拳の果て、旅熊ベアーの真意!
ふとスナコはモヤが掛かった様に見える自身と熊との死闘を見下ろした。
ビシュッドシュッ!
「不思議な物だこうしていると戦っている我が身が他人の様だ……」
「ふっもしかしてこれは魂が抜け出た一瞬の出来事かも知れんクマー」
不思議な空間に重力も無く漂う二つの魂は不思議な共鳴を示していた。
「しかし熊は本当に語尾にクマー言うのだなクマー」
「おいおいお前までクマー言い出したらどっちがどっちか分からんだろベアー」
「そうだなベアー」
「だから真似すんなってクマベアー」
「ハハハ、済まぬでござるピョンよ」
スナコの魂は頭を掻いて笑った。
「……お前多分人間の中でもかなり変わったヤツだろクマー?」
(女装していたし)
「何を言う! 拙者人類の中でもかなりの標準的ジェントルマンともっぱらの評判ですぞ」
「ククク、本当かクマー」
ビシュッドシュッドガッ!!
こうして笑い合う二人の下でも、オートの様に相変わらず身体は闘いあっている。
「……何故、人類と熊は悠久の時空を超え闘い合わねばならぬのだろうか? 拙者先程から貴様の事が何やら他人とは思えぬで御座るよ……もしかして兄者??」
冗談の様に聞こえるが、スナコは熱い拳を交わす内にベアーに何か親しい物を感じていた。それは実は抱悶と幼い頃からじゃれ合って遊び合ったベアーが伝授した戦いの型であったが、彼には気付かない。
「兄じゃねーよ! フッしかし知れた事よこうして戦い合うのが熊と人類の宿命なのさクマー」
一瞬二つの魂の間に宇宙なのに哀しい空気が流れた。
「しかし……何故貴様の様な熱い魂を持った熊が田畑を荒し牛豚鶏をむさぼり喰うのかっ!? 人類の自然破壊が原因かっ」
「ハッ何だソレクマー?」
ベアーの魂は目が点になった。
「え、違うのか?」
「グルメな俺が生でバリバリ牛とか鶏とか喰う訳ねーだろ。それに野菜も嫌いだっ! 俺は専ら背中に背負った新巻鮭しか食わんし、無くなれば海で魚を捕るクマー!」
スナコはジトッとベアーの瞳を見た。
「その瞳に嘘偽り無しと見た! であれば犯人は他に……貴様は濡れ衣、人類代表として謝罪しよう」
「いや絶対アンタ人類代表じゃないっぽいクマー」
熊魂は軽く突っ込んだ。
「では、拙者達は戦う必要が無かった?」
「実は俺はあるご主人を探して旅をしてるクマー」
「ご主人? それはだ……」
二人の漢の魂が熱い拳を交わして遂に深く共鳴しようとしている瞬間であった。
ピィーーッピィーーーッ!!
しかし魂の感応空間は動員された交通警備兵のけたたましい笛の音で一瞬の内に搔き消された。
「ハッ!?」
「グア?」
(元に戻った??)
二人は一瞬の内に森の中、元の身体に戻っていた。
「イカンあの笛は交通警備兵達だ、本官さんの様に短魔銃を乱発するか知れん!」
ドシャッ
ベアーはいきなり座った。
「ウゴアア」
(ふっ貴様は実力を隠しているな? もう良いいい戦いだったよ、此処で観念しよう)
その姿を見てスナコは彼の真実を悟った。
「熊、もし言葉が通じるなら貴様は逃げろ! ここからひたすら北に行き志摩海岸の夫婦岩に辿り着けば神域故誰も来ぬわ! そこで魚でも取って夜まで待っておれ、早く行け!!」
(グアウオオーーーッ!!)
「へっ礼は言わないぜ……だが貴様の事は覚えておこうあばよっ!」
すくっと立ち上がったベアーは躊躇無く北に走って行った。
スタタッスタタッ
「お嬢さん大丈夫ですか!?」
「今熊の鳴き声がっ!?」
ガサッと林から飛び出て来た警備兵達はスナコを見つけると保護しようとした。
『キャーーッ警備兵さん達のエッチィ』
ドバシバシ!
スナコは片手で破れた胸元を隠しながら、警備兵の頭をボードでバシバシ叩いた。
「ハッお嬢さん胸元の制服がっ!? こら貴様ら乙女の胸元を見るな!」
「ハッ!」
警備兵達は赤面で敬礼して視線を逸らす。
「お、お嬢さん今熊の鳴き声が?」
キュキュッ
『エッチ熊なら私の胸元を破いてから南に向かって走って行ったわ!』
スナコは泣きながら嘘を付く。
「な、なんと乙女の服を破き東に? ええいエロ熊を捕まえろ行け―!」
「学園が危ない!!」
「了解!」
どどどっと、スナコに騙された警備兵達は走って行った。




