第24話(2)
絶対絶命に見えた状況だが、ケイトの表情は変わらない。
普段から腰に帯剣しているレイピアにも手を伸ばさない。
簡単に悪魔の爪で切り裂かれてしまうかと思いきや、バチィ、と目に見えぬ何かに弾かれてしまう。
なんだ、こいつは・・・マジック・シールド(魔楯)の魔法か!
ケイトがニヤリとする。
「不思議よねー。
悪魔って攻撃魔法は平気で無効化するくせに、補助魔法や防御魔法は無効化出来ないんだもんねー。」
そう言いながらケイトは呪文を詠唱する事なく、両手で複雑な印を結ぶ。
両手の人差し指にはめた赤い指輪が妖しく輝いた。
「私のところに急襲したのが運のツキとでも思って。」
悪魔を囲うように、地面に円形状の亀裂が走る。
そして地面から炎が噴き出した。
悪魔の様子が豹変、苦しんでいる表情に。
火炎系の魔法など容易く無効化出来る我が何故・・・!?
しかも身動きが出来ん!
先ほどの印と、この円形亀裂のせいか!?
悪魔はケイトを睨むが、ケイトはまるで気にしない。
『貴様あ!
何をしたあ!!』
「え、喰らってて分かんないの?
ホールド(固定化)の魔法と、ファイヤー(火炎)の魔法の2つに決まってるでしょ。」
『我はどちらも無効化出来る!
だがこれは出来ん!!
どういう事だあ!!!
我が、我がこの程度の魔法にいいい!!!!』
「フィールドの外側から普通に魔法を唱えたら無効化されるの分かりきってるから。
だからフィールドの内側に直接魔法の効果を送り込んだのよ。」
悪魔に限らず、地水火風の攻撃魔法を無効化する魔物は、身体の外側に目に見えない膜を張っている。
その膜をこの世界ではフィールド(魔力障壁)と呼んでいた。
意図的に魔法で作り出すのは先述したマジック・シールド(魔楯)というが、両者は非常に似た性質を持つ。
この魔法を重ね掛けすれば無敵の楯が出来るというのは間違いないが、1箇所だけ楯になっていないところがあるのだ。
それは地面。
地中から攻撃される分は、この魔楯の効果が得られない。
であると、誰でも考えてしまう事がある。
魔法の効果を地面から直接送り込めないか、と。
実験を重ねた結果、魔法では不可能な事が判明。
しかし、魔術ではそれが可能。
その魔術は解魔術。
「解魔術に“ハッキング”っていうのがあってね。
悪魔の魔力の流れさえ分かれば、フィールドの内側に簡単にハッキングしてこっちの魔法を直接送り込めるの。
悪魔は敵に恐怖を植え付ける為か、いつも魔力ダダ漏れ。
ハッキングの能力さえあれば、ド素人の魔法使いでも悪魔を倒せるわよ。
あ、ちなみにその火炎魔法は一番初歩の魔法を継続化させたのだから。
ゆっくりと焼き殺してあげるわ。」
・・・!
この魔法使い、悪魔か!
悪魔が敵に悪魔と感じるのは、賛辞のようにも思えるがどうなんだろう?
『・・・グオオオオ!!!!!』
断末魔を残し、悪魔は消し炭となった。
「ちょっと、ケイト?」
サリナが恨み節のような重い声。
あ、やっば。
「・・・だって仕方ないじゃない。
最初にこっちに来るなんて思ってなかったし。」
「・・・まあいいわ。
こんな時の為の相手は用意していたから。」
ええ?
聖女とは名ばかりの鬼神の相手してもいいって、どこの馬鹿よ?
ケイトが驚きの表情をしているとサリナがジロリ。
「貴女、今失礼な事思わなかった?」
「いえ、まったく。」
語尾に、思ってましたと言いそうになった事はおくびにも出さない。
ジンがリディアを抱きかかえる。
「魔力を吸い取る蛭は手に入らなかった、か。」
ケイトは大した事ないと言いたげに掌ブンブン。
「何言ってんの、それくらい病院で対処出来るわ。」
語っていると、遠くからドクター・スノーがやって来るのが見えた。
「あれ、どうしたの?」
「どうしたのじゃないわ。
今日はアメリの定期診察の日。
なのにさっぱり来ないから、こちらから出向いたまでの事。
アメリを狙っていたようだけど、結局大丈夫だったんでしょう?」
「ええ、雑魚だったから。
あ、ついでで悪いんだけど、患者一人追加でお願いするわ。」
ドクター・スノーはリディアを見て、軽く首を縦に振る。
「分かったわ、アメリと一緒に診てあげる。」