第06話(3)
午後、カイルたちは再び迷宮を訪れる。
入手した鍵は、Bブロック地下1階の扉に合致。
慎重に扉を開くと階段が見えた。
壁には『B2B』の文字。
「Aブロックでは地下3階までの末尾がFではなくAだった。
ということは、B3Bまであるはずだ。」
そう言いながら階段を降りると、予想外の光景が目に入る。
小部屋のブロックが無い。
外周が廊下で、中心は大きな空洞となっていた。
吹き抜け構造の様で、下を覗けば地下3階の床が見える。
但し、手すりが無いので無闇に近付くのは危険。
更にもう一つ危険に思えたのが、
「・・・これ、蜘蛛の巣か?」
「デカいな。
迷宮都市伝説にある、巨大蜘蛛って奴の巣かもしれねえぞ。」
巨大な蜘蛛の巣。
カイルは、皆に戦闘態勢を取れと手で合図する。
皆が頷いたところで、カイルはゴソゴソと袋から何かの塊を取り出した。
午前中に倒した、デブ鼠の肉。
それを蜘蛛の巣に投げ入れて引っ掛ける。
すると、その振動と臭いを察知してか、下の方から素早い勢いで巨大蜘蛛が襲い掛かってきた。
「きたぞ!」
今度はミリアの精霊魔法が先制する。
ブレード(風の刃)の魔法だ。
動きを悪化させる為に、鼠同様に足を狙って斬る。
しかし硬い。
ダメージは与えただろうが、切断までは至らなかった。
巨大蜘蛛の皮膚は甲殻類並み。
単純にはいかない。
すると突如、巨大蜘蛛がカイルめがけて糸を噴射。
カイルの剣に絡ませた。
剣戟を鈍くする為に狙ってきたとしたら、恐ろしく知能が高い事になる。
だがそれは、カイルの狙い通りだった。
蜘蛛の糸が、蜘蛛と剣を繋いでいるうちに、袋から火炎瓶を取り出す。
それを見た蜘蛛が糸を離そうとするが遅かった。
蜘蛛の足元に火炎瓶が放たれる。
シャーッと声を上げ、苦しんでいるところにゴッセンの戦斧が右前足を切断した。
蜘蛛はたまらずに後退し、吹き抜けから下に急降下で逃げる。
しかし真下に逃げるというのは、弓使いにとっては非常に狙いやすかった。
ラナが苦笑いしながら、
「初心者用に良い的ね。」
と言いながら、もう1本の火炎瓶を付けた矢を、余裕で蜘蛛の身体に命中させる。
巨大蜘蛛は断末魔を上げ、今度こそ絶命した。
戦闘後、また宝箱が出るんじゃないかと期待した皆だったが、特に何もなく終了。
戦利品としては、下に降りて巨大蜘蛛を解体し、持ち帰るしかなさそうだった。
しかし購入していたフック付きロープでは、フックを地下1階の扉に固定しても地下3階まではどう頑張っても届く長さではない。
では、どうするか。
カイルが吹き抜けに張られていた巨大蜘蛛の糸の丈夫さを確かめ、
「これに結び付ける。」
と言い出した。
これには皆に反対されまくる。
「何考えてんの!
危ないに決まってるでしょ!」
真っ先にラナが吠えまくった。
シーマは別な意味で反対する。
「地下3階に降りる手段がこの吹き抜けだけとは思えん。
下のフロアに降りる階段が無いのなら、Aブロックの地下3階を調べてみた方が良いと思う。」
「はいはーい!
私もシーマに賛成ー!」
ミウがすかさず同意した。
ミリアは何も言わずウンウンと頷く。
ゴッセンも何か言おうとしていたが、やってきた方角を見て唖然となった。
「おい!
今来た階段が壁になってるぞ!!」
「何!?」
「ヤダ!!」
「嘘でしょ!?」
確かに壁だ。
触ってみても、扉の類も感じない。
「しまった!
一方通行の階段か!」
迷宮トラップとしては基本的な要素の1つである。
一方通行には、空間、壁、扉、階段と様々な種類があり、一度通過すれば元には帰れない地獄の1本道であった。
これはもう、カイルの案を強制実行する以外、選択の余地は無い。
フックを蜘蛛の糸に絡ませ、ロープを垂らす。
ロープは地下3階の床までしっかりと届いていた。
「じゃあ、俺から降りる。」
カイルは皆の喪失した表情を特に気にもせず、スルスルと地下3階まで降りていった。
「あーっ、もう!
分かったわよ!!
降りればいいんでしょ!!!」
続いてラナが降り、ミリア、ミウ、ゴッセン、最後にシーマが降りた。
全員無事に地下3階に到着。
そして最初にやる事は1つ。
「さあ、巨大蜘蛛の解体をしよう。」
「そうだ・・・ね。」
無事に仕留めた巨大な魔物であるはずなのに、何故かカイル以外の5名は意気消沈した様子であった。