純喫茶まおう 前
「えいっえいっ」
冷や汗を流しながら繰り返しジャンプしたり火球を出そうとしてる抱悶を見て、依世は内心焦りまくった。
(ヤベッこんな抱悶ちゃんまおう軍に連れ帰っても役に立たん……これじゃあサッワを見殺しにする事になるわよ)
牢から実力で出る事は出来ていたとしても、彼女なりにサッワには借りを返さないといけないと思っていた。それ以上に姉である雪乃フルエレ女王の大同盟と平和が壊れないか不安で仕方無かった。
「こんなモンじゃ駄目じゃーーっ! 其方らの回復が足りんのじゃっやり直せっ!!」
抱悶の言葉に一同凍り付いた。
「ちょっとアンタね?」
「何このお子様」
まず依世と七華がカチーンと来た。しかし両者ともそれぞれ事情があって強くは言えない。
「その通りだと思う!!」
いきなり抱悶に同意した紅蓮に依世はコケた。
(そもそも僕らが白鳥號でまおう軍領に行ったから……)
(そ、それはそうだけどさ)
(な、頼むよ)
依世は大切なパートナーだと思っていた紅蓮の余りの抱悶への入れ込み様に不安になる。
「しゃあないなあ、明日の朝までに蛇輪返すのやろ? あともっかいくらいやったろうか?」
依世と紅蓮が疲れる中、一番魔力を放出していたと思われる瑠璃ィが快諾した事で再試行する事となった。
「フン、早うせい!」
「すいませんすいません」
不遜な姉の代わりにカヤが平謝りしまくる。
パシュウッキラキラキラ……
皆がヘロヘロの中、再び数十分間の回復連呼が実行された。
しばらくして満を持して紅蓮が飛び降り、抱悶の元に駆け付けた。
「……」
「どう抱悶ちゃん?」
しかし彼女は黙ったまま何も言わない。
「どうしたのよ何か言いなさいよ」
「やっぱり白鳥號を感じんし、力も湧いてこん。飛ぶ事も出来ぬわ……」
詠唱連呼中に彼女なりにいろいろ無言で試行したようだが、全て無理だったようだ。
「そ、そんなお姉さま」
「お、お主らの努力が足りんからじゃ! もっともっと根性入れて詠唱せんかーアホーーッ!!」
突然抱悶はキレた。
「ちょ、ちょっとアンタね?」
「すいませんすいません」
カヤが謝りまくるが、引け目のある依世ですらキレ掛けてしまいそうになった。
バチッ!
が、それまで影が薄かった七華が突然抱悶の頬をぶった。彼女は非力なのだが、相手は11歳の少女なので加減が分からずそこそこの音がした。
「貴方ね、わたくしちょっと事情は分からないけれど、依世や紅蓮がどれだけ苦労して貴方を生き返らせたと思っているの?? まおうだか何だか知らないけど少しは感謝なさい。お礼は言ったの?」
「すいませんすいません」
「七華ちゃん、何もそこまで言わなくとも」
当人の紅蓮アルフォードが両者の間でオロオロした。
「ふぁ、ふあぁ……」
当然皆に恐れ敬われて来たまおう抱悶が非力な美女に頬を打たれた事がショックで泣き掛け目に大粒の涙を浮かべてしまう。
(あ、あら、やり過ぎたかしら……)
優しい七華は相手が小さな女の子だという事を忘れていて少し反省した。
「アホーーッお前ら全員アホじゃーーーっ全員嫌いじゃ、お前ら全員アホの塊じゃーーーわーーーーーーーーっ」
スタタタタ……
突然抱悶は捨て台詞を吐いて逃走して依世と七華はコケた。
「あっ抱悶ちゃん!?」
走り去る抱悶を紅蓮は慌てて追い掛ける。
「ま、まあ何て事かしら?」
元意地悪王女と陰口された割にオロオロする七華。
「七華大丈夫よ、紅蓮に追い掛けられて逃げる事が出来る人間はいないわ。それよか私もう早めに蛇輪を返しに行こうと思う」
(もう置いてても仕方無いし)
「ならウチが乗ろか?」
瑠璃ィがいち早く反応したが依世は首を振った。
「貴方はいまいち信用出来ないわ。貴方は抱悶ちゃんが隠れ住める用に此処の廃れたギルド館を掃除しといて」
「なんやて?」
代わりにシャルに指を差した。
「シャルあんた一応魔力あるなら一緒に来て。私も相当疲れてるのよっ」
「お、おう、良いよ~別に暇だしさ~~」
彼は主人である雪乃フルエレの妹である依世に内心興味ありありであった。
(やった二人きりっ!)
「あの子、何処へ行ってしまったのかしら?」
「さぁ、お腹空いたら戻って来るんじゃない?」
心配気な七華に依世は適当に言い放った。




