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純喫茶まおうⅡ三献の珈琲


 ずいっ……

 貴城乃(たかぎの)シューネは二杯目までと違い、コーヒーカップを持ち上げた瞬間から何かに気付いた様にくわっと両目を見開いた。


「これはっ!」


 すぅ~~

 そしてそのままゆっくりと鼻を近付けると、珈琲の高い香りを楽しんだ後に先程よりさらに淀んだどす黒い液体を慎重に少しだけ口に含み、あたかも芳醇なワインの様に舌上でコロコロと転がして深い味わいを楽しんだ。


「ふふ」


 彼は満足気に含み笑いをすると同じ動作を繰り返し時間を掛けて珈琲を飲み続けた。


(ど、どんだけじゃ!? 化け物かこやつはっ!!)

(今のはかなりの塩と醤油とマスタード入れたのにシューネの舌は一体どうなっているんだ……)


「うふふ、今度も良さそうですわっ!」


 紅蓮と抱悶(だもん)が冷や汗を流す中、七華(しちか)だけが満足気にその様子を眺める。

 カチャリ

 やがてシューネは三度目も完全に珈琲を飲み干し満足気のままカップを置いた。


「大変美味しゅう御座いましたよフフ」

「マッ良かったじゃないの!」

「ふんっ良かったのぅ」

「……」


 遂にシューネは満足しお代わりを止めた。だが抱悶と紅蓮は逆に渋い顔になって無言ですごすご奥に引っ込もうとする。


「あいやまたれい!」


 ビクッ

 突然叫ぶシューネに背中が飛び上がる二人。


「何じゃい!」

(ドキッやはり醤油をどぼどぼ入れたのがばれとったか!?)


 ジト目で振り返る二人。


「この珈琲を作ったのは若君ですか?」

「い、如何にも」


 シューネは目を閉じた。


「この珈琲、一杯目は外交で乾いた喉を素早く潤す為にとわざとぬるく仕立てましたね」

「え、そうだったの?」

「ええまあ」


「そして二杯目は少しだけ濃いめにした上でさらに温度も上げ珈琲の味わいを引き立てた、違いますか?」

「そ? そーかも知れない」

「……」


「そして三杯目、喉の渇きも潤し珈琲もある程度味わった私に最後にさらに濃く熱い珈琲を出して満足感を演出した……違いますか!」


 シューネは自信たっぷりに言い放った。


「そ、そうだけど……」

(そんな問題か??)


 たじろぐ紅蓮の後ろで抱悶は小声で呟いた。


「こ、こやつの舌は温度センサーしか搭載されておらんのか!?」

(味わいとかどんだけバカ舌じゃ~?)


「凄いじゃない紅蓮くんいつからそんな技を身に着けたんですの」

「いやーまー」


 狙いと全く違う結果になり、紅蓮は何と言って良いか分からなかった。




「知らぬわ、帰るのじゃ紅蓮」


 だが帰ろうとする抱悶をシューネは手を出し止めた。

 すッ


「何じゃい?」

「どうだ近所の名も無き子供、私の家来にならぬか?」


 シューネの言葉に七華はビクッとする。


「え、何で、珈琲作ったのは紅蓮くんよね?」

(抱悶ちゃん関係無くない?)


 しかしその時、ぶるぶる震える抱悶ちゃんの頬を一筋の熱い涙が流れ落ちたので御座います。


「し、身命を賭して、お仕えしとおござ…………んな訳あるかーーっ! アホーーーッお前ら全員アホじゃーーアホの塊じゃーーーっ全員嫌いじゃーーーっワーーーーーッ!!」


 ズダダダ……


「ダッ近所の子供ちゃん何処へ行くの!?」

「ダッ近所の子供ちゃん待ってよ!」


 抱悶は泣き叫びながら走って行き、紅蓮も慌てて彼女を追い掛けて行った。


「……先程から何やら貴方達はダッとか言ってますがどういう意味なのですか?」

「……深い意味は無い感嘆詞ですわ、1・2・3ダァーーッみたいな事ですわね」

「ほぅ?」

(1・2・3ダァーーッ??)


 シューネは一瞬首を傾げたが、程なくして彼は満足して帰って行った。




 トントントン

 しばらくして依世(いよ)は再び階段を降りて来た。


「んもー何の騒ぎよ? おちおち夜まで寝てられないじゃない。お、こんな所にカップに入った珈琲がっ飲んじゃおーっ」


 喉が渇き何気なく調理場に入った依世は台に置かれた実験台の珈琲を見つけていきなり飲み始めた。


「あっ依世ちゃんソレはダメッ!!」


 ファーストキスとか言い出した辺りから、気配を消して姉の乱行を覗いていたカヤが慌てて止めようとするが時既に遅かった。


「ブフーーーーッ!!」


 依世は可愛い口から3Nメートル程珈琲を吹いた。


(あのお姉さまが、キスの代わりに毒を盛ろうだなんて……サッワ怖いです)


 等と真面目ぶるカヤは姉を追い越し、既にサッワと何回もキスをしているイケナイ子であった。


 



 ー数日後。

 リュフミュラン洋上の神聖連邦帝国大型艦Ⅱ


「シューネ様、魔法レーダーに感あり急速に何者かが接近しています!!」


 ガタッ!

 慌てて振り返るレーダー員。


「何、敵襲か!? ええい迎撃態勢だっ」


 シュバーーッキィイイイイイン

 謎の物体は光りながら甲板に突っ込んで来る。


『シューネウチやウチやっ! 緊急着陸やでーーっ』


 程なくしてボロボロのストラトスフィアは強行着陸を果たしたのであった。

 ギャリギャリズザザザーーーーズシャッ!!




 すぐに同機の操縦席から転がり落ちて来た瑠璃ィ(るりぃ)キャナリーと司令の貴城乃シューネは会談を持った。


「何処行ってたんですか、何事ですかいきなり?」

「ゴメンやで~~ええ機会やから修理して欲しいんや」

「修理てボロボロじゃないですか、困ったお」


 バタンッ

 シューネは瑠璃ィの目の前で突然いきなり倒れた。


「シューネどうしたんや!? ハッこれは伝説の三年殺しやっ誰や誰がこんな荒業をっシューネェーーー目ぇ覚ましてーやー!」


 瑠璃ィは泣きながら泡を吹く彼の身体を激しく揺さぶった。


「瑠璃ィ様、それ以上揺らすと逆に危険で御座います!!」

「医魔班を呼べっ」


 体調を崩したシューネは回復するまでしばしその羽を休めたので御座います。


 ……こうして訳も分からずセブンリーファを救っていた抱悶ちゃんであった。

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