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パラレル

作者: 抹茶鷹

学校の課題でコンクールに出す作品です。せっかく書いたので投稿します。

 8月22日、よくもまぁご丁寧に毎年やってきては、木の幹にへばりついてミンミン鳴いている彼らも今年こそは暑さで全滅するのではないかと思われるくらい暑い夏の日だった。こんな暑さでも近所の小さい奴らといえば、庭にビニールプールを広げてキャッキャキャッキャとはしゃいでる。彼らに疲れはあるのだろうかを疑わざる負えない。まあいいさ、俺には関係ない話さ。朝日が差し込む部屋の中で俺は再び瞼を閉じた。

 エナドリを切らしていたことに気が付いたのは、重い頭を持ち上げただ何となく、パソコンのほうをボーっと見ていた時だった。

 切らしたエナドリを買いに行くという重大ミッションを前に、数週間家から出なかった俺の心と体は、猛烈な暑さを前に、ビクビクと聞こえてきそうなほど怖気づいていた。しかしここで諦めるわけにはいかない。カフェインと猛暑を天秤にかけ右肩下がりになるほど、俺のカフェイン中毒は軽くはなかった。

 俺は目的地のコンビニまでの道のりを頭の中でシュミレートし、せっせとママチャリを走らせる。川沿いなだけあってか、木陰も多く予想よりも2℃ほど涼しかった。

「ん・・・」

 ちょっとくらっと来た。あまりの暑さにやられちまったか?ま、コンビニでコーラもかうか。なんてのんきなことを考えていたのさ。

 そろそろ川から外れるな。なんて考えて気づいた。ここはどこだ?いや、知っている。いつものコンビニに向かう通りじゃないか。何も不思議なことなんてない。そのはずだ。でも直感が変だと告げている。なんだ?この意識と直感にずれが生じている感じは・・・。ま、気のせいだろう。事態が大きく動くのはそれから少し後だった。

 あれ?コンビニがない。コンビニがあるはずの位置には、黒く汚れたシャッターが数十年は上がっていないことを告げていた。いったいどうなってんだ?いつもこのコンビニにエナドリを買いに来てたじゃないか。道を間違えたか?

 辺りを見渡すと20メートルほどの位置に自動販売機があった。ママチャリをシャッターに立て掛け、興味本位でのぞいたソレに異質を感じたのは言うまでもない。ペットボトルに詰められた、いかにもドロッという擬音語が聞こえてきそうなほどのメタリックな液体。コンビニといい、自販機といい、何がどうなってやがる。

 ふと周りを見て気が付いた。さっきと景色が絶妙にだが変わっている気がする。具体的にどう変わったと言われればわからないが。さっきまで青かった空が、無機質な灰色になっていた。

 なにかがおかしい。でもこの街はそんなことを感じさせない。まるで、初めからこうでしたよ。と言わんばかりに振る舞っている。草木生い茂る田舎が広がっていた場所には沢山のビルと、その間を巨大な高架橋が通っているのが見えただけだった。改めて分かった。ここは異質だ。明らかに俺が元居た世界とは違う。異世界にでも来てしまったのだろうか。どうせなら小説でよく読むような魔法のあるファンタジーの世界がよかったぜ。トラックに轢かれなかったのは幸いだったが。気が付けば辺りはどこから湧いたのだろう人が歩きまわる、ネオン看板まみれの、レトロな街へと変化していた。

 どこまで歩いただろう。気がつけば俺は路地裏の薄汚れた階段を下っていた。雨でぐっしょりと濡れた髪やTシャツから水滴が滴り、ネオン看板が照らす淡い光と、雨粒が地面に叩きつけられる音だけが響いていた。

「こんなところで何してんだ。坊主。」

 見るとそこには40代半ばといったところであろう男が、階段下のベンチでタバコを加えていた。別になんだっていいだろ。俺がどこをほっつき歩こうが、俺の自由だ。

「まぁそんなカッカすんな。俺の横にでも座ったらどうだ。ずっと濡れっぱなしじゃ体も冷えるぜ。」

 余計なお世話だ。だが男の言葉も一理あるのは認めなくてはいけないだろう。癪だがな。

 しばらく沈黙が続いた。いかにも季節外れな皮コートとジーンズに身を包んだ男の髪は白髪も混ざっており、時代劇に出てきても違和感ないような容姿だった。ダサいとまでは言わないが、とても時代にあっているとは言い難いな。

「おまえ・・・違う世界から迷い込んだようじゃねえか」

 ・・・なんでそう思うんだ。

「服装が今のここのもんじゃねえ。短パンにTシャツとかいつの時代だよ。それに、まともなやつはこんなとこ来ねえさ。」

 納得いかねえな。時代遅れなだけで異世界人だと言い当てるのは無理があるぜ。あと俺はまともだ。

「・・・この世界は、どう感じる。」

 しらんね。俺には何もかもが未知の領域だ。

 ほかにすることもないので仕方なく喋っていたが、話を聞くにどうやらこの男は世界がどうのとやらにやたら詳しく、世界の行き来をする方法も知っているらしい。ならさっさとその方法を教えてくれ。

「お前に教えたところで無理だろうからな。代わりに俺が帰らせてやる。ちょうど雨もやんだことだ。」

 そういうと男はベンチから立ち上がり、歩きだした。すかさず俺もついていく。せっかくこの異世界とやらから帰還できそうなんだ。せっかくつかんだ紐を離すわけにはいかない。路地裏を抜け、ちょっと太い通りに出る。来たときは近代的な高層ビルが特徴だった街も、いまやレンガや鉄骨のレトロな街へと変化している。さまざまな建物が所狭しとぎゅうぎゅうに詰まっており、上のほうは道路に飛び出していて、そこらかしこにネオン看板が光っている。辺りを見渡すたびに、視界のネオンの光が尾を引き、光の軌跡を作っている。めまいがしてくる。電車らしきものが通る高架下を越えて行く。ふと男が足を止めた。これまたレトロな雰囲気漂うバーの隣、シャッターが閉じている建物だ。横には鉄の階段が剝き出しで設置されている。男はシャッターを開けると、これまた渋い車が顔を覗かせた。

「俺の愛車だ。傷つけるなよ。」

 そういうと男は車の運転席に座った。どこか知らないところにでも誘拐されるんじゃないかと思ったところで、現在進行形ですでに知らないところにいることを思い出した。ま、このまま何もしなくても迷子のままだ。いいさ、乗ってやるよ。

 車の中はタバコ臭かった。

 車がゆっくりと動き出すと、ネオン看板が男の口元を黄色く照らし、やがて流れていった。暗くてよく見えないが、たぶん少し笑っていたのだろう。

「車に乗ったはいいが、どうやって世界を越えるんだよ。」

「正確にはパラレルワールドだ」

 てっきり「お前には教えても無理だ」みたいな返答しか返ってこないだろうと予想していたので意外だった。

「パラレルワールドってのはたくさんあって、そのすべてが触れないように隣り合ってるもんだ。そんでもって、パラレルワールドは現実性ごとに別れてる。現実性が違うと、世界が違ってくる。おまえが元居た世界は比較的現実性が高い。つまり世界が現実を保つ。一方で、俺の世界は現実性が低い。だから世界が現実を保てずに常に変化する。さっき世界同士は触れない程度に隣り合っているといったが、現実性が低い俺の世界は絶えず変化するせいで隣の世界に干渉しちまうことがある。それを通してお前さんは迷い込んできてしまったということだ。」

 何を言っているのか大してわからなかった。数学だの物理だのの成績が赤点低空飛行の俺にはチンプンカンプンだ。

「なんでここまでしてくれる。」

「高い現実性は俺の世界には毒だからな。俺じゃなきゃお前は処分されてただろうな。俺に会えたおまえが幸運なだけだ。」

 おい物騒な言葉が出てきたよ。処分だって?なぜだ。

「ほら、ついたぞ。」

 気が付けばそこは見覚えのある場所だった。都会。少し進めばコンビニが見えてくるはずだ。

「おまえ、ここからわかるか?あいにく俺はこっちの世界はあまり来ないんだ。案内してくれ。」

 ここからなら何度も通ったあの川沿いの道だ。コンビニや道中の桜の木を見ると、改めて帰ってきたことを実感する。

「ありがとうございます。」

 最寄り駅まで送ってもらいそこでおろしてもらった。

「ああ、気をつけろよ。」

 そういうと車は静かに走り去っていった。

 気が付けば朝を迎えていた。眩しい太陽に照らされ窓を開けると、涼しい風が入ってきた。しばらく、こうしていよう。

 ここからはエピローグとなる。この冒険譚を友人の山本に話した時のことだ。あいつの聡明な頭であれば何か理解できるだろうからな。

「つまりはこういうことだよ。君は一軒家だからわかりずらいだろうけど、マンションとかホテルとかを思い浮かべてほしい。どの部屋も、部屋の形は基本同じだろ?でも、パラレルワールドの場合、部屋番号、つまり現実性が小さいほど部屋の形が毎日変わるんだ。で、あるとすればだよ。まれにその部屋が隣の部屋と干渉して二つの部屋間を行き来できるようになってしまう。君はそれを通って別の部屋、つまり異世界に迷い込んでしまったんだ。」

なんて迷惑な話だ。じゃあ高い現実性は毒みたいな話はどうなる。

「これは僕の推測になるけど、現実性は周りに伝達するんだよ。水に湯を入れた時にぬるま湯になるように、低い現実性の中に高い現実性、つまり君が長時間滞在すると、世界の現実性そのものが変わってしまうんだ。」

「それの何が問題なんだ。」

「部屋番号が001から002に変わったら、002号室が二個できてしまうだろ?でもそれだとおかしいから、融合して同じ部屋になろうとするんじゃないかな。」

「つまり、異世界同士が融合しちまうってことか。」

 俺の世界が異世界と融合すると考えただけでゾッとするね。あんな世界は二度とごめんだ。俺があっちの世界にママチャリを置いてきてしまったことに気がついてしまったのはそれから少し後のことだった。

 

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