にこやかに
「レディ、妻を気遣ってもらってありがとう」
ショーンのいらだたしげな声に、イザベラはびくつく。やっぱり彼は……。
しかし、ショーンは続けた。「きちんとした医者に診せました。彼女はまだ若いというのに、首と肩をおかしくしてしまっていてね。おかしなことに、家事をよくする女中のような症状だそうです。あなたのお宅では彼女に自由に働かせていたらしいが、うちでは休ませる為に命令までしていますよ」
シャーロットの口が半分開いたが、声は出なかった。手首が曲がって扇子が落ちそうになっている。おかげでまぬけな顔ははっきりと見えた。
イザベラは夫を仰ぐ。夫はさげすむような目をしていたが、その目を向けているのはシャーロットにだった。
夫は一転、にこやかな表情になる。シャーロットがひきつった笑みをうかべた。なにかしらまずいことになりそうだったけれど、それは去った、と彼女は思ったらしい。その認識が誤っていることを、イザベラはわかっていた。ショーンはまだ不機嫌そうだ。
とても。
「ところで、我が妻に対する口さがない噂がささやかれているようですが、レディ、ご存じかな」
「え? あの。いえ。どのような噂かしら」
シャーロットは目をぱちぱちさせる。まつげがふわふわしていた。化粧はばっちりだ。
夫は無感情に云い放った。
「お宅のお嬢さんの本当の母親が、我が妻だというんです。お嬢さんは私生児だと、社交界ではもっぱらの噂だ。はやく妙な噂を消さないと、お嬢さんは結婚どころではなくなる」
シャーロットは顔面蒼白になり、その場に倒れた。