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侯爵の裏の顔  作者: 刀洞 やや
15/16

尊い魂は高邁な精神に




 十日ぶりに会ったアンは、元気そうだった。噂を聴いてしょげかえっているのではと不安だったイザベラは、彼女を見てほっとした。

「アン」

「イザベラ、よかった、元気そうね。ねえ、これ、贈りもの」

 アンは女中に本を持ってこさせ、イザベラの手に握らせる。「わたしと、お友達と、その詩人仲間とで出した本なの」

「あら……素敵ね……」

 イザベラが本を膝に置くと、アンはイザベラの気持ちを察したようで、先んじて云った。

「イザベラ、わたしの噂のことなら気にしないで」

「アン」

「大丈夫。いやなことを云うひとは居ないわ。お友達がまもってくれてる」アンは微笑む。「わたしはお母さまに似た体型だから、お母さまとわたしを同時に見たひとはあんな噂信じないわ。それよりも、お母さまが迷惑をかけて、ごめんなさい」

 アンはいつの間にか、おどおどした少女から立派な淑女に成長していたようだ。イザベラの手をとって真剣にわびる様子は、もう内気ですぐ赤面するアンではなかった。


 アンは、くわしいことの経緯を知っているようだ。シャーロットが無給でイザベラを働かせていたことも知っていて、それも謝ってくれた。「これからは、わたしがきちんとお母さまと向き合うから」

「……ええ」

「だから、わたしにちょっと汚名があるくらいは、仕方がないのよ。お母さまのまいた種だもの」

 それは、理屈は通っているのかもしれないが、イザベラは納得できなかった。







 夫の云ったとおり、噂の出所はシャーロットだった。アンにまでその噂が波及していると知って、彼女は慌てて嘘を認め、結果的に社交界からはつまはじきにされている。領地に戻って家財の整理をはじめたそうだ。借金を返すには、多くのものを売らないといけない。

 アンは、フィリップス邸に戻っている。彼女はロンドンの水があったようで、友人達を得、詩を発表して話題になっていた。話題になるのは、半分くらいは例の噂の所為だ。だが、アンはそれを気にしていないらしい。


「わたし、働こうかと思っているの」

「え?」

 思いがけない言葉に、イザベラはアンをまじまじと見詰めた。アンは真剣な表情だ。

「あなたが教えてくれたから、初歩的なものだけれどフランス語とイタリア語はできるし、計算も得意よ。まだまだ、勉強すればもっとできるようになる。だから、ミスタ・フィリップスのお手伝いをするかもしれないわ」

「アン、大丈夫なの?」

「平気」

 アンはにっこりしてから、苦笑いになる。「どうしてかしら。お母さまにあれこれ云われるの、自分で考えなくていいから楽だったの。でも、それがなくなったら、いろんなことをやりたいと思うようになって、わたし、毎日楽しいのよ」




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