第09話(3)
ウェストブルッグ家では、人形娘ドールがケイトの父ヴェスターに、魔術探偵で受けている仕事について話していた。
ニードルの件も伝え、黒猫フレイアが奪ってきたファイルの写しを渡している。
「・・・なるほど、状況はだいたい理解しました。
貴族絡みの案件だと、王宮護衛団も動きにくいでしょうからねえ。
女王と王宮魔法陣のフィアナに話しておきますよ。」
「宜しくお願い致します。」
話していると、ケイトの母アニスがひょこり顔を出す。
「何かあったの?」
ドールは、ヴェスターに話した内容をそのまま聞かせた。
そして、
「ベレッタ様とキャサリン様は、既に御存じです。」
と付け足す。
「私もキャサリンも他の仕事で手一杯だけど、フランソワちゃんが一緒なら心配する事は無さそうね。」
アニスは安心してる様子。
ヴェスターもまた、
「冒険者カイルたちの話は私も聞いた事があります。
なかなか信用できるパーティーのようですから、大丈夫でしょう。」
と不安に思う事は何もないようだ。
むしろ、楽しそうな笑みを浮かべている。
「女王に奴隷商存在の話を聞かせたら、どんな反応をするか楽しみですねえ。」
蓋を開けずとも結果は見えている。
ブチ切れるのは確実だ。
挙句、自ら出向くと言い出しかねない。
そんな状況で女王護衛団の者たちを動かす事は出来ないだろう。
王宮騎士団も王宮護衛団も貴族相手では出方をうかがってしまう。
となると・・・。
王宮魔法陣が動く。
それもフィアナ直属の星界の陣が。
ヴェスターが奴隷商アラクネの話を持ってくる事は、フィアナは当然の如く予見していた。
星界の陣は、他の5つの陣を指揮する部署と言われているが、実はもう1つの顔がある。
悪質な貴族・皇族の排除役だ。
闇夜の陣が管轄する暗殺ギルド“ニードル”だけでは手に余る場合、隠密に処理する事。
貴族側は当然屈強のボディーガードを付けている。
だが、そんな奴らを歯牙にもかけない程の、常識外れな戦闘力を有した2人が星界の陣にいた。
フィアナの傍に、色白の美青年と浅黒の美青年がいる。
ヴェスターが、女王エレナ、室長ラングリッツ、フィアナの3人に話すため軍議室に集まった際、ヴェスターも初めてその顔を見た。
まさか2人を連れて軍議室に来るとは思ってもみなかったのである。
色白の美青年が挨拶する。
「初めまして。
ケルビムといいます。」
浅黒の美青年が挨拶する。
「初めまして。
マルコシアスといいます。」
天使の名を持つ青年と、悪魔の名を持つ青年か。
どちらも魔力の量が尋常じゃない。
本当に人なのだろうかと思う。
そして預言者フィアナが語る。
「今回は病院が絡んでいますが、ドクター・スノーは深入りしてきません。
なぜなら患者アメリは・・・だからです。
厄介な者は3人。
マーキュリー伯爵夫人の相手は、冒険者カイルたちとケイトに任せます。
用心棒レグザの相手は、マルコシアスに任せます。
用心棒ライガの相手は、ヴェスター殿に任せます。」
「は?
私・・・ですか?」
「ケルビムは私の補助役ですので、外への行動は控えさせていただきます。
ヴェスター殿、宜しいでしょうか?」
ヴェスターはニッコリと笑みを見せ、
「はい、お任せ下さい。」
と毎度楽しそうに語っていた。