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第16話(3)

 王国承認暗殺ギルド“ニードル”のイヴは地下迷宮に侵入した際、魔力感知を仕掛けていた。

 開錠した扉をイヴの魔鍵で“開錠したままの状態”にした事で施錠出来なくなった扉。

 螺旋階段側から侵入した者が現れた時、即座にイヴに伝わるというものである。

 簡単に言えば侵入感知センサーだ。

「エル、一人あの扉から侵入した者がいるわ。」

「たった一人?

 ならたぶん噂の鉄仮面ね。」

「あーあのソロで動いてる冒険者かぁ。

 よく一人でやってるわよね。

 ・・・まだ動かないんでしょ?」

「まだよ。

 リディアの動く気配が見えてから・・・。」

 ここまで言うと、エルは黙り込んでしまった。

「エル?」

「これだけ周囲が騒がしいのに、リディアの影すら見えないのは不自然すぎる。

 既に殺された可能性も視野に入れるべきね。」

「え、あたしたち以外に殺そうとする人がいるとでも?」

 イヴの声にエルは

「馬鹿と話する趣味は無いわよ。」

 とバッサリ切り捨てた。

 なんでエルって見た目に反してこうも可愛げが無いのよ。

 イヴは即座に抗議する。

「誰か殺す相手に心当たりでもあるの?」

「あのねえ、イヴ。

 あそこは迷宮なのよ?

 まして未開フロアがあったとしたら、どんな得体のしれないモンスターが潜んでいるか。

 その危険性を知らないイヴじゃないでしょ。」

 ・・・そうだった。

 エルと二人で侵入してたけど、あそこはそういう場所だった。

「すっかり失念してたわ。

 エルと一緒だと、危険なフロアも危険と思わなくなるからねー。」

「・・・褒めても何も出ないわよ。」

「いや、褒めてないから。」

 これだけ会話を交わすと、エルがゆっくりと立ち上がる。

「イヴ、一応現場確認に行きましょ。」

「今から行っても、騒動は終わっていると思うけど。」

「終わっていれば気にする事無く動ける。

 ただの確認だから、むしろ終わってもらった方が好都合よ。」

「何を確認したいの?」

 するとエルはギロリとイヴを睨み、同じ台詞を吐き捨てた。

「馬鹿と話する趣味は無いわよ。」


 ケイトとドールとフランソワが地上に戻ると、既に夕方であった。

 しまった。もうそんな時間か。

「フランソワ、長々と引き留めて悪かったね。」

 するとフランソワはケイトの腕を強く抱きしめたまま

「お姉様となら、明日の朝まででも喜んでお供致しますわ。」

 と耳元に甘い息を吹きかけた。

 ケイトの全身を猛烈な寒気が襲い、鳥肌を立てる。

「と、とりあえず、今日はここまででいいわ。

 あ、ありがとう、ね。」

 全然有難くなかったが、とりあえずは一応の礼を言った。

 ケイトの家の前に来たところで、フランソワが別れ惜し気に腕をゆっくりと離す。

「ではお姉様、また何かございましたら遠慮なくお声掛け下さいませね。」

「あ、はい、はい。」

 フランソワが去ると、ケイトはようやく本来の体温を取り戻した気がした。

 ドールはその様子を無表情で見つめながらも

「お疲れさまでした。」

 と声を掛ける。

「ホントに、色んな意味で疲れたわ。」

 でもフランソワのお陰で戦闘が楽だったのも確か。

 無下にできないわよねー。

 “本気で戦っていなかった”とはいえ、あたしが手を出す必要無かったのは事実だし。


 スラム街のゴロツキ全員を瞬殺したあの実力は、フランソワにとっては微々たる力の一端に過ぎないらしい。

 騎士団や護衛団に入団すれば、間違いなく序列10位以内に食い込む実力者だ。

 だから国も寺院前広場の一等地に花屋の土地を与えている。

 間違っても他国に逃がさない為に。

 まぁ、ケイトがこの国にいる限り移住する事は無いと思うのだが。


 ドールは薬局の玄関から入っていった。

 それをケイトにわざと見せるように。

 あ、やっぱり例の猛毒は確保したのね。

 あんな猛毒、どうする気なんだか。

 ケイトはボリボリと頭を搔きながら家に入る。

 地下迷宮に入り浸りで全身埃っぽいなー。

 まずはお風呂でリフレッシュだ!

 持ってきた書物2冊を魔術探偵の事務所に置き、お風呂へと直行した。


 そんな中、薬局ではお客様がいた。

 ケイトの母アニスからドールに連絡済みだったようで、ドールも特に驚きの様子は無い。

 漆黒の美青年は座っていたが立ち上がり、ドールに対して一礼する。

「初めまして。

 王宮魔法陣“星界の陣”の長フィアナ様の左腕役でマルコシアスといいます。」

「ご丁寧にありがとうございます。

 召使いのドールです。」

 預言者の左腕。

 表舞台には姿を現さないという者が出てきたのは、やはり猛毒の件でしょうか。

 椅子に座りなおしたマルコシアスが語ったのは、もう一つあった。

「貴女が体内に収めた猛毒バーグラウトと、ケイト様がお持ち帰りした書物2冊。

 これを国に売却してほしいのです。」

 そちらもでしたか。

 背後に預言者フィアナがいる以上、迂闊な事は出来ませんね。

「了解致しました。

 提示される金額はいかほどに。」

「女王は50万リラを提示されております。」

 アニスは飛び上がりたい気持ちを必死に抑えているが、ドールに至っては無表情のまま。

 どんな金額であろうと、流れに飲まれる事は無い。

「1つ、こちらからの問いにお答えいただければ、売却しても宜しいです。」

「どのようなご質問でしょうか?」

 ドールは冷ややかにマルコシアスを見つめた。

「究極の蟲毒と言われた猛毒バーグラウト。

 これが“いわくつき”になったという真実をお教え下さい。」

 この声にマルコシアスは、一瞬言葉を失った。

 が、それでも想定していた範囲内なのか、静かに口を開く。

「貴女が人形だなどと、とても思えないですね。

 さすが女王が国民と認めた人形娘5人の1人なだけあります。」

 ケイトが欲しいのは情報のみ。

 あんな古ぼけた本の存在や猛毒の有無など、なんの意味も成さないのは分かりきっていた。

 真実は“いわくつき”になった理由そのものにある。

 教団まで出来てしまったほどの理由。

 それさえ知れば、物などどうでも良い。

 マルコシアスは続けて話し出した。


「では、ご要望通り蟲毒のお話を致しましょう。」

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