鋼鉄街の断罪者
今宵もまた鉄の街に冷たい雨が降りしきる
この街は眠らない街 眠る事のない街
金属音 蒸気音 終わらない工事音
カンカン ゴウゴウ
雨音は掻き消えて 人々は息を潜める
何もないか
──いいや、ありました
何もないな
──いいや、ありました
願い虚しく今宵もまた仕事が舞い込む
夢は泡沫 喉はカラカラ 命からがら
どうかどうか 家族だけはと
ガタガタ震え ベタベタな言葉を並べ立て
何て事ないな
──いやそんな事は
何て事ないな
──いやそんな事は……!
悲痛な叫び虚しく 今宵も重油の水溜まりに赤を混ぜる
──どうでしたか
何もないな
──どうでしたか
何もないな
鉄の街に馴染んだこの心は 決して揺るぎはしない
今宵もまた鉄の街に冷たい雨がつき刺さる
この街は夢のない街 夢は許されぬ街
ボイラー音 ミキサー音 響き渡る轟音
ガンガン キィキィ
思考夢想願望 人々はとうに忘れた
何もないか
──いいや、ありました
何もないな
──いいや、ありました
嘲笑うように今宵もまた仕事が舞い込む
刺々少女 瞳ギラギラ 夢はキラキラ
どうかどうか 一度だけはと
この子もまた お約束言葉並べ立て
何故そんな事を
──君には分からない
何故こんな事を
──君には分からない!
怒り孕む慟哭 今宵も歯車の錆びに赤が飛び混じる
──どうでしたか
何もないな
──どうでしたか
……何もないな
鉄の街に囚われた心が 揺らぐ事は許されない
息が詰まる 息がし辛い 気が重い 空気も重い
また雨が降る 仕事仕事 仕事仕事 仕事仕事──
灰色の空 そろそろまた雨が降ると 見上げた先に 何かが光ったような気がした
あぁ そうか
今宵もまた鉄の街に冷たい雨が降りしきる
この街は冷えきった街 閉じこめるだけの檻
歯車音 モーター音 意味のない騒音
カンカン ギシギシ
音に紛れて俺は 鉄のマスクを捨てた
──何をしてる?
いいや別に
──何をしてる!
いいや別に
この街の外側に少し興味湧いてね
準備などない 予定もない 希望もない
「それでもただ」 「一度くらいは」
「外に出たい」 いつか誰かの言葉借り
止まれ戻れと 警告受け 足は止めず
まだまだただ 「止まれば死ぬ」と
鋼の心に鞭を打ち 目指すはあの鉄柵の向こう側
<あとがき>
7話位の連載にするつもりだったお話の「冒頭部分」を無理やり歌詞っぽくまとめた結果、詩だか歌詞だかあらすじだか分からない文体に仕上がりました。
元の設定では主人公は半分機械の元人間です。
人間の頃の記憶はなく、知識はあるけど感情に疎い感じ(伝われ)
本当は少女の台詞を「貴方には分からない」にしたかったのですが、文字数の都合で「君」になっちゃったっていう。
いつかリベンジしたいです。
ご高覧頂きありがとうございました。