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侯爵の裏の顔  作者: 刀洞 やや
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ゆっくりと




 アッセマイン邸の庭には、泉があった。イザベラは日傘を持ってそのほとりに腰を下ろし、水面が揺れるのを見ている。

 傍らには夫が横たわっていた。彼はアンと仲間が書いた詩の本を枕に、眠っている。先程まで朗読をしてくれていたのだが、読めない単語があったようで機嫌を損ね、ふて寝しているのだ。




 彼とは話し合いを重ねた。イザベラは自分が黙りがちなのを自覚したし、夫がすぐにかんしゃくを起こしてしまって口下手なのもよくわかった。だから話し合うべきだと云い、彼は承知した。


 彼は、イザベラを最初に見た時はなんとも思わなかったと認めた。次に、たまたま外で見かけて、はずかしがってもじもじしているアンに飽きずに付き合っているイザベラを好もしく思った、と。

 イザベラにとっては、妹同然のアンに付き合うのは当然のことなのだが、親の不仲と無責任な育児方針できょうだい達との仲を引き裂かれている彼には、それは驚異的なことと映ったらしい。

 だから、フィリップス氏を通じてイザベラに求婚しようと思い立った。ほかの誰でもよかった訳ではない。イザベラだったから求婚した。そういうことだ。


 イザベラは子どものような夫の寝顔を、そっと撫でた。自分は()()をしている、と思う。彼にはあれから毎日、愛していると云わせているけれど、わたしはまだ云っていない。わたしは彼を愛している。それはわかっている。いつからだろう。求婚された時? 階段から落ちそうになったのを救ってくれてから?

 イザベラは気付いているが、目を逸らしていた。自分が夫に一目惚れしていたことから。そうでなかったら、礼を失してあのかたは誰ですかなんて訊かない。まじまじと見詰めたりしない……。


 彼の二面性のある態度は、このところうすまってきていた。イザベラが自分の母親や、シャーロットのような女性ではないと、ようやく確信が持てたようだ。それに、イザベラの噂に対して神経を尖らせていた部分もある。

 だが、彼はまだまだ、芯の部分が子どもなのだと思う。まともな親のもとにうまれず、危険な野山をひとりで歩くような育ちかたをした、大人になりきれていないひと。あんな憎まれ口を叩かなくってもいいのに。

「愛しているわ、ショーン」

 ショーンはかすかに身動ぎしたけれど、起きはしなかった。イザベラは、今度は起きている彼に云おう、と思う。

 アンだって、立派に独り立ちしたわ。わたしもそうならないといけない。わたしだって、ずっとシャーロットの云うなりですごしてきた。アンの為だと云うのは、半分はそうだろうけれど、()()()からあの家を出て行けなかったのも真実だ。彼もいろんなことがこわいのだろう。裏切られるのが。傷付くのが。

 お互いに成長して、手をとりあって、夫婦になればいい。まだきっと、間に合うから。




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