第20話(3)
国がアーク・デーモン討伐を宣言した事は、その日のうちに城下町中に伝わった。
それは当然・・・というか真っ先に王城区域で暮らす貴族たちの耳にも入る。
ここで決まって聞こえてくるのは
「王城区域の警備はいつも以上に厳重にしろ!」
とか
「御庭番を王城区域の外に出すな!」
など、身勝手気まま我儘な図太い声。
エレナ女王はそんな声にとりあえず耳を傾けハイハイとは言うが、相手にしていない。
王城区域には、王城や貴族居住地区だけでなく、王宮護衛団本部、王宮魔法陣、王国承認暗殺ギルドなどがある。
どこの部署も化け物クラスの実力者揃い。
王城区域など、警備しているフリだけで十分よ。
それよりも・・・。
「室長、ケイトには誰を付けたの?」
「御庭番のフィルです。
おそらく相性はベストかと。」
「フィルか・・・。」
「どうかなさいましたか?」
「いえ、あの娘、常に遠慮がちだから・・・ね。
首級は他の者に譲ってばかり。
そろそろ本気の10分の1でもいいから力を発揮してくれるといいのだけれど。」
「・・・実力を封印したままで序列10位というのも、恐ろしいものがありますが。
それほどにフィルは凄いと?」
室長の問いに女王は不敵な笑みを見せる。
「凄腕の実力者を化け物と語る・・・その代表格よ、彼女は。」
冒険者カイルたち一行は、またも地下迷宮へ潜入していた。
奴隷商アラクネの用心棒レグザを見つけ出す為に。
ケイトの推理通りなら、間違いなくそこにリディアもいる。
王国がアーク・デーモン討伐を宣言した事を伝え、レグザが画策している事を止めなければならない。
しかし、マーキュリー伯爵の別宅、西区の毒花栽培施設、バーグラウト教団の施設は王宮護衛団の管轄下。
これら以外で適した逃げ場所というと、あそこしかないはずだ。
オークション会場の様な設備のあった、地下迷宮Cブロック。
マンホールから大下水道へ入り、直接Cブロックの扉へ向かう。
見ると、扉は半開きになっていた。
「・・・なんだ?
誘っているのか?」
シーマが警戒しながら扉を調べてみると、鍵が掛けられない状態になっている事が分かった。
「どうやら鍵が壊れているだけのようだ。」
カイルが軽く頷く。
「行こう。
レグザを探し出すぞ。」
いつも通り慎重に行動していた・・・はずだった。
人が通れるくらいに扉を広げると、何かがプツッと切れた感じがした。
音は無い。
扉にあった軽い抵抗みたいなものが無くなった、そんな感じ。
半透明な糸の切れ端が床につく。
「蜘蛛の糸か?」
そして突如として湧いて出たような殺気に、全員がその方向を見据える。
カツカツカツと聞いたことがあるハイヒールの足音。
最初に会うのはそっちの方か・・・!
「ほう、また会ったの、若き冒険者よ。
妾を捕えに来たのかえ?」
夫人の声に、カイルは剣を鞘に納めた。
「俺たちは護衛団の人間じゃない。
レグザに伝えたい事があって来たんだ。
可能なら伝言を頼みたい。」
「・・・伝言?
まあよい、聞くだけ聞こうぞ。」
「王国はアーク・デーモン討伐を宣言した。
だから魔人を造るなんて馬鹿な真似は止めろと。」
「宣言じゃと・・・?」
夫人は一言そう言うと、ホーッホツホッホッと高らかに笑う。
「この国はアレを相当甘くみておるの。
人ごときにアレがどうにか出来ると本気でお思いか?
答えは否。
アレを本気で倒すなら、それなりの相手を用意する事以外なかろうが。」
「この国の王を信用しない、と?」
「・・・信じて全て救われるなら苦労せぬ。
国が宣言するのは構わぬ。
だがの、用心するに越したことはない。
こちらは既に引き下がれぬところまで来ておるのじゃ。
・・・邪魔はさせぬ・・・!」
夫人が人の姿から、アルケニーの姿へと変化した。
「聞き入ってはもらえない、か。」
カイルが納めていた剣を再び抜き、構える。
ゴッセンはやれやれと言いたげな表情だ。
「侵入早々ボス戦かよ。」
夫人の戦闘行為は、魔人が生まれるまでの時間稼ぎ。
ここで時間をかけるわけにはいかない。
「手加減無しでいくぞ!」




