第04話(2)
「ありがと。
大変参考になったわ。
まー私も噂話程度であの迷宮の話は聞いた事あったけど、探索する価値は低そうよね。」
ケイトの声にシーマが反論する。
「いや、意外とそうでもない。
解体した魔物の素材はそこそこ高値で売れる。
魔物は集団で出現するタイプが多いから、上手く討伐出来れば楽な稼ぎ場所だ。
だが、魔術探偵には無縁な場所だと思うが?」
「地下迷宮入口の奥にあるスラム街はご存じ?」
「・・・ああ、冒険者なら誰でも知っている。」
「そこで子供を誘拐されても誰か気付くかしら?」
この声に、カイルがガタン!と席から立ち上がった。
「やはり、あの周囲で誘拐が!?」
「私はある依頼で行方不明になった女性を探している。
・・・カイルたちは何故、あの迷宮に挑んでいるの?」
ケイトに聞かれ、カイルは皆の表情を見た。
皆、静かに頷く。
これは、話すべきだと。
冒険者のカイルは、席に座りなおしてケイトに1つ問う。
「・・・俺たちに聞き込みをしたのは何故だ?
偶然にしては、あまりにも出来すぎている。」
この問いにケイトは、ああ!と言いたげな表情をする。
そう言えば迷宮入口で会った時は言ってなかったもんね。
「私の祖母が占ってくれたの。
占術師なのよ。
普段は王城前広場で易者をしているわ。」
ケイトの答えに女性陣が、分かった!と声をあげた。
「ベレッタお祖母ちゃんの事でしょ。
よく当たる占いだって、凄く有名だよ!」
ミウの声にカイルが
「そうなのか?」
と聞くと、
「男性陣も少しは冒険職以外に目を向けなさいよ!」
と呆気なく言い返されてしまった。
まあ、占い好きは男性より女性の方が多い傾向にあるので、ベレッタの事を知らなくても多少は止む無しかと思うのだが。
カイルはゴホン!と軽く咳き込む。
「じゃあ、俺たちの事は祖母から?」
「私がやっている仕事の解決は、あなたたちのやっている事と繋がっているみたいなのよ。
私が持っている手掛かりは、萎れた花。
その花がどこにあったものなのか、私の知人が特定を進めているわ。」
カイルは、皮袋から鉄製の首輪と布の切れ端を取り出して見せた。
刻印がある。
M2023。
推測するなら、Mは男性、20は暦、23は通し番号だろうか。
首輪を付けていた本人が死んだからか、呪いの類は感じない。
布には血文字で、子供たちをアラクネから助けてくれと書かれていた。
「これをどこで?」
「・・・地下3階だ。
大下水道が繋がっているって言ったろう。
上流の方から必死に歩いてきたのか知らないが、下水道脇の細い通路に遺体があったんだ。
遺体と言っても、既に骨と化していた。
死んだ後、肉は魔物に食われたんだと思う。
その骸骨の喉元辺りに、鉄製の首輪が付いていた。
布の切れ端は骨になった手の中にあった。
もしかしたら、あの下水道の先に奴隷とされて捕まっている人たちがいるんじゃないかと思って探索していたんだが・・・。」
「目ぼしいものは何も無かったと。」
カイルは静かに頷いた。
そりゃそうでしょ。
簡単に見つかるような場所で奴隷商を営むわけがない。
「私は祖母に言われたの。
都市伝説の中に答えがあると。」
「・・・あんな眉唾な話に?」
「現実は噂話よりも奇怪なものよ。
地下3階に骸骨というのは、なんとなく墓守の存在に通じそうね。」
「墓守とは、アラクネから逃げてきて力尽きた者たちを弔う者だとでも?」
「あくまで可能性の話よ。
私は明日、知人と花のあった場所へと向かう予定。
何か分かれば連絡するわ。
宿は、この酒場の2階?」
「ああ、簡易寝台付きの安い部屋だ。
酒場のマスターに言付けしてくれてもいい。
俺たちは、もう一度地下迷宮を探索してみる。」
「では、あらためて宜しく。」
「こちらこそ。」
カイルたちとの話し合いは無事に終わりそうだった。