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第14話(2)

 ゴオオオオと響く、大きな何かが動いている地下の音。

 奴隷を監視している男たちは異様なこの音に焦っていた。

「なんだ?

 いったい、どこから来やがるんだ!?」

 このフロアに昇降機なんか無えーぞ。

 ・・・いや、確か開かずの扉が一つあったな、そっちか!

 開かずの扉に向かおうとすると、見知らぬ男が堂々と侵入してきたのに気付いた。

 金目当ての冒険者か?

「ん?なんだ、テメーは!?」

 突如やってきた男は、何も語らずに巨大な武器を振り下ろした。


「間もなく地下3階だ。

 俺とゴッセンがシールド・アタック。

 シーマとラナで弓矢の連撃。

 ミリアとミウはスパイダーネットの投擲準備。」

「了解!」

 気合い十分に意気込む中、昇降機が停まった。

 ガーッと扉が開く。

「ん? おい誰もいねえぞ。」

 ゴッセンの声は皆をより緊張にさせた。

 奴隷を閉じ込めているフロアなら、見張りがいるはず。

「昇降機の動きを警戒して近付いていないだけかもしれない。

 ゆっくり出るぞ。」

 最初にカイルとゴッセンが降り、続いてシーマとラナ、最後にミリアとミウが出てきた。

 左右に伸びた通路は静寂で、見張りはおろか奴隷の気配も感じない。

「ミウ、ディレクション(現在位置確認)の魔法を頼む。」

 シーマが右を、ラナが左を警戒する中、ミウがディレクションを詠唱した。

「カイル、位置は合ってる。

 地図通りだよ。」

 地図通りなら、右側の通路にある最初の扉が奴隷を閉じ込めている部屋の並びに出れるはずだ。

「よし、それなら右に・・・。」

 カイルが指示を出そうとした時、ギャアアアー!と男の断末魔が遠くから聞こえた。

「・・・いったい何が?」

 シーマとラナが弓を構え警戒する。

 誰かが先に侵入し、監視を殺しているのだろうか。

 それとも、監視に殺されたのだろうか。

 ・・・後者は考えにくい。

 監視に殺される程度なら、監視たちの声が普通に聞こえるはず。

「カイル?」

「予定通りに進む。

 シーマが斥候で先行、続いて俺とゴッセン、次にミリアとミウ、殿をラナが警戒してくれ。」

「分かった。」

 右側の通路を進み、最初に見えた左手の扉をゆっくりと開ける。

 するとそこは地獄絵図の様な血の海であった。

 見張りの男どもは皆、打撃系の武器で滅多打ちされ、全身が赤く染まって倒れている。

 カイルが一人一人確認するが、全員死んでいた。

「ハンマーか、フレイルか、モーニングスターか、強い打撃系武器なのは確かだな。」

 武器を推察していると、カツ、カツ、と近付いてくる足音が聞こえてきた。

 余程の自信家なのか、己の殺気を隠す事なく歩いているとは、やるな。

「シーマ、後ろに付け。

 俺とゴッセンが前に出る。」

 隊列を変え、身構えていると見た事のある戦士が姿を現した。

「鉄仮面・・・!」

 二つ名で呼ばれた戦士は、カイルたちが同業者だと気付くと構えを解いた。

 ウォーハンマー(戦槌)を手にしている。

「カイル・・・だったか、どこからこのフロアに来たのだ?」

 カイルたちも構えを解く。

「昇降機からだ。

 地下6階ホームのシェルターを解除して使えるようになった昇降機から来た。」

「あれ、か。

 よく解除出来たものだ。」

 ん?シェルターの事を知っている?もしかして・・・。

「ジンも巨漢の僧侶から地図を受け取っていたのか?」

「ああ、だいぶ前にな。

 だがシェルター解除の謎は解けなかった。

 やはりソロで動くのは無理がある。」

 ・・・そりゃそうでしょ。

 ラナは口に出さず素直にそう思っていた。

 斥候の一人も無しに迷宮に挑むなんて、無謀の代名詞でしょーに。

「奴隷は?」

「無事だ。

 これを渡しておこう。」

 カイルは牢屋の鍵束を受け取った。

「俺が探している女性は見当たらなかった。

 奥に行ってみる。」

 奥は、地図も未記入の場所だった。

 さっきソロで動くのは無理があると言ってなかったか?

「一緒に行動する気は無いか?」

 カイルからの申し出に、ジンは即決で

「すまんが断る。」

 と言い、その場を去っていった。

 皆がやれやれといった感じになる。

 鉄仮面な性格は変わらずか。

「・・・仕方ない。

 まずは奴隷の解放だ。

 牢屋を全て開けていこう。」


 カイルたちが牢屋に行くと、そこには白い目線の子供たちの姿が。

 牢屋を開けた時、カイルたちはこの世の過酷さを知らされる事になる。


「もう大丈夫だ。

 俺たちとここから抜け出すぞ。」

 そう言いながらカイルたちは牢屋の鍵を次々と開けていく。

 しかし、開けた扉を前に立ち上がる子供は誰一人としていなかった。

 なんだ、どういう事だ?

 まさか、洗脳されているとか?

 それとも、立てる力が無いとか?

 カイルたちがそう思っていると、一人の男の子が小さな声を出す。

「ここから出たら、どうなるの?」

「え? そりゃ自由に・・・。」

 すると他の子供たちも声を出す。


「自由って何?」

「ごはんが食べられるの?」

「布団で寝れるの?」


「それは、孤児院に行けば・・・。」


「孤児院って何?」

「僕の住んでた村に無かったよ。」

「お父さんとお母さんがね、僕のこといらないって。」

「孤児院ってとこでもいらないんじゃないの?」


「そんな事は・・・!」


「ここはいいよ。」

「ごはんもあるし、寝床もあるし、奴隷として売られれば、もっといいごはんが待ってるし。」

「路上で死ぬ事も無いし。」


 ラナが耳を塞ぎたい気持ちになっていた。

 ミウは吐き気すら感じていた。

 国外に点在する過疎な村々の子供たちの実態・・・。

 ここは、それを集約した様相を呈している。

 鉄仮面が鍵を開けなかった理由は、これか。

 重くなりそうな空気だったが、そこに大きな喝が入る。

「甘ったれるな!」

 普段は無口なミリアが大声を上げた。

「奴隷だ?

 自我を殺してまで生きようとするくらいなら死ね!

 意志があるなら死の直前までもがけ!

 汚いくらいに生き様を見せろ!!

 それが人間だ!!!」


 冒険者個人の過去など誰も知らない。

 それを深入りして聞くのはタブーとされている。

 ミリアのこの声は決して他人事ではない、昔の自分に重なった何かを見てしまったかの様な震えた声であった。

 カイルがミリアの右肩をポンと叩く。

「カイル・・・。」

 そして子供たちに現状を淡々と語る。

「ここでお前たちを世話していた男たちは皆死んだ。

 このままここにいても奴隷になる事も食事を貰える事も無くなった。

 静かに死を待つだけだ。

 生きたいならここから出ろ。」

 そしてラナに向き直った。

「ラナ、書いていた地図を子供の一人に渡してやってくれ。」

「え、ええ・・・。」

「あとはお前たちの心と足で決めろ。」

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