表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

887/1100

突然、二つの道


「カシェリナ、警備兵達は!?」


 カシェリナはエカチェリーナの愛称である。


「皆一瞬でその女の人に……」


 彼女は恐怖の中、必死に声を絞り出した。


「ココ姫様に彼女の保護を命じられたのに、邪魔をして来ましたのでフフ」


 イララと名前を変えたライラはあたかもミニ・ココ姫の様に笑った。


「くっ俺とした事が抜かった……」

(殴ってでも城に連れ込んでおけば)


「スピネルさん、エカチェリーナさん!!」


 とにかくサッワは思わぬ事態にあたふたして左右を見た。


「貴方……」


「スピネルさん……どうするのぉ? 取り敢えず剣を置いてもらえないかしら? わたくし先程からこの首輪の性能を試してみたくてウズウズしていますの、嗚呼うっかり命じてしまいそうに、あっああ~~」


 ココ姫は大袈裟に身をよじらせた。


「私はもういいの逃げて!」

「スピネルさん?」


 コトッ

 あっさりスピネルは無言で剣を置いた。

 

「あら意外だわ……貴方に謝らなければいけませんワ、てっきり女など置いて逃げる物だと」

「お、おいスピネル殿に言い過ぎだぞお前」


「何とでも言えば良い。剣は置いた、絶対に首輪を発動させるな」


 サッワはスピネルが剣を置いた途端に彼女は死ぬのではと想像していたが、ココナはそこまではしない様で一安心した。


「まあスピ様、見ない内に良い子になったようね!」


 ココ姫にしてみれば、早く分裂したまおう軍炎の国の統一を成し遂げ、その後の雪乃フルエレ女王との対決まで視野に入れていたので、スピネルについては真剣に戦力に組み入れたいと考えていた。


「貴方、やっぱり貴方は走って逃げて! もう十分よ。私みたいな一般人と貴方の様な立派な騎士様じゃ元々釣り合いが取れてないの。短い間だったけど貴方と二人で凄く幸せだった。貴方はもっと広い世界で生きる人よ、もう縛り付けたくない!!」


 そう言うとエカチェリーナは突然目の前の食器を取り、火打石の様に首輪に打ち付けようとする。殆どの人があわやっと驚いたが、ココ姫イララだけは冷静に見ている。


「カシェリナっ!」

「エカチェリーナさん!」


 スピネルは走って止めようとするがササッとイララが前に立ちはだかった。

 ガチッ!

 そのせいで食器が本当に首輪にカチ当たった。それでも何も発動しないので、もう一度打ち付けようと食器を振り被るエカチェリーナ。


「止めなさい」


 ばっ

 今度は慌ててクレウが彼女の細い手首を掴んで止め食器を奪った。


「まあっ美しい夫婦愛だわぁ泣けて来ちゃう」


 ココ姫は流れてもいない涙を拭った。


「お前もう止めないか。スピネル殿悪い様にはしない、今は一旦我らの側に付いてくれないか? おいおい首輪は解除に向けて考えよう」


 偶然にもココ姫とクレウは良い警官・悪い警官の定型を成していた。


「貴方もう本当に良いの! 本当に逃げて下さい、ううっ」


 泣きながら両手で顔を覆うエカチェリーナ。


「ココナどうすれば良い?」

「スピネルさん?」

(どうするの)


 彼の一挙手一投足にサッワもどぎまぎする。


「そうね、貴方は魔法封じの首輪を付けてもらって、取り敢えずわたくしに忠誠でも誓ってもらえれば良いですわぁ」


 決断した彼の動きは速かった。躊躇無く片手を差し出すとスンナリと侍女から首輪を受け取り、事も無げに装着した。

 パチリ


「貴方!?」

「元々俺は人望も無い根無し草だ裏切り者で良い。ココ姫、貴様に上辺だけは忠誠を誓おう」


 首輪を付けると今度はいとも簡単にココ姫の方向に跪いた。元々祖国クラウディア王国を捨てた猫名スピネルに取っては殆ど本心であった。


「それで良いですわぁぞくぞくしちゃう」

「スピネルさん……?」


 サッワは今度は自分の身の安全が危うくなり血の気が引いた。


「……そうね首輪カップル同士、もう抱き合って良いですわ!」


 その言葉で衛兵がさっと後ろに下がり二人は人目も憚らず抱き合った。


「ごめんなさい、ごめんなさい」

「安心しろ、俺がなんとかする」


 そう言いながらスピネルはひたすら泣きじゃくる彼女の頭を撫で続けた。




 しばらく二人の抱擁を見ていた一同は、今度は思い出した様に窓枠に片足を掛けたままのサッワに注目した。


「うっ」


 スピネルがあっさり陥落した上、一人では3階の窓から飛び降りる事も出来ない彼は固まるしか無かった。


「済まんなサッワよ、こうなった」


「ねえサッワちゃん、良く考えて……貴方がわたくしの元に戻ってくれば何もかもメドース・リガリァの昔のままに戻るのよ? 他の女王じゃない私が女王様になるの、皆で楽しく面白おかしく好きに暮らすの。その上イララちゃんは心も身体も全て貴方に捧げる覚悟なのよ、今晩から好きに扱って良いのよぉ?」


「ココ姫さま恥ずかしい……」


 赤面して俯くイララを見てサッワはハッとした。


(そうだ、僕は何を緊張してたんだろ? ココナ様は僕の大切な元ご主人でシャクシュカ隊を当てがってくれて、スピネルさんは大好きな兄貴分……一緒に居て何が悪いんだ?)


 気付くと彼は窓枠から足を降ろしていた。

 

「サッワ、それで良いのか?」


 その時、当のスピネルがフラフラとする彼を止めた。

メドース・リガリァ……雪乃フルエレ女王の同盟が成立する時に立ちはだかった最大の敵。南のまおう軍の主にココナツヒメが武器を流し裏で援助していた。その時にココナツヒメ(現ココ姫)とサッワ・スピネル・クレウは出会った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ