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レース⑧ 2VS2の戦い


「砂緒?」


 依世はスナコの態度の変化を敏感に感じた。


「兎幸先生、後を頼む」

「あいあい!」


 ガタッ

 ひとこと言うとスナコは席を立って無言で操縦席から出ようとする。彼にとってはセレネはもちろんメランも余り戦いたくない相手であった。


「こらこら何処へ行く? 勝ってリュデュアを人気者にするんじゃ無かったの?」


 依世に言われてスナコは夜道で突然出会った猫の様にハッと眼を見開いた。


「忘れてたんでしょ~~?」

「いえ、そんな訳無いでしょう」


 当然忘れていた。




『セレネよ例え愛する貴方相手とて今は負ける訳には行かぬ、その飾り綱返してもらおう! そしてメランそなたは我が昔の女、戦いたく無いゆえここは大人しく身を引いてくれぬか?』


 依世はビクッとした。


(え、こんな奴の昔の女!?)


『誤解される様な事ゆーなっ! 砂緒さんとは最終決戦前に手短の男女がくっ付く現象のアオリで仕方無く気の迷いで告白しただけで、付き合った実績は無いわっ!!』


 メランはル・ツー風SRXの操縦席内で牙を出して怒った。


(ホッそんなこったろーと思ったわ!)


 何故かホッとしてしまう依世であった。


『砂緒、あたしはどうしても貴様に負ける訳にはいかんのだ。この綱飾りは渡すつもりは無』


 ザッシャーーッ!!

 セレネが話している途中で命知らずの一般生徒がセレネのXSから綱を奪い、一旦止まっていたレースは否応なく再開した。

 ズシャズシャズシャ


『もーーらいっ!』

『貴様ーーーっ!』


 セレネが叫んだが、後の祭りであった。


「あーーー泥棒猫!!」


 依世が叫び、スナコとセレネとリュデュアとメランと残りのペアの魔呂達も一斉に走り出した。


 


 ほぼ同時に走り出したメランとスナコの似通った魔ローダー同士だったが、ほぼレースには無関心のメランがスナコのル・ツーをコカす様にスライディングして来た。

 ズザザザーーーッ


「危ないっ!」


 ぴょいーーん!

 寸前の所でスナコは軽くジャンプしてメランの攻撃を避けた。


『砂緒さん逃げるなっ! 最終決戦前とは言え貴方の様な変人に告白してしまった身の毛もよだつ自分の弱さという過去を捨て、そして奪われたル・ツーという誇りを取り戻す為に此処で勝負よ!』


 メランはどんどん先を走る綱奪いペアを度外視して、SRVの様に木剣をル・ツーに投げた。

 パシッ

 反射的に受け取るスナコのル・ツー。


「身の毛もよだつて」

「酷い言われ様だピョン!」

「さも……ありなん!」


 スナコは此処でメランの勝負を受け、もう彼女を倒すしか無いと悟り木剣を構えた。




『セレネ教官待って下さい! 貴方滅茶苦茶です。教官が突然ルール変更するまで私達が優勝寸前でしたっ取り消して下さい、でないと私が貴方を倒します!!』


 一人無視され気味のリュデュアが、セレネの一般生徒用XSに並走しながら風スキルを送る構えを見せた。

 カシャッ!


『ほほう、貴様程度の実力でこの教官に盾突く気か、よかろう勝負に乗ってやろう!!』


 ズザザーーッズシャッ!

 セレネのXSも急ブレーキを掛け、メランと同じ様にSRVから預かった木剣を投げた。


『では、お願いします!!』


 リュデュアのスパーダも片手で木剣を構え、片手掌で風を送る体勢に入る。




 一方セレネ達がバトルを始めた事にかこつけ、綱を奪った一般ペアに残った最後のペアがちょっかいを出し始めていた。


『ちょっとその綱渡しなさいよ!!』

『なんでよっ!』


 ばばっ

 綱飾りを奪う為に腕を振り回す後発ペア。必死に避ける先行綱奪い娘。


『そういうルールなのよっ』

『なら私達も走りながらバトルよ、えいっ!』


 横槍ペアが走りながら綱奪い娘にタックルを仕掛ける。

 どぼっ


『きゃっ!?』


 突然のタックルを受け、よろけてしまう綱奪い娘。

 ぱっし!


『取ったど~~~!』


 今度はタックルをした子のペア相手が、無理やりよろけた娘の魔呂から綱飾りを奪った。


『ギャーーッ泥棒よ!!』

『返せゴラーー』


 良家の子女達とは思えないとても醜い奪い合いが始まった……




 ースナコVSメランに戻る。


「依世、仕方が無いハイパワー的モードの再開です!」


 容赦の無いスナコはメランを一瞬で葬り去ろうと決めた。

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