第28話(2)
レグザが爆炎系の魔法を詠唱する中、対峙していたフランソワが素手の状態で至近距離に近付く。
「沈黙の魔法だけが対抗手段でない事を教えて差し上げますわ。」
すると、フランソワは近付いただけなのに、レグザの詠唱していた魔法の魔力が消え失せていった。
レグザが歯ぎしりする。
マジックドレイン(魔力吸引)か!
この女、詠唱してもいないのにどうやって発動させた!?
驚きのまま、レグザは早くも討たれる事になる。
フランソワの袖口から金色の蛇が姿を現す。
蛇の身体が全て出たところで尾の辺りを握り、鞭のように扱う。
使い魔を手にした、生きた鞭。
蛇の牙がレグザの身体を切り裂く度、レグザの身体が薄くなる。
この蛇、まさか・・・!
「私の使い魔コアトルは、アストラルボディーすら喰らいます。
塵も残しませんわよ。」
「ち、ちくしょおおお!」
我儘なレグザの哀れな叫びが、最後の断末魔となり消え失せていった。
暗黒騎士は黒いフルプレートメイルの重装備。
必然、動きは遅くなる。
これで大きな楯を構えていれば立派なタンカー(囮役)だが、こちらはクレイモアのような大型の剣を手にしていた。
間合いでは槍の方が上手だが、完全防備の鎧を相手にどう戦うのだろう。
何度突こうが硬い装甲で弾かれ、その度に大剣の一振りがライガを襲った。
辛うじて躱すも擦り傷が増えていき、徐々に出血が目立ち始める。
明らかに圧倒的不利に見えたライガであったが、暗黒騎士の容態が突如急変した。
バキッと音がしたかと思うと、鎧の継ぎ目が次々に割れていき、重装備の鎧が剝がれていく。
「ようやく効きよったか。
我の技も使えるという事かな。」
穂先を震わせ振動を相手の防具に送り込む破壊技。
これが身体に伝わると身体がもたない筈だが、フルフェイスの鉄仮面が割れた時、その正体が明かされる。
「骸骨の騎士、スケルトンウォリアーか。
輪廻に従い、成仏せい!」
鋭い最後のひと突きは、骸骨の身体を粉々に打ち砕いていた。
サリナ大司教とアークデーモンの一騎打ち。
サリナの圧倒的なパワーに屈するかと思いきや、それは外れていた。
アークデーモンから間合いを詰め、上から振り下ろすようなローキックを放つ。
サリナの倍の身長はある悪魔からの直接攻撃は、重く鋭い。
それが数回続いたかと思うと右拳のストレートパンチをジャブのごとく連撃。
本当に右腕1本の動きなのかと思わせる技に、サリナがたまらず後退した。
このアークデーモン、どこで仕入れた知識なのか知らないけど、空手かキックボクシングの技を熟知しているわね。
アークデーモンは後退したサリナを見て軽く挑発する。
「聖女であるそなたは柔術が得意だと聞くが、我にその技が簡単に使えるとは思わぬ事だ。」
聖女であるこの私の身体に打撃を与え、尚且つ聖属性の気に触れても意に介さない上級悪魔がいるなんて。
「フ、フフ、これは神に感謝すべきかしらね。」
「なにぃ?」
すると徐々に青白い闘気が湯気のように上がっていくのが肉眼で見えてくる。
そして、ドゥッとアークデーモンの左脚に、サリナの鋭いローキック。
先ほど攻撃を喰らっていた脚とは思えぬ強い打撃に、アークデーモンの膝が折れそうになった。
「馬鹿な!?きさまぁ!!」
続けて放つストレートパンチをアークデーモンは両腕でブロック。
しかし腕は腫れ、打撃のダメージをまともに受けていた。
アークデーモンと同じ攻撃技で、格の違いを見せつける。
「私は柔術しか使えないと言った事は一度もありません。
勝手な勘違いは困りますので、徹底して教えてあげましょう。」
ブロックされても構わずにジャブを放ち続け、両腕のガードが緩くなったところに鳩尾を打つ。
よろめき倒れそうなところを左拳で顎をアッパー。
アークデーモンの身体を無理矢理起こして直立させる。
そしてまた右拳のジャブ、右脚のローキックと、単調だが細身で小柄な女性とは思えない重い連撃に、アークデーモンの身体はボロボロだ。
フィルに敗れた鬼女が凝視する。
この娘といい、あの聖女といい、何なんだこの国の人間どもは。
「・・・凄まじいな・・・まさか、早くもこれを使う事になるとは・・・。」
アークデーモンは腰に帯剣していた長剣を鞘から抜いた。
サリナの拳を弾き、右手で剣を構える。
「聖女の聖属性防壁を無効化させる長剣だ。
私の纏っている服とセットの武具でな。」
言いながら片手持ちを両手持ちに変え、ゆるりと構えた。
サリナの連撃が止まったからか、アークデーモンの身体が徐々に回復していく。
自己再生能力が高い。
それを遠目で見ていたヴェスターが、訝し気な表情をする。
「あの剣は・・・まさか・・・。」
フランベルジュのような大剣を大きく振りかぶり、サリナに向けて振りぬいた。
見え見えな動きの剣戟など容易く躱せる。
その躱せたという思い込みが、意外な展開を招く。
ザン!と空を斬ったかのような勢いと共にサリナが血を流し、地に伏した。
・・・完璧に躱したはずなのに何故・・・!?
「終わりだ。」
もう一度大きく振りぬこうとすると、突如割って入ったヴェスターの剣に弾かれ、アークデーモンが数歩引き下がる。
「フ、まさか堕天使の剣を弾き返す者がいようとはな。」
「その魔剣・・・どこで手に入れました?」
ヴェスターの声に、いつもの陽気な声色は欠片として感じなかった。