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異世界でも可愛いは正義である

街に近づくとそこに住むスーダーや出入りする人達を見かけるようになった。

街につく頃には結構な人数が前門を出入りしていて賑やかになる。


それにしても、さすがは異世界。

俺はびっくりしてしまった。


だって人間だけじゃない。

いや、人間に見える人もカナカという別の存在だし。

実物を見るのは初めてだが、ゲーム等で見慣れている獣人やエルフみたいな人、ドワーフとかホビットぽい小さい人、完全に獣とか爬虫類っぽいのに普通にその辺のスーダー達と談笑しているものとか、とにかくざまざまな存在がいた。

割合的にはやっぱり人っぽいカナカが多いけど、本当、多種多様である意味カラフルな世界だった。


後、人っぽいけど人じゃないものもいる。

なんて言えば良いのかわからないけれど、存在感が違う。

見え方が違うっていうのか……。

俺がそういう人達を不思議そうに見ていたら、ネストルさんが、あればクエル化しているルアッハだと教えてくれた。

クエル化しているルアッハってどういう事かと聞いたら、ルアッハなんだけどクエルと同じように生活していて、クエルの生活様式と同化し始めているルアッハなのだそうだ。

どういう事なのかよくわからないが、そのままクエル化をし続けていると、やがて完全なクエルになってしまうのだそうだ。


何だ??それ??

異世界、意味がわからない。


よくわからなかったが、それは後でも考えられる。

問題は今は検問である。


可愛い可愛いミニマムネストルさんを抱っこして、俺はスーダーの街の検問に並ぶ。

並びながら、異世界から来て特に生まれの証明とかもなくて俺は本当に大丈夫だろうかとだんだん心配で青くなってしまった。

ネストルさんは荷物検査とか軽い口頭質問だけだから大丈夫だと言うけれど、本当に大丈夫なのか?!

緊張してぎゅっとミニマムネストルさん=ネルを抱きしめ、無意識にすーはーした。


「……コーバー、落ち着け。」


「いや、ですが……。」


「大丈夫だと言っておろう。」


「……でもネルはお金の事とか、スーダーの街の事を知っているようで知らないじゃないですか??」


「そ、それを言われると痛いのだが……とにかく大丈夫だから心配するな!!」


何をもって大丈夫と言うんだろう??

今まではアルバの森の中で、いわばネストルさんの家の中にいたようなものだ。

でもスーダーの街は、ネストルさんの治める地域内であっても、彼らの自治が行われている場所だ。

そこのルールに従わなければ、危険人物と見なされてしまう。


とにかく落ち着こう。

挙動不審ではかえって怪しまれる。


俺は落ち着くために、何か幸せな事を思い出す事にした。

幸いな事に、この世界に来て思い出せる幸せな事には事欠かない。


何しろさっきのあれは悩殺級だった。


小さくなったネストルさんは改まってこう言ったのだ。

ネストルがこの地域を治めるルアッハの名前である事を知っているものも街にはいるので呼び名を変えて欲しい、と。

ここまではセーフ。

だが!!

続きがヤバかった!!

小さい姿になってなでなでされてたら、子供の頃を思い出したからネルって呼んで欲しいって!!

しかも!そんなもじもじしながら言われたら!!


「……そりゃ!辛抱たまらんってなるじゃないですかっ!!尊すぎる~っ!!」


思い出して思わずクワッと声に出た。

前に並んでいる数人が怪訝そうに振り返る。

俺は慌ててそれに謝った。

いかんいかん、プラスの感情が爆発しすぎた。

これはこれで不審者まっしぐらだ。


腕の中のネルはもう何もツッコまず、遠い目をしている。

ヤバい!!

ネストルさんに嫌われる!

頑張って自制心を持たなければ!!

俺はグッと自分に言い聞かせた。


その後はとにかく不安に押しつぶされそうになるのと、テンションが上がりすぎてしまうのを心の中で繰り返し、やっと順番が回ってきた。


「はい、次の人~。」


そう言われ、ギクッとしてしまう。

やはり不安だ!!

緊張する俺にネルが大丈夫だからと声をかけ、ふわっと飛んだ。

いつの間にか、背中の羽がコウモリみたいになっていてふよふよ飛んでいる。

マジか、ネストルさんて飛べるんだ……。


「……次の人??」


「あ!!は、はい……っ!!」


思わずぼーっと見上げてしまい、もう一度呼ばれた。

ネルはふわふわ俺の周りを飛んでいる。

この世界では別に珍しくないようで、誰も驚いたりしていなかった。


「名前は??」


「小林夕夏です。」


「こ、コーバ……何だって??」


「コバヤシ・ユウキです……。難しかったらコーバーでいいです……。」


「ええと……すまん。では、コーバーヤッシュ・ヒューキー……いやユゥーキでいいかい??」


「あ、はい。」


どうもここではコバヤシユウキは言いにくい言葉らしい。

でも小林はともかく夕夏をキューピーと言ったネストルさんよりは近い発音をしてくれた。

ユゥーキなんてほぼユーキだし。

検問の人は俺と姿形が同じなのでおそらくカナカなのだろう。

カナカは似ているだけあって、発音も近いのかもしれない。


「え~と、コルモ・ノロの街には何をしに??」


「露店に参加したくて来ました。」


「ふ~ん??どこから??」


「アルバの森です。」


「……アルバの??マクモ様がいらっしゃる??」


「はい。」


「あそこにルースなんていたっけ??」


検問の人は荷物の方をチェックしている人と顔を見合わせる。

これは大丈夫だ。

ちゃんとネストルさんと打ち合わせをした。

俺は意気揚々と答える。


「最近、暮らし始めました!倒れていたところをマクモ様に助けて頂きまして、住まわせてもらっています!!」


「マクモ様に?!それは……凄いね?!」


検問の人は目を丸くしている。

アルバの森に住むって、凄い事なのかな??

まぁ、この地域を治めるルアッハの家みたいな場所に住んでるんだから、確かに驚くのかもな。


「ん~、ちょっと手を見せてもらっても??」


「手、ですか?」


「うん。」


そう言われ、どちらの手を出せば良いのかわからず、両手を出した。

検問の人が奥の人に声をかけて、何か水を持っていてもらう。


「ちょっとかけるよ~。」


「え?あ、はい??」


そう言って水差しから手に水をかけられる。

何だろうと思っていたら、ぼんやりと左手首に何か輪のように模様が浮かんだ。


「えっ?!」


「おや、本当にアルバの森に住んでいるようだね。これがあると言う事は、本当に住む事をマクモ様がお許しになっているんだな。」


検問の人は特にそれを不思議がるでもなく、書類を書き始めた。

俺は浮かんだ左手首の模様をしげしげと眺めた。

これがあるからネストルさんは大丈夫と言っていたのか……。

その模様は唐草模様みたいでもあり、文字のようでもあった。

いつの間にこんなものがついていたんだろう??

見つめていると、だんだん薄くなって消えてしまった。


「はい、もういいよ。」


「終わりですか??」


「ああ。マクモ様の息吹を纏っているんじゃ、他のどんな証明より雄弁だからね。露店を開きたいなら大通りをまっすぐ行ったところの商業許可所で登録しておくれ。後、この許可書は数日滞在のものだから、長期滞在を希望するなら街役場に申請しないと不法滞在になるから気をつけてな。」


「はい!ありがとうございます!!」


「いやいや、こちらこそ。長く仕事をしているが、アルバの森のマクモ様の息吹を見たのは初めてだよ。良いものを見せてもらった。」


書類を渡しながら、検問の人はにっこり笑った。

荷物を検査していた人も笑っている。

俺はいつぞやネストルさんが作ってくれた大きな布を風呂敷のようにして荷物をまとめて背中に背負った。


「まだあの方が御健在でこの地域を治めてくれているのがわかって嬉しいよ。」


「ここ何年も遊びに来なかったものなぁ。」


「たまに来て下されば良いのに。」


そう話す検問の人。

俺はちらりとネルを見上げた。


ほらね、ネストルさんは好かれてる。

遊びに来て欲しいと言われるくらい好かれてる。

来た時にネストルさんがもらったのは、皆の好意の現れだ。

脅されて奪われたなんて誰も思っていない。


ネストルさんもそれはよくわかったのか心なし赤くなり、照れて俺の背中にひしっとしがみついて隠れてしまった。

それを検問の人たちが微笑ましそうに笑う。


「ふふっ、そのふさふさな子はルアッハかい??随分、懐いているね?」


「あ、はい。」


「たまにいるんだ。ルアッハに好かれるクエルが。まぁ、マクモ様に息吹をもらうようなあんたなら、そういう事もあろうね。」


「前門をくぐれたという事はマクモ様が安全と認めた危険のないルアッハだ。今後も連れて歩いて良いと思うよ。」


認めるも何も本人なんですとは言えなかった。

くすっと笑って背中にくっついてるネルを見つめる。

自分が思ったよりも相手に好かれているというのは、嬉しい反面、とてもくすぐったいものだ。

ネルはグリグリと俺の背中に顔を押し付けている。

可愛い、可愛すぎる……。

検問の人もそんなネルを見て、ぽわわんと幸せそうな顔をしている。


「………ちょっと触っても??」


「ネル、触りたいって。」


「………嫌だ……今は…恥ずかしい……。」


「恥ずかしがり屋さん……なんて可愛い……!!」


わかります、その気持ち。

俺も背中にグリグリやられて、昇天しそうです。


こうして心配していた検問は、ネルの可愛さに周囲がノックアウトされるという、意外な形で幕を閉じたのだった。

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