レース⑥ ニナのカナヅチ
ピピピ
またもや兎幸魔ローンレーダーが反応した。
「この近辺を捜索した所、二組程のペアが今まさに海に飛び込もうとしてるよ。その2ペアが同率首位の様だピョンよ!」
セレネ教官は、この徒競走が夫婦岩の綱飾りを最初に持ち帰ったペアが勝利としか言っておらず、ルールがいい加減な為に先に綱飾りを取った者が事実上の勝者となり、もはや帰還の徒競走は無意味となる物であった。
「ヤバイ、早く私達も綱飾りを取らなきゃ!!」
本来依世にとっては誰が勝利しようともこの実習が早く終わり、蛇輪が空くのを待てば良いだけなのだが下手に砂緒を勝たせるとか約束してしまった為、もともと負けず嫌いの性格が災いして抱悶を生き返らせるという最初の目的を忘れ掛かって来ている。
「分かっておるわ、両腕など無くとも今から我がメダル級スイミングを良く見ておれ!」
物凄い勢いで走り続けるル・ツーは、言う間に遂に志摩地区北海岸に辿り着いていた。
『あ、あの私は?』
今まで腰にぶら下がっていたリュデュアのスパーダが一旦浜辺に降りて戸惑った。
『セレネ教官は綱を取るのが二人同時かどうか明示して無かったから、此処で待っててくれても良いピョンよ!』
『え、それってズルじゃ!?』
しかしそんな彼女を無視して早速スナコのル・ツーは海に飛び込もうとしている。
「行くぞっウルトラほにゃーーーっエイッ!!」
バシャーーーン
謎の鼻歌を歌いながらスナコは軽やかに海に飛び込んだ。
シィーーーン
しかし途端に操縦席内のスナコの様子がおかしくなって来た。
「うぐっ!? 足つった!! 息が出来ないっヒィッッぐるじい、た、助けてェ!?」
「ちょ、ちょっと落ち着きなさいよ」
「砂緒落ち着いて君が水の中に居る訳じゃ無いピョンよっ!」
しかしスナコは首を押さえてもがき苦しみ始めた。
「ヒィイイ、実は拙者まともに泳いだ事が無いばかりか水が大の苦手でカナヅチなのでござるよ」
「今頃そんな事言ってるの??」
スナコのコンディション異常の為か本来泳ぎが得意なル・ツーがどんどん海底に沈んで行く。
ガシィッ!!
「!?」
バキィッ!
と、さらに運悪く最終関門として待ち構えていた水中用に改造されたはぐれSRVの長いカギ爪がル・ツーの新設されたばかりの脚に掴み掛かった。
ごぽごぽごぽ……
「ひっ地縛霊みたいな水中用SRVが海底に引きずり込んで行ってるわよ!」
「スナコしっかりするピョン! 他の生徒達も引きずりこまれているよーー」
もはやセレネの執念は誰一人として無事に返さないという酷い物になっていた。
『はぁーーーーー強き風よ出でよ!!』
このままズルズル海底に引きずり込まれるかと思った瞬間、慌てて飛び込んだリュデュアのスパーダが助けに来て水中で風のスキルを撃ち始めた。
ズリュリュリュ……
風のスキルはうまい具合に水流となって水中用SRV達を巻き込んで弾き飛ばして行く。
ごぽごぽごぽ……
蛇輪に襲い掛かったSRVが消え去ると、スパーダは続けて他の生徒達に襲い掛かる機体も攻撃して回る。地上のはぐれSRVが割と自己主張が激しかった割に、水中用はぐれSRV達は無言のカニの様に泡を立てて消えて行った。
ゴポゴポゴポ……
『た、助かり申した感謝致すピョンよ。しかし拙者実は泳ぎが不得意にてこれ以上は』
『任せて下さい!! うりゃーーーーー』
リュデュアのスパーダは再びル・ツーの腰に手を回すと、今度は足の裏から強き風のスキルを出し始めた。
『もっと強き風よ出でよっ!!』
バシューーッ!!
途端にスパーダは水中モーターを内蔵でもしているかの様にスムーズに海中を進み始め、泳ぎを再開していた他の二組のペアを追い抜きに掛かる。
『助けてくれたのは感謝するけど』
『私達も負けられない!!』
『同じくっ!!』
必死に泳ぐ通常のXSペアだがスパーダのスキルが噴出する勢いには勝てず、追い抜かれると徐々に差が開いて行く。
『す、凄いリュデュア殿のスパーダのスキルがこんなに便利とは……感謝するピョン』
『うふふ、少しはお役に立てそうかしら』
シュゴォーーーーーッ!!
スパーダの活躍により、夫婦岩は目前に迫った。




