蘇生 前
ガシャガシャガシャ!
スナコのル・ツーのゴールに続き、ワンテンポ遅れてリュデュア・セリカのスパーダと一般生徒のXS二機がほぼ三機同時に惰性でル・ツーの背中までに到達した。
カチャッ
それを見て猫呼とイェラが目を細めて同時にティーカップを置いた。
ざわざわ……
この頃になるとそこそこの人数の授業終わりの女子生徒達や部活中の運動部員達が、何事かと固唾を飲んで魔呂グラウンドの端っこに並んで様子を観ていた。そのギャラリー達が口々に一体コレはどういう事ですの? 等と丁寧な言葉遣いでひそひそ話し注視している。
「めっちゃ見てるニャ、イェラなんとかなさい」
猫呼に催促され肝の据わったイェラは躊躇無くスクッと立ち上がると、エプロン姿の腕を真っすぐ綺麗に伸ばした。
サッ!
「勝者、スナコル・ツー千鋼ノ天のペア!!」
ルールも何も知らないイェラは、自分が好きな砂緒を良く分からないまま一方的に勝者にした。
「わーーっ!!」
「何だか良く分かりませんが、すごーーい!」
「何が勝利ですの? とにかくパチパチパチ」
全く堂々としたイェラの判定にギャラリーの生徒達はそういう物なのだろうと一斉に歓声を上げ、これが既成事実となった。
「やったわっ!! 私達が勝ったわっ!!」
「イエーーイ、ル・ツー大勝利っヒャッハーーッ!!」
「わ~~いピョンピョン!!」
聴衆の歓声を受けてル・ツーの操縦席内では一斉に抱き合って喜びあった。
『凄い……スナコさん兎幸さん妹さんおめでとう御座います!』
『ハハハハハ、これでリュデュア殿も人気者間違いナスでござるピョンな!』
『そ、そんな……』
リュデュアが他人事の様に三人を祝福した。しかし二人の会話が依世を冷静にさせてしまう。
「ハッ!? 何くっ付いてんのよセクハラとか最悪! 勘違いしないでよね、こっちは早く蛇輪を借りたいだけなんだからねっ」
突然嫌悪感の籠った顔で砂緒を拒絶して胸ドンする依世。
「はぁ?? 貴様なぞ魔力を使う為だけの動く蓄念池にしか思っておらぬわ、用が終わればさっさと帰えれ帰えれ!」
「まっ何て言い方? 最低よ」
「はぁ~~やれやれピョンピョン」
スナコも依世も腕を組みフンッと背中を向け、兎幸は肩をすぼめて両手を広げた。
ガシャガシャガシャ
そこへユリィーナの壊れたXSに肩を貸す雪布留の蛇輪が現れた。
『あら、やっぱりスナコちゃんが勝ったのね、二人ともおめでとう!!』
さらに雪乃フルエレ女王である彼女が追認した事で完全にスナコが勝者と認めらた。その頃には続々と帰還する魔呂学科生徒達が増えて来て、救助されたユーキュリーネやオープン魔ーに乗るルンブレッタ達も戻って来ていた。
「セレネ教官はどこですの? 実習中に魔法レーダーや緊急通信網が切られていたという報告がありますわっ! 事実なら大変な責任問題ですわよ。わたくしシャケと死闘を繰り広げたのですからねっ」
生徒会長ユーキュリーネはここぞとばかりに声を張り上げるが、肝心のセレネ教官はスナコに負けて以降姿を消して勝手に帰ってしまって居た。
『生徒会長さん、これは何か複雑な魔法システム上の事故みたいなの! 特に魔法レーダーはまおう軍から技術供与されたばかり、きっといろいろ調整不足だったのよね、多分……』
雪布留のこの言葉はそれ以上騒ぐなという命令でもあった。
「生徒会長様、ほら」
書記ルシネーアが慌てて背中を押す。
「……雪布留さんがそう仰るなら……でも事に寄れば大惨事に成りかねない事態でしたわよ!」
(絶対にセレネ王女を問い詰めますわ)
怒りが収まらない生徒会長も不満顔であったが一応それで黙った。
『有難う生徒会長さん』
「いいえ当然ですわ」
ひきつって笑顔で返すユーキュリーネ。
『強引ですわね貴方』
『……降ろすわ』
ウィーン
言われた事は無視して雪布留は掌で壊れたXSからユリィーナを降ろしてあげた。
「ほ、ほら、砂緒早くお姉さまに言いなさい!! 約束でしょ」
「先程まで悪口言いたい放題の癖に。しかし騎士に二言はござらぬ、ならば今言おうじゃないかっ!」
「早くしてよっ」
兎幸が呆れる中、依世は爪先で操縦席を蹴りまくった。
『あーーフルエレ、お取込み中の所悪いのですが、今すぐちょっと蛇輪を貸して下さらぬか?』
『あら砂緒、秘匿通信で急に何事なの?』
依世は冷や汗を流しながら席の後ろに隠れる。
『そ、それがちょっとした野暮用でしてなァハハハ』
砂緒は素直なので演技が下手であった。
『ハハ~ン、また何かするつもりね? ……でもいいわ砂緒の事だもの、またアノ鮭が出てるみたいだし気を付けてね』
彼女は特に理由を問い詰める事も無くすぐに快諾した。
『フルエレ感謝するでゴザルよ!』
ウィーン
早速片膝を着く蛇輪を見て、後ろで依世は肩の荷が下りた。
(ホッ……でも夜宵お姉さまこんな砂緒の事を信用してるのね……)
ユティトレッド魔道王国・地図
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