第03話(1)
「この花は預からせていただきます。
準備してから後ほど、お姉様の元に合流しますので、その時にまたお会いしましょう。」
目を輝かせて話すフランソワに、イヴは少々気負い気味。
この花屋の店長さん、色んな意味で大丈夫・・・よね?
「はい、分かりました。
・・・あのー、ご協力は営業に支障のない範囲でいいですからね。」
「お気遣いありがとうございます。
もう間もなくスタッフが配達から帰ってきますので、その者と店番を交代しますから大丈夫ですわ。」
あ、準備というのはそういう事か。
「では、また後で。」
「はい!」
最初の怒りの形相はどこへやら。
イヴは満面の笑みで見送られ、園芸店を後にした。
イヴの気配が消えてから
「話は聞きましたね?」
フランソワの背から、シュルシュルと金色の蛇が姿を現した。
魔法使いフランソワとしての使い魔だ。
「この花が元々あった場所を探し当てて下さい。
違法な場所のようですから、邪魔だてする者は全て処分して結構ですわ。」
金色の蛇は軽く頷くと、静かに地面へと姿を消していく。
フランソワは店内に戻り、事務室のロッカーから愛用の鞭を取り出した。
鮮血の鞭または薔薇の鞭と呼ばれるこの鞭。
無数の棘があり、締め付ければ吸血を始め、敵をミイラ化させて殺す凶悪な武器だ。
普通の者が装備すれば呪われてしまういわくつきの武器なのだが、フランソワは例外で植物に由来する武具に関しては一切呪われる事がない。
これはフランソワの魔力によるユニークスキルで、彼女以外にこの能力を得ている者は皆無だった。
「もしお姉様に盾突くような輩でしたら、私の茨で絞め殺してあげましょう。」
フランソワの語る準備とは、ケイトの敵になる者を全て殲滅する為の下準備、という事が正解のようである。
城下町北西部の端。
国外から流れてきて、冒険者や事業などに失敗して行く先を失った者たちがたどり着くスラム街がある。
護衛団でも持て余している箇所で、年々悪化の一途をたどっていた。
そんなこの場所は、国が認めていない非公認の組織の者たちがスカウトに訪れる場所。
盗賊ギルドの巡回ルートになっている。
こういった危険区域は、護衛団とニードルの共同管轄区域として扱われていた。
言うなればニードル(王国承認暗殺ギルド)とは、サット(特殊急襲部隊)の様な存在に位置付けられているのだろう。
女王エレナは、就任後この地域を徹底的に活用していた。
盗賊ギルドに通じている腐敗した貴族どもを始末する為に。
王宮魔法陣の面々が、アリサの祖母マサリナを除いて圧倒的に若い顔ぶれになっているのは、そういった理由もあった。
無能だけでなく悪行に手を染める貴族など、国の恥でしかない。
徹底的に首を落とす。
それが女王の狙いだった。
それ故にスラム街の改善に着手の手が伸びにくく、そのままとなってしまっている。
しかし要因はそれだけでなく、もう一つあった。
ここスラム街に存在する地下迷宮だ。
古の世界の遺物である地下の大下水道とも直結しており、下水道に魔物をはびこらせている原因になっているとも言われていた。
だが、ここの魔物の強さは中級で、初心な冒険者ではパーティーを組んでも全滅するのがオチである。
そんな迷宮に挑み、満身創痍の状態で地上に戻ってきた冒険者たちの前にケイトは立っていた。
男3人が前衛、女3人が後衛の典型的な6人パーティーね。
「地下探索、御苦労様。
スタミナのポーションをあげる代わりに、情報を提供してくれないかしら?」
「高級なポーション6本との見返りって、どれだけヤバい情報を知りたいんだ?」
・・・母さんの手作りだから、市販品と違って高級でもないんだけどなー。
まあいいか、そう思ってるなら。
「ここの地下迷宮、都市伝説みたいな話があるって聞いた事あるんだけど。
よかったらそれを知ってるだけ全て教えて頂戴。」
「・・・そんな情報でいいのか?
他の奴らに聞いても良かったんじゃ?」
「経験上、男だけのパーティーとか、女だけのパーティーとかって、ロクな奴に会った事ないのよ。
その点、あなたたちなら男女混合だし、満身創痍だけど統率はとれてる感じだったからね。」
・・・まさか、お祖母ちゃんの占いの結果、だなんて言えないしねー。
「監察官みたいな物言いだな。
分かった。
ただ、時間も時間だ。
できるならゆっくり食事をしながらにしたい。
キルジョイズの酒場で午後7時に待ち合わせでいいか?」
「いいわよ。」
「即答だな。
俺はカイル。
このパーティーのリーダーをやっている。
俺の名前で個室を予約するから、酒場にきたら俺の名前を出してくれ。」
「分かったわ。
じゃあ午後7時に会いましょう。」
そう言葉を交わし、皆この場を離れていった。
ケイトと離れた後、
「どうする、カイル?
あの事も話すか?」
右隣を歩いていたエルフの男が聞いてきた。
「とりあえずは、あの迷宮の都市伝説を話してからだ。
何が目的で冒険者でもない女性が探りを入れているのか、それが明確になってからの方がいいだろう。」
すると、左隣を歩いていたドワーフの男がうんうんと頷く。
「だな。
それが無難だ。
目的が同じなら嬉しいんだが。」
それはケイトの祖母ベレッタの占い通り、同じ目的になるのであった。