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侯爵の裏の顔  作者: 刀洞 やや
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なやみの種が増える




 イザベラにできた精一杯は、考えさせてくださいと云うことだった。アッセマイン卿は頷いて、脚を組み、おやすみなさいと穏やかな声で命じた。イザベラは目を瞑り、眠った。

 目を覚ましたのは朝で、当然、アッセマイン卿は居なくなっている。普段なら眠ればどうにかなる頭痛は、どうにもなっていなかった。イザベラは苦労して化粧室へ行き、生理的な欲求を満たし、ベッドへ逆戻りした。

 女中が、イザベラの為にやわらかい牛乳粥を用意してくれた。イザベラはそれを食べて吐いた。医者が呼ばれ、イザベラは性質(たち)の悪い風邪にとりつかれていると診断がくだされた。


 イザベラは三日、寝込んだ。その間におそるべきシャーロットとその夫がロンドンにやってきて、アンは両親の待つお邸へ移っていった。アンはイザベラを心配していたそうだが、シャーロットはそうではないようで、アンがフィリップス邸を出て行くのとほぼ同時につかいを寄越し、イザベラを解雇すると伝えてきた。雇ってもいない人間をどう解雇するというのだろう。わたしが使用人らしく給金をもらったことが一度でもあったかしら。


 文句も不服も限りはなかったが、イザベラには反論したり抗議したりする体力がなかった。彼女はほとんど食事もできず、はちみつ水を飲むのが関の山だったのだ。

 風邪以外のなやみの種は、アッセマイン卿だ。彼は唐突にイザベラへ結婚を申し込み、それから毎日のように見舞の品を寄越してくれた。実際のところ、イザベラが飲んでいるはちみつ水も、彼から送られたはちみつが材料のひとつだった。あのひとは頭がどうかしているのかもしれない、とイザベラは疑っている。身よりも財産もない、親の居ない女を、それももう二十六にもなる嫁き遅れをめとろうというのだから。

 それともこれは、なにかの賭けなのだろうか。堅物の女をその気にさせたら勝ち、というような。もしくは、なにか大きな冒瀆的な行為を帳消しにする為に、大いなる慈悲心を奮い起こして、可哀相な女を救おうとしたか。彼はひとでも殺したんだろうか。


 いずれにせよイザベラは、婚約をした状態になっていた。もう婚約は発表されたという。彼女に断るという選択肢はないのだった。

 シャーロットから道端へ向けて放り投げるような仕打ちをされた今、文字通りに一文無しの彼女は、運よく掴んだ藁にすがるしか手はない。だからこれは、愛に基づいたものではなく、経済的な意味での婚約なのだった。




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