レース⑩ 決着……ゴール
キキッ
丁度ル・ツーが走り去った直後にオープン魔ーが到着した。
「しまったスナコちゃんが行ってしまった!」
「それよりルン、そこの魔呂の目がやばそうだぜ~~」
蘭観が指を差すと、セレネのXSの目がギラッと光った。無機物なのに殺気を感じてしまう物であった。
『いつも遊んでますね』
「ルン、アクセルベタ踏みだっ!」
「OK!」
ズザッ!
ラフィーヌが叫んだ直後に魔車は急いで走り出した。
一方その頃先頭集団の2ペア。
ガシャガシャガシャ
『うおーーーその綱飾り返せ~~』
ダッシュしたXSが綱を奪い返しに掛かるが、持っている方も必死に掴んで離さない。
『誰が渡す物ですかっ!』
『私も協力する!』
並走しているだけだった相方も奪い合いに参加して来た。
『離せ~~~ぐぎぎ』
『嫌だ~~~』
先頭集団の2ペア四機はゴールである魔呂グラウンドに接近しながらも、醜い綱飾りの奪い合いを繰り広げる。
ビシューーッ!
そこへ両掌から風を噴出して来たリュデュアのスパーダが割って入ろうとした。
『コンニチワあ、あのーー私も奪い合いに参加しても良いでしょうか?』
礼儀正しくわざわざ挨拶してしまう庶民出のセリカであった。
『は? 何よ貴方なんて庶民の癖に名有り機体に乗って!』
『そうよ、少しは遠慮なさい!』
『貴方に私達練習機XSの戦いに割り込む権利は無いわ!』
『黙って見てらっしゃい元敵国出!』
先程まで醜い争いを続けて来たXS乗りの上流階級生徒達だったが、元敵国庶民出のリュデュアの事を許す事が出来ず、突如意見が一致して綱の奪い合いから仲間外れにした。
『あ、あの無理やり奪ってしまいますよー』
等と言いながらもオロオロと指を咥えて後ろを付いて行く事しか出来ないリュデュア・セリカであった。
『おりゃーーー兎幸キィイーーーック!!』
バキャッ!!
そのリュデュアの目前で、奪い合いをしていた一機のXSが消えた。正確には当然現れたスナコのル・ツーにより飛び蹴りをくらってどこかに飛んで行った。
『ヒィッ!?』
『何事!?』
一般生徒達三人もリュデュアも唖然としたが、さらにル・ツーは走りながらクルリと回転した。
『ホワッオラァッ!!』
ドギャッッ!!
今度は走りながらの回し蹴りでもう一機のXSが飛んだ。
『キャーーーッ!』
『エッ?』
『……』
これで残りは先頭で綱を奪い合う二機のXSのみとなったが、お互い相方が急に飛ばされて消えて生きた心地がしなかった。しかもペア相手が消えた事で綱を奪っても勝利条件が満たされるか微妙な立場となった。
『スナコさん暴力的な事は止めて下さい!! 綱は私が奪いますっ』
『およよピョン?』
リュデュアはスナコの有無を言わさないやり方に恐怖を覚え、残りの生徒達を守る為に率先して二機に接近した。
『ひっ』
『どうするのよコレ』
ガシャガシャガシャ
戸惑う二機の間に遂にリュデュア・セリカのスパーダが腕を伸ばし割って入る。
『すいません、綱奪いますっ!!』
『渡さないわ意地でも』
『そ、そうよ』
等と言いつつも先程よりも綱を守る力は弱弱しかった。それは後ろで恐ろしいル・ツーが目を光らせているからであった。
『う、奪えない!』
それでも大人しいリュデュアはなかなか綱を奪えない。
『何をやっておるのですか?』
「もうゴール直前よっ!!」
「負けちゃうよ~~」
ル・ツーの操縦席内でもやきもきし始めていた。
「仕方ない、リュデュアを尊重するつもりだったが、我らで綱を奪います!!」
スナコは蹴ったりしないで普通に綱飾りを奪う事にした。
「ふぅ最後ね」
ドシュウッ!!
依世の言葉を合図に再び魔法の光と羽を噴き出すル・ツーは猛ダッシュを始めた。
『おりゃおりゃおりゃおりゃ』
ギュィーーーン!!
恐ろしい勢いでスピードを上げるル・ツーは一気に先の3機に交わった。
『オラァッ!!』
ぐるりんっ!
ル・ツーは走りながら前のめりで大回転すると、カカト落としの要領で目の前のXSの間から綱飾りを脚に絡め奪い取った。
『きゃあっ綱がっ』
『スナコさん!?』
「スナコ目の前っ」
ズザザザーーーッ!!
兎幸の声で慌てて急制動を掛けたル・ツーの足先は、猫呼とイェラがお茶をする白いテーブルの本当に直前であった。




