ブロス くまベアーの旅立ち
<わぁサッワ様お弁当持って来てくれたんですかっ嬉しい……>
<いや残り物だけど>
<サッワ様と一緒に食べた気になりたいので、鉄格子前に居て下さいね>
<はいはい此処で見てるから早く食べてよ>
<わぁー凄い美味しそう!>
(僕がイララを牢屋に閉じ込めたのに、こんなに喜んで演技か? いやココナ様の魅了の威力か。カヤちゃん僕はこれで良いのかな……)
等と先程の出来事を考えながら彼はどんどんと地下に進んだ。
重臣達の命令により地下魔ローダー庫では、数多くの整備員達が大急ぎで使える機体の整備を進めていた。
ガガガッギャーーッ
「おやサッワ様、こんな所に何用ですか?」
魔呂整備責任者のむさい男がサッワに気付いて話し掛ける。
「僕だって無精髭より美少女と話してたい所だけど、スピネルさんが向こうに行っちゃった以上いつ総攻めがあるかも知れないし、魔呂でも見ておこうとね。いい機体とかあるの?」
【くま牧場城】は【まおう城】よりも古い城なので、魔呂庫には今は物置代わりに古い機体が無造作に捨て置かれる様に並んでいる。
「一般兵用として何とか使える機体といや~今目の前に並んでるこのエリミネーターしか無いな」
サッワは目の前にならぶ古そうだがなかなかにイカツイ機体を見上げた。
「これがエリミネーター、なんだか強そうな名前だなあ」
「除草剤かなんか言う意味らしいっスよ。名前は強そうでいいんですが、今まおう城で新型が開発中とかでこれは型落ちの古い奴ですねえ」
「除草剤て、でも使える機体があって良かった。でも……なんか名有り機体とか無かったの??」
サッワは腰に両手を置き、不気味にお尻を振りながら期待して周囲を見る。
「ふぅ~~それが……ありやしたっ! 動かない機体のゴミ捨て場みたいな所探しまくってて、隠される様に一機だけありやしたゼ、見に行きます??」
「本当!? 行く行くっ」
早速二人は笑顔で走って行った。
ー魔呂庫最深部。
ここには既に【魔ァンプリファイヤ】が光を失い動かなくなった魔呂などが折り重なって捨てられていた。
「これですぜ、今でもしっかり生きててコンソールに浮かんだ文字はブロス」
整備主任はその壊れ魔呂達の山の中で一機だけ立つ機体に指を差した。
(前に乗ったVT25スパーダにどこか似ている気がする)
「ブロス、兄弟って意味か……乗っていい?」
「どうぞどうぞ」
サッワは喜び勇んでタラップを駆け上がった。
フィーーン
彼が操縦桿を握ると整備主任の言葉通りしっかり生きていてあちこちの魔法ランプが光り始める。
「使えるのかコレ?」
ポーーン
と、突然魔呂スキルスタンバイのブザーが鳴った。
「何スか?」
『魔呂スキルのランプが付いた』
「ええっ凄いじゃないスか!! どんなスキルっスか??」
整備主任は興奮気味に叫んだ。
「水スキル……? スピネルさんが居れば打って付けの機体だったな」
サッワは表示された文字を見る。その直後何かを思い付いた彼は、両手を水鉄砲の様に合わせて捨て置かれた機体に向けた。
「何スかそのポーズ?」
『水流銃!!』
ドシュッ!!
何の予告も無く組んだ指先から激しい水流が飛び出し、次の瞬間にはもう廃棄魔呂の胸に大穴が開いていた。
ドーーーーン!! シュ~~~
「スゲーーッ!」
整備主任は身を乗り出して目を見張った。
『使える……』
(これがあれば初撃で何機かヤレる)
サッワは思わぬ拾い物に多少自信を取り戻した。
「サッワさんは見た目は弱そうなのに魔呂の操縦だけは凄いっスね……あっ」
『いいよ、正直で良い。気に入ったよ』
サッワは彼にブロスの整備を念入りにする様に頼んでまた違う場所に走った。
ー熊牧場エリア
サッワが訪れた時は食事タイムだったのか、熊達は新巻鮭をむさぼり喰っていた。
ムシャムシャムシャ
「ガウッ」
(何だサッワがまた来たぜ!)
(物好きな奴だな)
熊達はサッワがお気に召さない様だが、彼はリーダーのベアーの元までやって来た。
(うっ怖い)
「君がリーダーのベアーだね?」
「ベア?」
(何だ?)
顔に傷のある巨大な熊が振り返る。
「前々から薄々考えてたんだけど、君達人間の言葉が分かるの?」
その言葉の直後、一斉に熊達が熊語でゲラゲラ笑い出した。
「ぐあぐあっ」
(今頃そんな事言ってやがるぜハハハ)
あざけりに構わずサッワは真剣な顔になった。
「言葉が通じるという前提でベアーに頼みがある」
「ベア?」
(何だよ)
「ココナツヒメにばれない様に君が一人でこの城を抜け、同盟領に行って抱悶様の生存を確認して、出来ればカヤ様とお二人を連れ戻して欲しい……」
「グアッガウー?」
(本当に同盟領で抱悶は生きているのか?)
サッワは首を傾げる。
(うっ分からん)
「頼むっもう君しか頼れる者はいないんだっ!!」
彼はとにかく頭を下げた……
「ウガーーッガウッ」
(いいゼ分かったよ。俺が抱悶ちゃんを連れ帰ってやるさっ)
熊のベアーはサムズアップすると、すぐに風呂敷に新巻鮭を満載しくるっと巻いて肩に担ぎあっさりと旅支度を完了させた。
「え、通じた!? 行ってくれるの??」
「ガウガウ」
ベアーは連続頷きをした。
ー裏門
ギギギ……
「いいかい、生き返った抱悶様は必ずニナルティナかユティトレッドに居る、まずは人口の少ないユティから行ってみてくれ!」
大外れである。
「ぐあ?」
(本当かよ)
熊のベアーは一応サッワを見て頷くと仲間の熊達に別れの挨拶をし、すぐに裏門から出て夜陰に紛れて森の中に走って消えて行った。
スタタッスタタッ
「頼むぞベアー……」




