてくる。いや、いつものことだけど。何を根拠にそう言ってるのか…。こっちにはさっぱりわからん。
「ワインの空き瓶をそのまま描いてどうやって個性出せと…。上手か下手かしかないでしょ。石膏デッサンとあんま変わんなくない?」
もたもたしてると手早い名越が自分の支度を終えてこっちを手伝いに来るので、急いで自分のキャンバスを準備する。ただでさえわたしたちがずっと一緒にいるので周りにいる女の子が数人、こっちをちらちら窺ってるのをさっきから感じてるし。
「いや、さっと短い時間で仕上げたモノクロのデッサンとはやっぱりだいぶ違うよ。見たものをそのまま紙の上に写すだけじゃなく、自分で思ってるよりも描く人の癖が出るから。でもあんたならきっとそれ以上のものが出せるよ。色遣いとか構図とか、少し思いきってみてもいいんじゃない?」
けろっと簡単に言ってくれる。そりゃ、あんたくらいの上級者なら静物画でもそのくらいの意図込めて描けるんでしょうけどさ。
「色遣い。ねぇ…」
部屋の中央に置かれた薄緑色の魚型の空き瓶に目をやり、軽く顔をしかめた。
中身も入ってない透明なガラスの瓶でどう色彩を頑張れと。いや、難しいのはわかってる。ほんのうっすらと浅い緑色、複雑な鱗の形。
透明感と僅かな色合いを、人によってはまだ慣れてない油彩で表現しろって。…いきなりコース序盤の課題としてはなかなか鬼畜だ。
油絵の具初めての人もいるかと思えば、普段から使い慣れてる生徒もいて経験値はかなり人によってまちまち。だから慣れない人に合わせて最初は丁寧に時間を取って教えてつもりのようだ。講師の先生も描いてるわたしたちの間を回って、各人にこまめにアドバイスしたり手間取ってる生徒に声をかけたりしてくれてる。
おかげで決して手が早くないわたしも、思ってたより落ち着いて表現に手間をかけることができた。ここに来てまさか、早い段階で油彩に慣れておいたのが功を奏するとは。
二日かけて小型のキャンバスを一枚仕上げ、翌日に完成したものをずらりと並べて再び公開講評。今度のはどういう評価になるんだろ、と考えるとやっぱりそわそわどきどきして落ち着かず、何とも言えない気持ちになる。
「そんな不安そうな顔して。今回のも全然いいじゃん、あんたの絵」
わたしが前に提出に行く前に素早くスマホで撮影を済ませてあった名越はいつも通り、泰然とした態度でそうフォローする。
評価棚に並べてから写真撮ってるとん?何してんのあの人?まさか自分のじゃなく、他人の絵を勝手に撮影してんの?と要らん注目を集めるから、人目につく前にさっさと撮っとくのは正しい。
けどこんな場所でもわたしの絵、当たり前に撮るんだ。…と思うと今さらながらこいつ変わってんな。と改めて実感せざるを得ない。同じ講習を受ける同級生同士なのに、片方がもう一方の作品のマニアなのやっぱりおかしいよな。
「自分のをよく見てから言いなよ。正直隣に置かれたくない。よくあんなリアルに描写できるよな、ガラスの鱗の表現難しいのに…」
言い返すと名越は今ひとつぴんと来ない。といった顔つきで軽く首を傾げた。
「そうかぁ?あんなん普通過ぎじゃないかな。あんたの描き方の方が味があるよ。なんか、絵全体に何とも言えない雰囲気あるし」
「絵の巧い下手の話してるときに『味がある』は褒め言葉じゃないよ…」
心底からそう思ってぼそりと呟いたが、結果的に名越の言ってたことはそう的外れでもなかったことをすぐに知る。
「あー。…いいですね、悪くない。写実画として完璧ってわけじゃないしもっと描写は改善の余地あるけど。でも独特の雰囲気出てるしぱっと入ってくるインパクトあるよね。印象に残る絵だと思います」
ガラスの描き方とかちょっと癖あるけど。リアルかどうかより作者の考える世界が作れてるから、そこは美点って言っていいかな。と笑みを浮かべて評する講師の先生。
ガラスの透明感とかラベルの描写をもっと作り込めたらさらに良くなるけどね。けど微妙な非現実感のある造形がこの人の持ち味なのかもしれないし、難しいところだなぁ。と苦笑して考え込む。
「…僕の好みとしてはこのままのテイストで描き続けて欲しい気持ちもあるけど。受験のこと考えると、もっとたくさん描き込んで技術を上げていかないと難しいかもね。独自の世界観があるのはいいけど、そこにこだわらず多様な描き方を模索して幅を広げていった方がいいと思うよ」
…はあ。なるほど。
「はい。…ありがとうございます」
漠然と彼の言いたいことはわかるような気がして、とりあえず素直に頭を下げた。
「…何言ってんだろうな、あの講師。余計なアドバイスとしか言いようがないよね。笹谷は絶対このままの味が一番いいのに…」
変えるにしても他人の言うことに合わせるよりも、あんたが自分で変えたいと思う方に行った方が間違いないと思う。周りのアドバイスなんか気にかける必要ないよ、と講評が終わって解散してからも気持ちが収まらない様子でしきりに文句を言い続ける名越。
ぶつぶつと不満をぶちまけてるやつと成り行き上並んで教室を出ながら、その呟きの内容を他の受講生に聞かれたらどうしよう。もっと声を抑えて欲しいと周りを気にしつつ、わたしは小声で名越をそっと宥めた。
「あの人の言いたいこと、わたしはわかるよ。何描いても同じ味ってよく言われるもん。言ってくれた人は褒め言葉のつもりなのかもしれないけど」
変わり映えしないってことだよね。と遠慮がちに付け加えると、名越はまるでわたしがやつの推しの悪口を言ったみたいな勢いで噛みついてきた。
「それは絶対に褒め言葉でしょ。あんたくらいの年齢で独特の世界観で統一された絵を描く描き手がそうそういるわけないじゃん。何描いても作家の独創性が顕現する、なんてもっとずっとベテランの域だよ。みんな描き方がばらばらなのは各個人がその境地を模索してる途上だからだろ」
「独創性が。顕現…」
いいように解釈し過ぎ。とわたしは呆然となり返答に詰まった。
建物を出ると外は真っ暗。人通りの少ない狭い道を進んで駅まで続く大通りを目指す。ここから電車に乗ってわたしたちの地元まで戻るとだいぶ遅い時間になってしまう。まあ同じ駅で降りるし、こいつは必ずわたしの家の前まで送ってくれるから。夜遅くなっても別に怖いことないけど。
やつは周囲に目を配りながら車道側に回ってわたしを道際に押し戻し、憤懣やる方ない調子で続ける。
「だからあんたは何言われても自分を変えなくていいんだ。この年齢で世界観確立してることの方がすごいんだから。もう固定ファンだっているんだし、そのままでいてくれた方がみんな喜ぶよ」
「固定ファン…」
そんなの二人しかいない、わたしの知ってる限り。
確かに今の時点で熱心なファンが既にいるって事実は単純にありがたいけど。それで食べていける公算も、一生絵を続けられる根拠にもならないもんな…。
そこでつられて宮路さんのことを思い出し、そういえば今日完成したあれをあとで彼女に送らなくちゃ。こんなただの空き瓶の絵でも喜んでくれるもんなのかな、と微妙に複雑な気分で頭の中のto doリストの上部に書き込んだ。
冬季講習の日数は少ない。
冬休み期間がそもそも夏に較べて短い上に、年末年始は予備校も閉まってるし。
お正月三が日休んで、年明けに講習再開。ここで仕上げられる絵はあと一枚で終わりだ。意外にあっという間だった。
「最後はお題を出しますので、それに合わせて自由に描いてね。柔軟な発想で好きなようにどうぞ」
出されたテーマは『飛ぶ』だった。
もしくは『跳ぶ』あるいは『翔ぶ』。どう解釈してもいいからそのうちのどれかでイメージしたものを描いてみてね、とにこにこと告げる講師の先生。
「いろいろあるよね、鳥が空を翔ぶとか飛行機とか。跳ねる動物もいるし人だって跳ねる。そのテーマに沿ってれば何描いても自由だよ。楽勝でしょ」
そうは言うけど。その自由な発想ってやつがどれくらい自由か、そこも評価の対象なんでしょ…。
そんな凝った発想も表現方法も無理だよ。てかそんなの楽勝なら余裕で芸大受けるわ、まだほとんど何もここで教えられてもいないのに。
二年生の冬季講習は体験版とはよく言ったもんで、この数日間に仕上げた作品はこれまで自力で蓄積してきた技術や原料を素にして作り上げたもの。
これまでになかった新しい引き出しを増やすような授業は、せめて夏休みくらいみっちり日数がないとやっぱり難しいんだろうな。今回の講習では、受講生の適性とか現時点の力量を測るのがまず主目的なんだろう。
それで向いてないと自己判断すれば、本人自ら夏の講習にまで引きずらないでさっさと撤退するだろうし。そう、わたしみたいに。
こういう自由課題のときにめちゃくちゃ突飛なアイデアとか鬼面人を驚かすような斬新な表現とか、思いつくようなわたしじゃないんですが…。普通に思いついた自分が描きたい、見たいものを描くだけ。誰も驚かさないし別に目新しくもない絵だとしても、わたしがその完成品を見てみたいので。
まあ評価はどうでもいいや。そもそもわたしは芸大を受けるわけでもなく、ここに来てる人たちの中では唯一ただの体験のためだけという気楽な立場なので。と開き直り、深く考えずに好きなように描くことにした。
そうと決まれば手は遅い方だしゆっくりしてる暇はない。頭の中にぱっとまず最初に浮かんだイメージがどんどん膨らんでいくのを感じながら、真っ白なキャンバスを睨んでそれをどう具現化するかを真剣に考え始めた。
テーマや素材がぎちぎちに指定されてない自由課題のとき、わたしは脳内に一番初めに生まれた着想を基本的にそのまま採用することにしている。
その理由は、一旦発生したイメージを絵にして送り出さないとすっきりしないで何となく引きずってしまうから。ぱっと湧き出た着想は形にしてやらないと成仏しない。なかなか面倒なものだが、すっかり描くときの癖になってしまっているし抗うほどのことでもないので大人しくイメージの欲するところに従うようにしている。
わたしの脳内で受胎して、曲がりなりにも育ち始めたならそりゃ形を成して世に出たいだろう。おお、と感心するくらい立派な成長を遂げて大成するものも、今ひとつぱっとしないちんまりした作品になるものもあるが。
どれも描きたくて描いたものだし、自分の中から自然発生的に出てきたんだと思えばそれぞれに愛着も湧く。こういう描き方が普通かどうかは知らないし、器用にテーマを選べないのは難儀ではあるが。そういうもんならもうしょうがないなと受け入れた。
…しかし思えば、こういう画題の選び方はもしかしたら受験絵画とはめちゃくちゃ相性悪いのでは。とふと今さら気づいた。
そういう意味でもやっぱりどのみちわたしは美大には向いてなさそうだな。まあそもそも行きたいわけではないし、それを自覚しても特にがっかりはしないけど。
名越はそういうわたしの特性を既に把握してるから、描き始めたらもう横から題材や構図についてちょっかい出してきたりはしない。
こういうモチーフにしたら?とかこんなの描いて欲しい、とか要望してもどうせ無駄だって知ってる。だからわたしが集中し始めると基本話しかけずに放っておいてくれる。
自分も同じ受講生なんだから同時進行で制作しなきゃいけないってこともあるけど、不器用で描くのに時間がかかるわたしに較べてやつは小器用でそつがなく手早い。
だからこっちほど真剣に根を詰める必要はなく、他の講習生とちょこちょこ雑談を交わしたり合間に休憩に出たりもする。隣にキャンバスを構えてはいるけど、別に一日中わたしにひっ付きっ放しでもないのだ。
夏期講習のときに既に知り合いになってた子や、今回冬の講習で出会って気安くなった相手もいるみたいであちこちからやつには声がかかる。そういうのに対していちいち当たり障りなく応じてるので、予備校でも高校と同じでいつも名越の周りには人がいる状態だ。
わたしはその空気に巻き込まれたくないので基本的には他人みたいな顔をして知らんふりしてる。あいつの周りに集まるような、パリピタイプの連中に絡まれると考えるだけでうんざりだ。
やつはそういうわたしの性格もとうに承知なので、自分の付き合いにこちらを巻き込むことはしない。
友達が絡みに来ると、わたしからさり気なく距離を置いてこっちに注意が向かないように気をつけている様子だ。
だけど昼食のときと、帰宅するときだけは他の人間をきっちり遮断して必ずわたしのところへ来る。帰りは時間も遅くなるし、夜道を一人にするわけにいかないから家まで送る必要がある(とやつが考えている)からだけど、もしかしてわたしがぼっちでお昼を食べる羽目になるのは内心忍びないとでも思っているのか。そこは他の連中を差し置いて、律儀にこっちを優先してくる。
きっと自分が誘ったわけだから、あまり寂しい状況にさせたくない気持ちがあるんだろう。人付き合いを面倒がってそっちにリソースを割かないのはわたしの勝手なんだしそこまで気を遣わなくてもいいのに。と思うけど、そこでいちいちやり合うのももっと面倒なので名越のやりたいようにさせている。
けど、名越と絡みたがる他の友達を放っとくにもさすがに限度があるらしく。昼食と帰宅するとき以外はそっち優先になりがちだ。
その日も休憩を取るために友達連中に誘われて教室を出て行く名越に構わず、一人黙々と手直しを続けるわたし。
あの子知り合いなんでしょ、どうして誘わないの?とかきっと陰で訊かれてるんだろうなぁ。まああいつのことだからなんか適当にいい塩梅に説明しといてくれるでしょ、そういうの得意なやつだし。
と頭の隅っこで考えながらうーんまだこの部分が荒いな。もっと綺麗に仕上げらんないのかな、イメージしてるのとどうしても現実は開きがあるよなぁ。と無言で自分に突っ込みを入れつつ内心で舌打ちしてたら、間近で急に声をかけられてそれこそ飛び上がりそうなほど驚いた。
「ねぇさあ。…あなた、名越の知り合いだよね。ぶっちゃけた話、二人はどういう関係?」
女の子の声。正直なところそっちに顔を向けるのも気が進まない。もう言葉の内容より何より、その声色を耳にしただけで脳内でアラーム鳴りまくりだ。
興味津々とか馴れ馴れしい、距離感ゼロ。みたいな迷惑だけど悪気がない陽の者のオーラではない。
明らかに最初から敵対的。答え方によっては喧嘩も辞さないよ、と言わんばかりに突っかかってくる声。…ああ、これ覚えある。以前学校でもあったよな、ずいぶん前に。
あの彼女ももう名越と別れちゃったんだよなぁと半分懐かしく思いながら渋々とそっちを向く。そう思えば大したことない。
今さえストレスフルなこの場を乗り切ればどうせみんな時の流れの中へと紛れて消えてく。あの彼女は結果的にわたしの元に宮路さんというファン兼友達を残してくれたので、全然無意味ではなかったわけだが。
わたしの真横に仁王立ちになって、こちらを見下ろして睨め付けているのはすらっと身長の高い大人びた雰囲気の女の子だった。
顔立ちはそんなに特徴的ではないが、化粧で上手く減り張りをつけた様子がやけにもの慣れていて彼女を大人に見せているのかもしれない。私服も美大志望の子らしく色遣いに気を配った洗練されたスタイルだ。自分をよく見せるのに気を遣ってるしそのスキルもかなり高いとお見受けした。
美術系には得てしてこういうタイプがいる。ていうか、自分の見た目に気を遣うか遣わないかでちょこちょこ両極端な人がいるよね。
アート系のやたらお洒落な格好をしてる側と、美的なこだわりは制作物と鑑賞する対象に全振りで自身は透明人間みたいに視点だけで他人からどう見られるかは全く構わない側と。もちろんグラデーションみたいにその間に点々とばらけてる者もたくさんいるが。
わたし自身はまあまあ中間に位置してると思いたい。まるで他人の目を気にしないわけじゃないけど言うほどこだわりもない。楽で見苦しくない常識的な範囲の好きなかっこをしてればいいでしょ、くらいの存在。つまりただの地味地味。
こんな意識高い系のアート畑のいけてる女子が人畜無害で凡庸でユニ◯ロ無印◯品なわたしに突っかかってくる展開、なんて理不尽なんだ。と割り切れない気持ちになる。普通に暮らしてればこの手の子の視界には入らないで済むはずなのに。つくづくと目立ちすぎる相方が恨めしい。
まあしかしあいつがいなきゃ、そもそもわたしが今ここにいることもないわけだから。今回の誘いに乗ったのは自分だし、文句言っても仕方ない。自業自得だ。
と割り切って気持ちを切り替え、なるべく隙を見せないよう努めてきっぱりとした口調で答える。
「高校の同級生で同じ美術部に所属してます。知り合いは知り合いですが、それが何か?」
他人にいきなり話しかけるならまず手前が名乗るべきだ。と説くべきか迷ったがそれは避けた。
話が無駄に長くなるだけだし。それに正直な話、特にこの人の名前を知りたいという欲求はない。あと返礼にこっちも名乗らなきゃいけなくなるのは嫌だ。これ以上の絡みは出来るだけお断り申し上げたい。
どうやら先方も特にわたしと親しくなりたい、という意識はないようだ。どう見積もっても友好的とは言えない態度で腕組みをしてふん。と軽く息をつく。
「ただの同級生で顔見知りってか。けどいつもお昼一緒だし、帰りも連れ立って帰るよね?それって付き合ってるってことじゃないの。別にあえて否定しなくてもいいのに」
謙遜はかえって嫌味だよ。と辛辣な声で言い放たれた。
いちいちこれに反証しなくちゃいけないのかと心の底からうんざりして、もうそういうことにして話を終わらせちゃおうかなぁ。とめげかけたが、いやそれって嘘だし…と何とか気持ちを立て直す。わたしだけのことならいいけど、相手のあることだしいい加減なのはよくない。
「本当に何でもないです。美術部で一緒だから、こういうのがあるよって紹介されただけ。単に自分が連れてきたから責任感で面倒見てるだけじゃないですか。わたしがあんまり、交友関係広げるのが得意な方じゃないから…」
必然性を感じてないからな。と付け加えるのは心の中だけにしておく。
ここの予備校に今後通うつもりもないんだからこの人にどう思われてもいいわけだが、やはり過剰に露悪的なのはよくないと考えて表現の棘を丸めとくくらいの理性は働かせてるんだ、これでも。
もっとも彼女にとってはそんなわたしの些細な気遣いなどどうでもいいことで、軽く眉を上げて皮肉っぽくその台詞を受け流してみせただけだった。
「介護されてるってわけだ。けど、何でただの顔見知りの同級生に彼がそこまでしなくちゃならないのよ?普通に考えたらご飯くらい一人で食べられるし家にだって別に帰れるでしょ、子どもじゃあるまいし。それとも何か彼の弱みでも握ってんの、あなた?」
「いえ」
そこまで深い知り合いでもないんで…。としか思えず、しょうことなしに肩をすぼめる。
「言うほど個人的なことは知らないです。学校(と、絵画教室)で会うだけでプライベートでの付き合いってないから。ほんとに絵だけの繋がりなので」
彼の私的な部分について知りたいことがあるなら直接本人に当たった方がいいですよ。と素っ気なく付け足すと、彼女はちょっと怪訝な顔つきながらほんの少し声音を和らげて念を押してきた。
「そうなの?…お互いの家を行き来したり休みの日に会ったりはしない?絵を描くこと以外では特に関わり持たないってこと?」
「まあ。そうですね」
なんかやけに嬉しそうだな、表面上喜びを抑えてはいるけど。
やっぱりそういうことだよね。とうんざりする。わたしが名越にとって異性としては取るに足らない相手である、って事実が確認できればいいんだ。それ自体は別に隠すことでもないし他人に知れ渡っても構わないんだが。
そんなことを確かめるのにいちいち刺々しい態度で敵対的に接して来られるのが面倒くさくて敵わない。そっちは一回限りのことだろうが、わたしの方はやつを意識する女子が現れるたびに同じパターンで一から繰り返しなんだから、そりゃうんざりもするよな。
何となく、わたしがライバルとしては大して問題になるほどの存在ではない。と納得できたらしくだいぶ軟化した態度で、横のキャンバスの前から空いてる椅子を引いてきて(つまり今この場を外してる名越の使ってた椅子)わたしの近くにどっかりと座り込む。
どうやら腰を据えてここで話し込むつもりらしい。おそらく名越が戻ってくるまでの間のつもりだろうが、こっちはその間も集中したいから休憩も取らずに描き続けてたのに…。と文句を言うのも角が立つだろうから、かろうじて不満を飲み込んで再びキャンバスに向き直る。
何を話すつもりか知らないが、受け応えは描きながらでもいいだろう。話したいのはそっちの都合だし。
「そっかぁ、やっぱりそうだよね。正直おかしいとは思ったんだ。あなたあんまり、名越とお似合いのタイプってわけじゃなさそうだし…。てかほら、割と大人しそうというか。派手とか華やかそうな感じじゃないもんね?あっちはどう見てもいつも物事の中心にいる系の人っていうか。ぶっちゃけパリピだし」
「そうですか」
暗に(というかあからさまに)わたしのことを辺境の住民で地味地味なタイプだとディスってるよな、と思ったけど特に取り合わずに流すことにした。
事実はまあ事実だし、あえてそういう言い方相手に失礼ですよ。と注意してあげる筋合いもない。いつか致命的なポイントでやらかすことになったとしてもそれはこの人の問題なので。こっちの知ったことではないし。
彼女は気をよくした様子で、すっかり口も軽くなって機嫌よく喋る。わたしが再び自分の絵に取り掛かって筆を動かし始めたことなど気に留めてもいないようだ。
「本当に絵を描く仲間ってだけの付き合いなわけだ。そしたら幼馴染みとか家族ぐるみの関係とか、距離が近い理由も特にないの?向こうが面倒見なきゃって義務感抱くような。恋愛感情もないのにそこまでするって、どういう考えなんだろうね?」
何でそれをわたしに訊くかな。
「どうなんだろう。出来るだけこの先も絵を描き続けて欲しいみたいな感じなんじゃないですか。普段の言動から察するに」
「へぇ。推しの描き手ってわけか。…まあ、確かになかなか綺麗に描けてるかなとは思うけど。なるほどねぇ、こういう系が好きなんだ。あいつの好みの絵柄って」
そりゃ別に悪くはないけど。と腕組みして横から覗き込み、意味ありげにそこで言葉を濁して切る。
どうやらこの人にはわたしの絵は特に刺さらないようだ。いや名越や宮路さんの方が例外で、普通は大概そんなもんだと思うけど、当然。
「しかし他人の絵なんか推してる場合かね。あいつの方がよほど巧いと思うけど。…そしたらわたしが名越を狙っても問題ない?それともあなた、彼に片想いしてるとか。向こうに気がなくてもいつかはあわよくば、とか考えてる?」
「それはないので。どうぞご自由に」
素っ気なく答えて丁寧に鳥の翼の輪郭をなぞった。軽さとか儚い透明感を出したいけど難しいな。名越はああ言ったけど、テクニックはやっぱりあるに越したことない。脳内のイメージを的確に表現するにはどうしても技術が要る。
真面目っ子だねぇ、と彼女はそんなわたしの様子を眺めて大袈裟にため息をついてみせた。
「まだわたしたち二年生でしょ。受験対策本格化するのは三年からでも遅くなくない?どうせ現役はいくら頑張ったって浪人生には追っつけないんだしさ。気楽にやろうよ、ニ、三年間ほど手あたり次第にいくつか美大受けてれば。そのうちいつかは数撃ちゃ当たるって」
どこぞのお嬢様の発想か。お金持ちのお家の余裕、なんか腹立つなぁ。
大学に受かるためにしてることではないので、と弁明しかけてまあどうでもいいか。と思い直す。
多分この人にとってはそれも関心の外だろうし。わたしが彼女の話に興味を持たずに黙々と描き続けてるのを軽い気持ちで揶揄してるだけなんだ。何のために描いてるかを知りたいはずもない。
本当にただ自分の話を聞いて欲しいだけらしく、彼女は座ってる椅子をずり。と引きずって前に出て、わたしの方へと上体を寄せて声を落として尋ねてきた。
「…ところでさ。あなたがわたしと競合しない立場なら武士の情けで教えてもらってもよくない?…彼、今付き合ってる人いるのかな。この前から何かとそれとなく匂わせてみてもなんか上手く通じないみたいで。未だにそこら辺判然としないんだよね」
「はあ」
わたしは構わずぺたぺたと油絵の具を塗りたくりながら忖度なく受け流す。
「わたしが知ってる範囲では夏までは彼女がいたはずですけど。その後釜が出来たかどうかまでは知りません。そういう話をする間柄でもないんで」
「興味なしってか。それでも名越のことなら、普通にみんな噂で知れ渡ると思うけどねぇ…。あなただって友達くらいいるんでしょ。それとなく周りに探り入れてみてよ。それともまじでぼっちなの?」
性格悪いなぁ。言葉選びに難があるだけかもしれないけど、それでも正直わたしなら付き合いたいタイプではない。
まあ名越がこういう子でも気にならないってんならそれは自由だと思うが、と内心で肩をすくめる。こっちが横から口を出す筋合いはない。あいつが自分で判断すればいい話だ。
「…あいつに気に入られたいってことなら、下手に遠回しにするのは多分意味がない。率直に思ったことをぶつける方がまだ勝算があると思う」
「付き合ってる人いますかって?なんだこの女俺と付き合いたいのかよって思われない?がつがつしててみっともないなとかさ」
もっとさり気なく余裕持って接した方が好感度高くない?と不満げな顔つき。一応この人でも相手からの好感とか気にするんだ。まあ、そう言いたくなる気持ちもわかるけど。
「一般的な普通の男と同じ感覚の持ち主とは言い切れないので。放っとくといつまで経っても向こうからは来ないと考えた方がいいです。まず自分の方から行かないと永遠に進展しない。匂わせで反応するようなことはないけど、ストレートに切り込めば話は早いから。かわしたり流したりせずにちゃんと落としどころを見つけてくれると思う。その代わり、返ってくる球も直球だけど」
伝家の宝刀、必殺『俺好きな人別にいるけどそれでもいいなら別に付き合っても構わないよ?』だ。
もっともこの人がその関門を通過するかどうかは未知数。いかにもあけすけでストレートなやり取りに動じず応じそうなタイプにも見えるが。
名越がそこまでドライで割り切った性格だとは見越してない、もっとましな男だと誤認してそうな気もする。そつなくスマートで物腰柔らか、女性にも親切。くらいに思ってたらそんな扱いを受けて案外激怒するかも。
しかしもちろん、ここでわたしが事前にそのパターンを明かすわけにはいかない。
もしかしたら名越が急にこれまでの振る舞いを反省してきちんと誠実に対応しようとする可能性だってゼロじゃない。
そう考えるとわたしのような部外者が下手にやつの普段の行状を暴露するのもな…。あいつが過去はさっぱり洗い流して、これからは一人の女の子と真摯に向き合うと決めた。と決意してるのに、本人の預かり知らないうちにこの子や他の女の子たちどん引きされて、タイミングが噛み合わない。なんて成り行きは目覚めが悪い。まあ、十中八九ないだろうけど。
「…わたしはよく知らないけど。付き合ったことのある子から聞いた話によると、俺と付き合いたいならといろいろと条件を出されるそうです。その子のときだけだったのか、今でも内容は同じかどうかはわかりませんが」
「その条件とやらを呑めば彼女になれるの?全然余裕じゃん。思ってたよりイージーモードかも」
俄然やる気が出てきた。と言わんばかりにうきうきした顔つきでぐっと拳を握る彼女。
わたしは肩をすぼめ、なるべく私情を交えずに淡々とそれに受け応える。
「わたしには何とも…。みんなが皆、諸手を挙げて受け入れられるような簡単な条件じゃなさそうだな。としか。だからどのみち、直にあの男に訊いてみたら?そのあと急に態度が変わるとかよそよそしくなることもないと思う。あなたが条件に納得いかずに断っても、それで以後話しにくくなるとか距離を置かれることもないんじゃないかな。細かいこと気にしないし、いちいち根に持つタイプでもないから」
何故なら根本の部分ではそもそも他人一人ひとりに関心を抱いてないからな、あいつは。
何となく周りにいる連中、ってくらいの感覚で友達全体をマスで捉えてると思う。本人にそう聞いたわけじゃなく、側から見てるわたしの勝手な憶測だけど。
だからそのうちの一人が特別に自分に好感を抱いたり、不信感を持って離れたとしても別に気に留めたりしないんじゃないか。適当に反射神経で後引かないように捌いたり、いなくなった相手のことは普通に忘れるだけだと思う。
こう言うとまるで人の心のないサイコパス扱いか。けどそれが、ここ一年以上何かと一緒にいるわたしの視点から見た名越について得た率直な感触かもしれない。
「ふぅん。…けど、どんな条件だとしてもさ。それ断って名越と付き合えるチャンスを逃す女なんてそうそういないでしょ。大体何要求されるか知らないけどさ。とにかくその場は了承しちゃえばいいんじゃない?あとでどうとでもなるでしょ、そんな細かいことは」
彼女はわたしの匂わせた脅かしにまるで怯む様子もなく、座り心地の悪い硬い椅子の上でゆったりと脚を組んだ。複雑な柄の凝ったデザインのロングスカートの生地の上からでもわかる脚の長さをこちらに見せつけでもしてるみたいに。
「それとも、みんなびびって引くってことはなんか変態的なこととか?まあ男なんて一見爽やかに見えても中身は結構あれなもんだし、彼だって例外じゃないか。けどさぁそんなの、のらりくらりとかわせば案外何とかなるもんじゃない?適当に応じるようなこと言っておいて、あとは宥めてほどほどのレベルにおさめればさ。コントロールできないこともなさそう」
「さあ…。本当にわたしには何とも。お付き合いを申し込んだ人以外には、ただ憶測の域を出ないので」
何なら多少変態的なことでもケースバイケース、場合によっては楽勝。とか彼女が自信満々に言い出さないようにとやや早口できっぱりと話の腰を折っておいた。
別に嘘は言ってない。この前の子や代々のやつの彼女が皆、他に本命がいても構わないならOK。と言われてたとしても今度も同じこと言われるとは限らないし。もう既に本命に振られたか、飽きて忘れたかもしれない。
「…まあ本気で付き合いたい気持ちがあるなら、当たってみる価値はあるんじゃないですか?多分遠回しに匂わせるとか雰囲気で何となくそっちに持ってくよりは、確率高いと思う。それでどん引くような条件だったら諦めつくでしょ。百年の恋も醒めるかもしれないし」
幸いなことに。と付け足したい言葉を飲み込んで、再びキャンバスの方へと意識を集中して忙しく手を動かし始める。あからさまに話を切り上げようとするわたしのやや失礼な振る舞いにむっとすることもなく、彼女は上機嫌に嬉しそうな声で応じた。
「いやいや余裕。多少やばい条件だって、名越だもん。全然そのくらい呑む価値あるよ。ありがと、あなたいい人だね。結構きつい言い方したのに、こんな風に後押ししてもらえるとは思わなかった」
後押し…。そうかな。
立ち上がって椅子を名越のキャンバスの方へ戻すと、さっき喧嘩腰に近づいてきたときとは打って変わって愛想のいい笑顔を見せて手を振る。
「とりあえずアドバイスに感謝するよ。せっかくのチャンスだから当たってみるわ。まあ、少しくらいヤバげな条件でももうちょい何とかならないか?って粘り強く交渉すればワンチャンあるでしょ。てかまだ席空いてるといいけど。夏からじゃだいぶ経つし、もう新しい彼女作っちゃったかもな…」
いや逆に既に別れてるかも!と明るく言われてもね。リアリティあるかないかといえばさもありなん。ってのは内心わたしも思わないではないけど…。
上手くいったら何かお礼するね!と言い残して足早に教室から立ち去ろうとする彼女。どうやらさっそく今から名越に当たってみるつもりらしい。全くもって話の展開が早い。
「は。…頑張ってください。是非」
わたしは毒気を抜かれた声でぽつりとおざなりに激励し、彼女が出ていった扉の方へ軽く頭を下げた。
それから息をついて気を取り直し、何とか頭の中で完成してる絵面に目の前の現物を少しでも近づけようと真剣にキャンバスの表面で筆を走らせた。
《第13章に続く》
美術予備校の講義は実際にはもっとシビアなんでしょうか。まあそこは、まだ受験まで間がある二年生だからってことで。恋愛をしている暇など現実にはあまりないのかもしれませんが。
ここでも名越の特性は如何なく発揮されていて、割とつるんで群れたがる学生が多い場所ではほどほどに求められる程度には付き合いに応じる、という癖が出ています。
高校美術部の方がむしろドライでクールなのは、所属してる人たちの性格の傾向によるんでしょう。予備校も校風やクラスによっては全然交流もなく口も利かない、ってこともあり得たと思います。仲良しグループじゃないんだからさ…。
美術系の人はお洒落度やコミュ能力がどちらかに両極端全振り、というのはわたしの勝手なイメージかもしれません。おそらくはぱっと見た目でどの人が美大生かわからないくらい、特に決まったタイプなんてないんでしょうね。現実には…。




